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六喰の鍵師  作者: 長月 こたつ
エルフの里編
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4.鍵

 視界に写るのは見知らぬ土地に建造物、そして見たことのない容姿の人々。それらを差し引いても有り余るほど、紅葉は鍵について興味をそそられていた。


 グインに教わった通りに、道をひたすら走って行く。

 行き交うエルフの視線が紅葉に厳しく刺さっているが、当の本人は気付かないでいた。

 建ち並ぶ家々が疎らになり、果ては人も居ない森に面した大きな広場にたどり着いた。

 道と呼べるものは、そこで終わっていた。


「…かっしいな?」


 頭を掻きながら辺りを見渡す。おおよそ人の気配は皆無だ。

(…まさか、じいちゃんに騙されたのか!?)

 グインの人の悪い笑みを思い出し、一抹の不安が過った時だった。


『思っていたより早かったな』


 不意に響いた声に辺りを伺うが、やはり誰も居ない。


「誰だ!居るなら出てこいよ」


 広場に響くように、中央へと赴き叫ぶ。


『そう警戒するな。こっちだ、こっち』


 声は帰ってきたものの、やはり誰も居ない。


「おいおい、マジかよ…」


 背筋にうすら寒いものを感じながら、辺りの警戒を強める。

 ここが日本なら、きょろきょろし過ぎで確実に挙動不審者として通報されているレベルで。

 そんな紅葉を見兼ねてか、相手は隠そうともしないあからさまな溜め息を溢した。


『はぁ…そこから大きな巨大樹が見えるだろう?そこまで来い』


 聞こえた瞬間にびくりと肩を震わせるが、このままでは埒が明かないと、奥に聳え立つ巨大樹へと向かった。

 巨大樹の目の前にたどり着くと、声を張り上げ紅葉は叫んだ。


「おい!誰だかしらねぇが、来たぞ。姿みせろよ!」


 巨大樹を背にして、辺りに隈無く視線を走らせる。

 しかし、謎の声は意外な事を告げた。


『いや、ずっと見えてはいたぞ。今は後ろだが』


 それを聞き飛び退いた紅葉は、まじまじと巨大樹を見つめ。


「まさかな…」


 紅葉が己の想像を一蹴したのも束の間。


『やっと気付いたか』


 声が紅葉の想像を肯定するかのように告げた。


「…この声は巨大樹からか?」

『そうだ。初めまして、巨大樹こと私がサージだ。久しぶりだな紅葉』


 意気揚々と語り出した巨大樹、もといサージ。

 紅葉は改めて巨大樹をまじまじと眺めた。成人男性が10人手を繋いでも、半分囲えるか怪しいほどの巨大さ。いったいどれほどこの地に根をはれば、ここまでの大きさになるのか見当もつかない。

 しかし、言っておかなければならないことが紅葉にはあった。


「俺には木の知り合いは居ない!」

『まぁそれは置いといて、何か聞きに来たんじゃないのか?』


 紅葉の叫びはものの見事に切り捨てられた。


「あぁ、その前にひとついい?」

『別にかまわん。時間ならいくらでもある』


 風に吹かれて揺れるサージを見上げる。


「サージって聖樹的な解釈で良いのか?」

『精樹…間違ってはいないな』

「やっぱ敬語とか必要なわけ?」

『いや、必要とはしていない。だから、そのまま続けろ』

「おぅ、助かる。敬語とか苦手なんだ」


 話す体勢を整えるべく、胡座をかき正面に腰を降ろした。

 掴み所のない自称御神木は、紅葉が喋り出すのを静かに待っている様子だった。


「んじゃ、早速だけど。俺に精霊魔法っての、使い方教えてくれ」

『これはまた、驚くほど率直だな』

「あ?だって、あんな楽しそうなもん、出来るならやりたくなるだろ?」

『そう言う意見には賛成だ。ただそうなると、教えるだけの私が面白くない。さて、どうする?』


 突然の要求に紅葉は頭を抱えた。

 何も持たずに来てしまった異世界では、出来ることも少ない。


「う~ん、ありきたりだが何か一つ言うこと聞くとかどうだ?」

『はは、それは面白い。交渉成立だ。…さて、教え終わった暁には何をしてもらおうか』

 

 ほのかに感じた黒い気配を、紅葉は敏感に察知した。


「で、出来る範囲でだぞ!無茶なやつはなしな!!」


 慌てて追加の条件を提示するも、曖昧な返事で躱されてしまった。

 教えて貰う約束は取り付けたものの、一抹の不安を抱えたのもたしかだ。しかし、後の事を考えても仕方がないと、立ち上がり付着した砂をはたいた。


「じゃあ、早速やろうぜ!何からすれば良い?」

『そうだな、お前のようなやつは聞くより慣れた方が早いだろう』


  期待に胸を膨らませ、次に続く言葉に熱い眼差しを送る。

 そんな思いとは裏腹に、サージは淡々と手順を伝えて行く。


『精霊魔法は源となる精霊力エレメントを使い、それを形にするための想像力が必要となる。しかし、何をおいても精霊魔法を使うには、それらを1つに結ぶ媒介…鍵を出さなければ始まらない。よって、鍵を出せなければ話にならない』


