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六喰の鍵師  作者: 長月 こたつ
エルフの里編
18/63

18.どぅーゆーすぴーく?

 精霊武器、受け取り当日。

 朝早くから、紅葉はサージのもとにいた。

 遠足日の子供のように早起きした紅葉は、朝食を沢山食べ、手伝えるようになった皿洗いをしてから家を出た。

 ただ朝食時に、紅葉が洞窟での置き去り事件について、グインに愚痴を溢したのはご愛敬。

 朝が早かった為か、サージの所に少し顔を出していたルシアに出会った。今日が受取日だと伝えると「…早いな」等と呟いていたが、早く貰えるに越したことはない。

 あまり朝早くに行くのは憚れたので、精霊魔法の修業をして時間を潰していた。

 ニヒル特製の昼食を取り、紅葉はソイルの下に向かった。


 既に一度訪れた場所なので、紅葉は一人で向かった。迷いそうになりながらも、洞窟に響く音を便りにソイルの居る広間を目指した。

 やっとのことでたどり着いた広間の奥からは、ソイルが打っているのであろう金属を打つ音が反響している。


「おーい!ソイルーいるかー!いるんだろー!」


 一昨日のグインの様に紅葉は奥へと叫ぶ。

 金属音が止まり、しばし間を置き。


「だあぁぁぁから!そんな大きな声出さんでも、聞こえとるわあぁぁ!」


 怒れるドワーフが現れた。

 槌を片手に振りかざし、ドスドスと紅葉に近寄る。


「おう、約束通り出来てるぞ。おい、アルコッ!」


 先日も呼ばれていた弟子なのか小間使いかが、その手に木箱を抱えてガチャガチャ音を立てて現れた。


「こちらでさぁ」


 ソイルに木箱を差し出し、その場を離れる…と思いきや、紅葉を見詰める。

 それに気づいたソイルが、アルコと呼ばれたドワーフの頭に拳骨を落とした。凄い音がなった上に、オッサンがオッサンの頭に拳骨を落とす光景は何とも言い難い。


「おら、油売ってないでさっさと仕事しろや!」


 怒られたアルコさんは頭を抱えて、いそいそと戻って行った。


「でだ、武器を渡す前にコレやる」


 投げられた物は綺麗に放物線を描き、紅葉がそれをキャッチする。


「指輪?」


 掴んだ手を広げると、変な紋章入りの指輪が手のひらに鎮座していた。


「聞いて驚け!なんとその指輪は──おまっ!?」


 ソイルがドヤ顔で説明をしようとした時には、既に紅葉は指輪を左手の人差し指に填めていた。


「……はは、何か力抜けた」


 床に寝そべりながら苦笑いを浮かべる紅葉を、ソイルは眉尻を下げ哀れんだ瞳で見下ろした。


「人の話を最後まで聞かんからだろ…その指輪は、サージ様から注文の封精具(クリダリア)だ」


 その言葉を聞き紅葉が顔をしかめた。


「待て待て、お前の言いたいことは分かる、だから先に言うぞ。それはお前を守るための(ゆびわ)だ」

「どう言うことだ?」


 紅葉はかつてサージから聞いた、エルフに使用された封精具を思い出していた。


「封精具って言ってもピンきりだ。完全に精霊力を抑える物もありゃ、制限だけの物もある。…エルフに使われたような物もあるがな」

「そうか…じゃあこれは?俺を守る為って?」

「サージ様から聞いたぞ。精霊力量が急激に上がってんだろお前?もしこのまま上がり続ければ、身体がその成長に追い付けず、体内に許容出来る精霊力量を超えると…」

「超えると?」

「身体が弾けるぞ」

「…………マジか?」

「大マジだ」

「…………………」

「……………。だからそれを止めるための指輪だ。モミジが許容出来る量に抑え、それを超えて溜まろうとする精霊力を抑止してくれるもんだ!どうだ、凄いだろうが!俺が作ったんじゃないけどなっ!」


 がははと大笑いするソイル。

 半目の紅葉がソイルを床から見上げる。


「…あれ、力が入る」


 危なげなく立ち上がり、各部を動かして様子を伺うが問題はないようだ。


「馴染んだようだな。爆死したくなかったら外すなよ。次が本命だな」


 木箱の蓋をあけて紅葉に中身を見せる。


「刀…が二本」

「おうよ!おら、手に取ってみろ」


 刀だと見るや一瞬眉が動くもソイルに即されて、箱から左右の手で刀を取り出した。一本は柄頭から鐺まで真っ白な刀。もう一本はその対局の柄頭から鐺まで真っ黒な刀だった。


 試しにと紅葉は白い刀を小脇に挟み、黒い刀を少し抜き刀身を確認した。

 チャキと澄んだ音を奏でて現れた刀身は、その外見とは真逆の白だった。

 そこで気になる箇所を見つけ、白い刀を床に置き黒い刀の刀身を全て鞘から抜き放つ。


 ───刃がない。


 紅葉が刃の部分を撫でるも、やはり指先が切れる事はなかった。

 数回素振りを試すと、妙に手に馴染んだ。

 握り具合から重さまでしっくりくる。

 白い方はどうだと、黒い刀を鞘に納めようとしたところで、


『──じ』


 紅葉が突然辺りを見回す。


「どうかしたか?」


 ソイルも疑問に思い問うが、紅葉は首を傾げる。


「いや…」

『─るじ』

「……今、ソイル何か言ったか?」

「何も言ってねぇぞ?」


 ソイルが怪訝な顔をする。


「あぁうん、何にも──」

(あるじ)

