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六喰の鍵師  作者: 長月 こたつ
エルフの里編
13/63

13.ルシア家訪問

 ルシアが姿を見せなくなり数日。紅葉は変わりなく広場に訪れていた。


「うはははは!今日こそ灰になれサージ!豪火炎!」


 紅葉の雄叫びと共に、サージを巨大な炎が包み込む。

 轟々と燃え盛る火を見て、紅葉はご満悦だった。

 ルシアと戦闘後の翌日に、遅蒔きながらその事実に気付いた。溢れんばかりの精霊力にはしゃぎ回った紅葉は、こぞって大技を繰り広げた。

 その様子をサージが冷めた態度でいるのは変わらないのだが。


『………………』


 燃え盛る炎が鎮火するも、やはりサージには煤けた所さえ見あたらない。


「あーくそ、やっぱしまだダメか!」

『………………』


 悔しがる紅葉は、次の精霊魔法を思案する。

 左右に体を振りうんうん唸っていると、サージが口を開いた。


『そんなに気になるなら、会いに行けば良いだろ』


 その言葉に、紅葉はピタリと動きを止めた。開かれた瞳は、盛大に泳いでいる。


「べ、別に気になんかなってないしー」


 図星をつかれて焦ったのだろう、何を思ったかその場で意味もなく屈伸運動を始めた。

 そんなことでサージからの追求の手を逃れられる筈もなく、次の一言でまたもや紅葉は停止する。


『なら、そのバスケットに1つだけ残している物はなんだ』

「………あ、あれだ、あれ。運動後に食べるヤツだ」

『ヘェー、ホー、フーン』

「く、棒読み過ぎるだろ」


 憎々しげに睨み付けるも、たいした効果は得られない。

 紅葉曰く、同じ釜の飯ならぬ飯で世界平和は保たれる。何か腹に入れば機嫌向上、仲良くなれる。飯をくれる人は基本いい人。腹が膨れれば、空腹が収まりついでに怒りも収まる。

 これが紅葉である。他者に通用するかは別なのだが、自分がそうだから他も同じだろうと言う考えだ。


『何とも、浅はかだな』

「何がだよ!?」

『いや、こちらの話だ』


 紅葉の考えなどほとんどお見通しなサージは、どうしたものかと考える。

 今回の件は、両者共に引けないことだろう。だが、このままではサージ的にも面白くない。それに、気を紛らわせる為だけに一々絡んでくる紅葉も鬱陶しいのだ。

 そこで、ふと紅葉が勘違い(・ ・ ・ )しているであろう事柄で揺さぶる事にした。


『しかし、このままで良いのか?』


 とうとつに切り出された話しに、怪訝な顔をしつつも紅葉は答えた。


「いや、よくはないけど俺は悪くないからな」

『ルシア…泣いていたな』

「う、俺だって泣きたかったは。グロリアの為に」

『あんな小さい子を…更に女の子だし』

「くっ、だ、男女差別反対!」


 状況はサージ押しの紅葉劣勢。苦し紛れに言い返すも…


『小さい子を…』


 悲壮感を追加して、もう一度繰り返すサージ。

 紅葉もそこが刺となり、あの日の事を消化出来ずにいた。男と女…こと戦いにおいては子供や大人も関係ないと考えている紅葉だが、今は意地の張り合いなのだ。年長者として、今の己の行動は正しいのかと。