 うんうん頷いていた首を傾げる。


「で、結局鍵はどう出すんだ?」

『言っただろう?精霊力と想像力。まずは鍵を想像し、顕現させる。それだけだ、簡単だろ?慣れれば意識しただけで出せるようにまでなる』


 さぁ、とっととやれと言わんばかりに押し黙った。

 ぞんざいな気のする説明だったが、何となくは理解出来たのだろう。

 右手を正面に突きだし、想像する。


「鍵…鍵ね…鍵…」


 目を瞑り、ぶつぶつと呟く。エルフの小さな少女が出していた鍵、突如現れ自分を護った鍵を思い浮かべる。

 その様子を静かに見守るサージ。

 カメラのフラッシュが焚かれたかの様に、一瞬だけ光が走った。


「あ、出た」


 まぬけな声だったが、その手の中にはしっかり鍵が握られていた。

 昔の鍵を彷彿させる形だが、その見た目と違い重さを感じない。


『………ふむ、こんなにあっさり出されるとはな。数日は頭を抱えて、悩み悶えて貰うつもりだったのだが』


 少し変な間が明いたが、さらりと続けざまに毒づいた。


「悩み悶えるって…」

『いや、実際に驚いてはいるんだ。まぁ一握りだが、お前の様に直ぐに出す者もいる。しかし、逆に数日、数週間…長いものだと数ヶ月掛かる者までいるからな。それを踏まえると、やはり驚かずにはいられない。だが、手放しで誉めてもいられない。無駄な精霊力が漏れた為に、発光しただろう。まだまだだな』


 息を吐くかの如く、毒を吐き出す。

 しかし、分かっていながらも乗らずにはいられなかった。


「ふぅーん…なら発光しないように、して、やろうじゃないか!」


 しっかり安い挑発を買い受け、鍵を出しては消しての単純作業が開始した。






 当初は天高く昇っていた太陽が沈み、広場も茜色に染め上げていた。


「はぁ…はぁ…どうだ、この野郎…」

『まったく期待はしていなかったのだが、よもやここまでやるとはな』


 大の字で地面へ転がっている紅葉に、サージは感嘆を込めて言った。

 かれこれ4時間ほどを、休みなく鍵の出し入れに費やした。

 その甲斐あってか、漏れ出した精霊力の発光現象も完全に絶つことができた。

 のだが、ここまで来てサージから予想外のコメントを聞いた。


『しかし、ここまでせずとも精霊魔法を修得していく段階で、精霊力の扱いにも慣れ自ずと鍵の制御も上達していくのだがな』


 地面でへたっていた紅葉は頭だけを擡げ、巨大樹を睨んだが。


「……はぁ、もうキレる気力すらねぇ」


 諦めて脱力した。


『今日は無理だろうから、本格的な精霊魔法の実施は明日からだな』

「誰のせいだよ、誰の」

『お前が勝手に頑張ったんだろ』

「…もういいよ」


 口では勝てる気がしないと諦めた紅葉は、早々に白旗を振った。


「そういや、サージは何で俺が異世界から来たって分かったんだ?


 ふと、ここまでの流れを思い出していて、村長のグインがサージから聞いて森に来たことを思い出した。


『なに、森の木達が教えてくれただけだ。変なヤツが降ってきたと』

「…変なヤツって」

『それで、降ってきた変なヤツと行使された精霊魔法の特徴を聞いて、異世界から来たのだろうと判断した』

「ふ~ん、異世界人は良く来るのか?」

『いや、私の知る限り…異世界からの訪問者はお前を含めて2人だけだな』


 紅葉は話をちゃんと聞くため、身体を起こした。


「そのもう1人はどうなったんだ?」

『確か元の世界には帰らず仕舞いだったはずだ。お前は帰りたくないのか?』


 その当たり前な問いかけに、紅葉は茜色の空に視線を移した。


「そーだなぁ…いつかは帰ってやらなきゃならないことはあるけど。今すぐ帰っても意味ないだろうし…当分は別に良いや。こっちの方が有意義に過ごせそうだし、何より楽しそうだ。ここの世界は俺でも魔法使えるみたいだし」

『そうか…』


 サージはあまり深くは聞かず、物思いに耽っている紅葉を見つめていた。

 しばし沈黙が流れ、心地よい風が肌を撫でた。


「さてっと、そろそろ日も暮れたしじいちゃん所に帰るな」

『明日からは本格的にやるから、ちゃんと休息を取るんだぞ』

「へいへい…うわぁ、砂まみれだ」


 寝そべっていた為に付着した砂ぼこりを、必死にはたき落とす。


「じゃ、また明日な」

『あぁ、迷子になるなよ』

「なるか!」


 最後まで毒づいたサージに別れを告げ、グインの家へと駆け出した。

 数分後、結局サージのもとへ戻って来た紅葉は、馬鹿にされなが道を聞くはめになった。


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