「──なくはなかったけど…質問なんだが、精霊武器は喋ったりするのか?」


 紅葉が刀を見詰めてソイルに問いかけた。


『聞こえていますよね?』

「……あの時、俺がモミジの頭を叩きすぎたか?大丈夫か、おい?」


 とても心配そうな顔で返された。


「……そうかもしれない」

『そんなわけないです』


 紅葉はソイルに向き直り、真面目な顔で答える。

 そして、ゆっくりと黒い刀を白い刀の隣に寝かせた。


「医者に見てもらうか?」

「いや、大丈夫だ」

『なぜ、無視するのです』


 その間も幻聴は続いているが、紅葉は無視を続ける。

 怖いもの見たさか、紅葉は白い刀を手に取ると高速で抜き差しを繰り返した。これと言った変化はなさそうだと判断し、鞘から抜き放つ。

 こちらの刀身は、やはりと言うか黒だった。刃の部分は先程と違い、恐ろしい程に鋭利だが。

 試しに数回振るが、こちらは少々扱いづらい。しかし、紅葉が気にしていたのは別のことだった。


「………大丈夫、聞こえないな」

『私のは聞こえていますよね?』


 白い刀を振ったが、幻聴が追加されることはなかった。

 それに満足し、紅葉は白い刀を鞘に納めて頷く。


「扱いづらいが良い刀だぞ」

「そうか、そいつぁ良かった!」


 ソイルも笑みを浮かべる。


「ありがとなソイル。早速試してみたいからサージの所に行ってくる」

「そうか!大事に扱えよ!また、いつでも来い」


 ソイルと固く握手を交わし、紅葉は転移扉へと向かおうとした。

 手に白い刀だけ(・ ・)を携えて。


『主、私を忘れてます!』


 紅葉は足早に立ち去ろうとするが、その試みは敢えなく散った。


「ん?モミジ!忘れもんだぞ!」


 ソイルが気付いてしまったのだ。

 作って貰った手前、それを放置して振り切る訳にはいかなかった。


「あ、あぁ…わりぃ助かった」


 紅葉は渋々受け取った。



 


 手には二本の刀を抱え、紅葉はエルフの里側の転移扉前にいた。


「で、何なんだお前?」


 黒い刀へと向け初めて紅葉は語りかけた。


『やっと答えて頂けました』


 やはり原因は黒い刀だった。

 人目があるところでは、今の状況は非常に不味い。ソイルの反応を見たところ、刀の声は聞こえていない様子だった。故に端から見れば、自分の刀に一人で語りかけているヤバイ奴が出来上がる。人前で出来る訳がない。

 それを知ってか知らずか、黒い刀はここに来る迄もずっと語りかけていた。


『私の名は黒天刀。その事に関しましては、主に申し訳ないことを致しました。ですが、逸早く主のお声を聞きたかったのです』


 黒天刀と名乗った刀は自身をカタカタ震わせた。


「黒天刀、それならそう………ぅん?」


 今の口に出してないよな。

 紅葉の眉間に皺が寄る。


『私と主に精霊回路に準ずるパスが形成されました。それにより主の思考は私には手に取るように分かります。指定念話の上位型とお考えください』


 それを聞き紅葉は少し考えて思い至った。

 思考が読めるのなら既に黒天刀には分かっているだろうが、口に出さずにはいられない。


「……俺のプライバシーは?」


『ございません。深層ではなく表面的な思考の読み取りですから問題ないでしょう』


 紅葉は天を仰ぎ見こめかみを押さえた。

 知らされた事実に目眩を覚え、心を一旦落ち着かせる為に紅葉は話題を変えた。


「もう一つの刀の名前は?」


『………白魔刀ですね』


 黒天刀に白魔刀。


「じゃあお前が(くろ)でもう一つが(しろ)だな」

『はい』


 黒は嬉しそうに震えた。


「白も喋ったりしないよな?」

『………どうでしょうね』


 一転して不機嫌になる黒。

 返答するまでの間に、紅葉は不吉なものを感じたが敢えて無視した。触らぬ神に祟りなしだと。


「思考が読めるってことは、口に出さなくても会話が可能か?」

『そうですね。念話の様にしていただければ更にスムーズに行えます』

「念話?」

『今の私や、主の身近で言うとサージ様が該当します。頭に直接響く様な声ですね。サージ様のモノが一般的で、私と主のモノは…秘匿念話と言ったところですかね。少し特殊ですが』


 紅葉にはどうでも良い事実が発覚した。

 サージが念話だった事に、今さらながら気付かされたのだ。


 喋る精霊武器。謎な部分は未だ多いが、ここは異世界なのだ。そんなものが有ってもおかしくはないだろう。気にするだけ無駄だ。ただ刀が喋るだけじゃないか。


 そう自己完結を果たすと心にゆとりが出来たのか、紅葉の中で朝から抱えていた精霊武器への好奇心が顔を出してくる。

 そうなれば、善は急げだ。

 紅葉はサージの所へ向かうことに決めた。


『それでは主。これからもよろしくお願いします』

「ああ、期待してるぞ。」

 

 刀を抱え、広場を目指して紅葉は森を抜けた。

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