「………ああぁぁぁぁもうっ!行く!行けば良いんだろ!!」

『そうだ、最初からそう言え』


 完璧なサージによる誘導なのだが、紅葉は全く気付いていない。

 そして、サージは餌を与えることも忘れない。


『ルシアが戻ってくれば、お前も精霊武器を作って貰いに行け。そうすれば、これまでより更に身が入るだろう』

「マジか!?ルシアが最後の方に使ってた、緑っぽいナイフだよな!っしゃ~!ちょっと行ってくる!」


 言うや否や、紅葉は里の方角へと精霊力をまで使って走りでした。


『まったく、アイツは…』


 呆れると共に、苦笑いでサージはそうこぼした。

 すぐに紅葉が帰ってきて、ルシアの住居を聞いたのは言うまでもない。





「ここか…」


 バスケット片手に紅葉が見上げる。

 そこは里から少し離れた森の片隅。木造2階建ての一軒家がひっそりと佇んでいた。

 里周辺を警備するため、このような立地に建てられた家には、今はルシアしかいない。いや、5年前からルシアしか住んでいなかった。


「誰か居ませんか~」


 そんなことは知らない紅葉は、ドアを叩き応答を待つ。応答どころが物音すらしない事に、首を傾げる。


「居るって言ってたのにな…出かけたか?」


 サージがこの時間なら、哨戒には出ていないと言っていた。

 入れ違ってしまったかと、今日は諦めて帰ろうと踵を返しかけた時だった。カタッ…と、2階部分から微かに物音が聞こえた。外れに建っているため、その音が聞こえたのは幸いだった。


「誰か居るじゃん。あーけーてーくーれー」


 日本でならば、確実に通報レベルの呼び掛けにも声は帰ってこなかった。

 しばし、佇んで考える紅葉。


「こんだけして出てこないなら、ルシアで確定だな」


 当たっているだけに、この確かめ方を否定はしづらい。

 回りに誰も居ないことを良いことに、ここから紅葉は延々とルシアを呼び続ける。


「なぁールシア~。話しがあるんだけど~………………おーい、居るんだろぉ~」


 これを続けること約10分。ついにルシアが折れた。


「ルシア~あけ──」

「うるさい!私は話しなどない!とっとと帰れ!」


 窓から顔だけを出して、早口に捲し立てる。ルシアからの反応に喜ぶも、窓は直ぐ様閉められた。


「ちょっとだけでいいから開けてくれ」

「帰れ!」

「いや、ちょっとでいいから」


 尚も言い募る紅葉に、キレたらルシアがまたも窓を開け怒鳴る。


「だから私は話などっ!?」

「はい、こんちわ。んで、おじゃましまーす」


 ルシアが窓を開けるタイミングを見計らい、飛び込んだ紅葉。驚いたルシアが身を引いたので、窓とルシアとの隙間に滑り込んだ。

 ぐるりと床を一回転し停止する。さて、話しをとルシアの方へと振り向くと、ベットの上に布団の餅が出来上がっていた。


「…あー、ルシア?」

「…………………」


 予想通り返事は返ってこなかった。

 どうしたものかと、部屋を見渡す。この部屋はルシアの部屋なのだろう。所々に置かれている物が、可愛さを兼ね備えている。

 だが、紅葉の知っている女の子の部屋に比べると良く言えば清潔。悪く言えば、殺風景だった。じいちゃんことグインの部屋は、がらくたで溢れているのを紅葉は見たことがあるので、エルフの里に物が少ないと言うわけではないだろう。


 どうしようかと悩んでいると、以外にも餅の方から声を掛けてきた。


「………笑いに来たのだろう」


 少しくぐもった声には、微かに湿り気を帯びていた。


「いや、話しをしに来ただけだ」

「私には…話すことはない」


 一貫して頑ななルシアを前に、紅葉は年上の義務を果たそうと意を決した。


「あの日は悪かった」


 頭を掻きながら、多少ぶっきらぼうではあったが心は込めた。布団で出来た餅を見詰めながら返答を待った。

 しばし、沈黙が続いた。


「…謝ることはない」


 そう、ポツリと呟いた。


「弱い私が、貴様に敗けた。ただそれだけだ。だから、貴様が謝る必要はない」

「じゃあ、なんでサージの所に来ないんだ?」


 紅葉が聞き返すもまた暫く沈黙が続く。

 次第に鼻をすする音が聞こえだした。


「…ぐす。これは…私の問題だ。サージ様には悪いと思っている。最後まで頼まれ事を全う出来ないのは。ぐす…」


 途切れる会話。微動だにしないルシアと、その傍らに佇む紅葉。泣き出した子と、それを見守る者。

 この光景に、紅葉は既視感を覚えた。


「あぁ…」


 ルシアには届かなかったであろう呟き。聞こえていれば面倒だが、幸い反応はない。


 紅葉はゆっくりとベットに近づき、腰を下ろした。

 そして、優しくゆっくりと問うた。


「で、その問題って?」


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