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六喰の鍵師  作者: 長月 こたつ
エルフの里編
10/63

10.修業とは根気と我慢と忍耐で

 痛みで一瞬、視界が真っ白になるが何とか気を取り戻す。痛みにかまけている場合ではない、次弾が来るかもしれないのだ。


「く……」


 痛みで呻き声が漏れるが、視線はルシアから外さない。とんだ修業もあったものだと、けしかけたサージを恨めしく思いながら。

 端から見れば、紅葉もルシアも互いに互いの出方を伺っているように見えただろう。しかし、紅葉が睨み合いやたら続くなと、ぼーっとし始めた頭で考えているとルシアが呆れなが言った。


「何をしている?速く腕をくっ付けろ。それとも貴様は死にたいのか?」


 ああ、そうか。くっ付けないと。

 ノロノロと腕を拾いに行き。


「???????」


 紅葉の頭は混乱した。

 自らの手を鍵を持ちつつも、器用に取り上げ固まる。

 自分で斬り飛ばし、かと思えば拾いに行けと言う。血が足りなくなってきたのか、紅葉の思考は纏まりを見せない。それに痺れを切らせたルシアが、不躾に近づき斬られた腕をかっさらう。


「本当に死ぬ気か、馬鹿者めっ!?」

「ぐっ」


 取られた腕が強引に切断面へと宛がわれ、


「我願う、その癒しの光を持って、その苦痛からの解放を…………精霊の光芒」


 詠唱が紡がれ、暫し集中した後に唱えた。

 鍵から柔らかい光が延び、切断された患部に注がれた。すると、斬られた筋が巻き戻されたようにくっ付いていく。


「……よし。違和感はないか?」


 光が途絶えると、ルシアが訪ねた。

 紅葉はまじまじと見詰めていた切断面から、今しがた戻ってきた腕を眺めた。ぐっと何度か力を入れてみて、不具合を確かめる。


「あぁ…問題なさそうだ」


 その気の抜けた返事に、ルシアは眉を寄せる。


「おい、これも飲め」


 ぼけっとした紅葉の口に、丸い何かが押し込まれる。

 無理矢理飲まされて数秒後、不吉な声が耳を掠める。


『………くく』


 サージの押し殺した笑い声を聞いた直後。


 “ぶしゅうぅぅぅぅ”


 鼻から血を吹き出し、紅葉が仰け反った。


「む、効きすぎたか」

「な゛ん゛だごればあぁぁ!!」


 鼻血を垂らしながら、ルシアに迫る。


「元気になって何よりだ。ただの増血薬だ」

「い゛や、づぐりずぎだろ…ごれば!?ぐぞっ!」


 喚きながら、残っている右手の袖で鼻血を拭った。


「笑ってないで、お前も止めろよ!」

『すまな…くはは』

「サージ、この野郎!」

「よし、そこまで元気なら大丈夫だな」


 サージの元に行こうとする紅葉を、ルシアが遮った。

 怪訝な顔をする紅葉に、ルシアから笑顔で言われたのだ。


「さぁ、続きを再開するぞ」


 紅葉とって、死刑宣告である。


「いや、ちょ!?」


 ルシアはそんな言葉を無視し、鍵を構える。


「始めよう」

「ぎゃああぁぁぁぁ!?!」


 紅葉にとっての地獄は、始まったばかりの様だ。






 日が傾き、空が茜色から濃紺に色を変え始めた頃。サージのいる広場からも、悲鳴と爆発音が鳴り止んだ。


「では、サージ様。私はこれで失礼します」

『また、よろしく頼む』


 大の字で横たわる紅葉を放置し、ルシアが帰宅の挨拶を行っていた。

 今の紅葉の服装は、半袖半ズボンに衣替えを終えていた。ここに来たときは長袖長ズボンであったのは、まだ記憶に新しい。


「はい、空いた時間には必ず顔を出させて頂きます」


 そう言い残し、ルシアは颯爽と広場から駆けていった。

 ルシアが見えなくなると、紅葉がむくりと起き上る。


『なんだ、生きていたか』

「勝手に殺すな…」


 サージの憎まれ口に対して、紅葉の返答には力が入っていない。握りっぱなしだった鍵を消すと、今日の修業を振り返り深いため息を付く。


『お疲れのようだな』

「んあ?これぐらいは、まぁ…慣れてる」


 気だるそうに伸びをすると、身体に付着した砂を払い落とし呟いた。


「……これ、ばあちゃんに怒られんな」


 涼しげな自分の服装をしげしげと見下ろす。


『ニヒルなら、それぐらいどうとでもするだろう』


 気落ちしている紅葉に、慰めの言葉かと思いきや。


『それに、明日もルシアは来るだろうからその服装で来れば良いことだしな』

「げっ!?」

『ルシアが哨戒の間に来ると考えると、毎日来れるしな』

「強くなれるのは素直に嬉しい。精霊魔法を使っての実戦も大事だ。でも、何だろうな…これ」

『明日からが非常に楽しみだ』

「お前はな!?」


 暗くなり始めた空を一瞥し、またもやため息を溢す。


「腹へったから、今日は帰るは」

『期待しているぞ』

「へいへい」


 こうして始まった修業の成果が現れるのは、ほんの少し後になってからだった。




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