4本目
※前回までのあらすじ
俺の名前はタクル。健全な年頃のごくごく普通の男子高校(以下略)
八時四〇分朝のホームルーム開始前の事。
担任に促されて入ってきた転入生は、数日前に会ったばかりのあの宇宙人だった。
* * * * *
銀髪美少女という、日本じゃまずお目にかかれることのない珍しい属性持ちを前に、クラス男子一同は「わぁ」と小さく嬉しい声を呟いた。また女子たちも、彼女にやや見とれるような目つきでいた。
その中でただ一人――俺だけはそれを冷めた目で見つめていた。当たり前だ、俺だけがこのクラスの中で彼女が何者かをしっていたから。
レイさんは大きく息を吸い込み、軽く喉を抑えつつ溜めこんだ息を吐き出す。
「ぐっもーにん、初めまして。私の名前は天道レイ。私のことは、気軽に■■っちって呼んでね★」
クールな顔と似合わない黄色いアニメ口調で、どこまでも軽い自己紹介でクラス全員を相手にした。
『…………』
もちろんウケるはずがない。周囲の反応は無言だったり固まったり目を逸らしたくなったり様々だが、皆が引いているのは確かなことだ。
「おっかしーなー? 二次元が嫌いな人なんていないと思って、あのアプローチだったのに……。ダメだった?」
作り声からややオクターブの下がった本来の声に戻った彼女は首を傾げている。
正直な所、あのあざとい部分は皆許せたんだ。可愛いは正義って言うしさ。けれど……■■の部分が駄目だった。
言葉の意味はよく分からないのに、場の全員が背骨が凍りつく感覚に襲われた。一部の人はおぞましい恐怖に支配されて、死んでいるかのように無反応に陥っていた者すらいる。
「ま、いいや続けよう。こういう時は、とっておきの話をするのがイイかな。みーんなー! 私の名字でもしかしてと思った人もいるかもだけど、私はこのクラスにいる天道拓瑠の親戚です」
その一言でクラス全員の瞳が復活し、その視線を俺へと集中する。特に男子。
おや? どうして俺にへと眼を向けているんでしょうか。
『じー……』
その後レイさん――いや、レイはとんでもない爆弾を落としたのだった。
「そんでもって、タクルの今カノです☆」
さらに俺へと向けられる視線に重圧まで加わってさらに厳しいものになる。特に男子からものが。
……え、え、ええ、えええええ、うええええええ!!
『な〜に〜!!』
クラス一同がハモった声を上げる。ちなみにその中に俺も入っている。
今も昔も、彼女なんか産まれてこのかた居た事なんかないよ! 勝手に履歴を捏造しないでくれ!
俺に彼女なんてできる訳が……言ってて悲しくなってきた。
即座に否定ができるのは、ほかならない自分だけ。当然、誤解が解けることでない。
視線に重圧と怨嗟を籠めた男子陣が……、
「貴様ぁぁぁ!」「裏切ったな!」「変態なお前の事だCまでやったんだろ!」「粛清と断罪を」「タクルがいるから俺達持てない男は平気でいられたのに」「そうだ! 下には下がいるからこその安寧だったのだ!」「まったく。お前のフラれ話を肴に、うまい酒を飲んでいたのに」
お前ら言いたい放題すぎるだろ! あと最後の先生、あんたが一番酷いことを生徒相手に言っちゃダメでしょうが!
『ちょっと男子! あんたら本当に転校生と変態触手がデキていると思っている訳?』
十字架に磔にされかけあわやの所で、俺に助け舟を出したのは意外なことに俺を日頃から毛嫌いしている女子達だった。
「ありがとー、女子たちー!」
俺は女子の方に駆けて行ってお礼をしようとしたのだが……。
『こっち来んな、キモイ!』
打ち上げられて死んだ魚のように濁った眼で罵られた上に、総勢に蹴飛ばされて追い返された。
特殊な性癖を持つ某業界の方々にとってはご褒美なのだろうが、生憎俺はそういったものを持っていない。
……だからそこの一部男子ども! 物欲しげで羨ましそうな顔をこっちに向けるんじゃない! その羨望の眼差しを俺は理解できないし、受けきれないからっ!
「あっはっはっはっは」
「このクラスは面白いね。いつもこうなの?」
「ううん違うよ。あのタクルがいるときだけ皆ハジケていられるんだよ」
「へぇ、興味深い」
さっきから約二名だけ、状況を面白そうに見守っているマコトとレイは楽しそうに笑っている。
「マコト! 笑ってないでフォローしてくれたら嬉しいんだけど」
「しょうがないなあ」
マコトは、「笑っていた間の息が戻るまでちょっと待って」と息を整えてコホンと一息を吐く。
「あー、あー。男子も女子もよく聞いて、そして落ち着いて考えてよ」
マコトの高く騒がしい中でもよく通る声が全体へと伝わり、クラスは多少の落ち着きを取り戻す。
「普通に考えて、皆もよく知っているでしょ。コイツがモテるなんて無いよ。だから、この転校生の言っていることは冗談。そうでしょ?」
「私も面白いものが見れて良かったよ。そうですよ。言ったことは冗談で、私とタクルはできてないよ」
『やっぱりそうか。だと思ったんだ』
オイコラマテヤ!
男女ともにちらほらと「迫真的にしていたけど、半ば勢いでやっていたことが否めなかったんだよね〜」と声が聞こえてくる。
お前らは勢いで級友を「火炙りにしよう」言い出すのか? 危険な奴らめ。
「ありがとうマコト。やっぱ持つべきものは親友だよ!」
「どういたしまして」
俺、よく世間じゃ男女間で友情なんて成立なんてよく言っているけど、そんなことないって本気で信じているんだ。
ここまで友情が育める相手は、男友達でも珍しいってくらいの仲をマコトとは築けている。男子とはよく話したり遊んだりする仲のやつは多いけど、親友とまで呼べるほどべったり仲がいいのは実はそこまで俺は多くない。
彼氏にはなることは叶わなかったけど、お陰で大切に親友を手に入れられたのは大きな宝物だと思う。
だから、マコトが友情を大事にしてくれる限りは、俺だって全力でこの友情を大事にしたい。
「お前たち、もう十分に楽しんだだろ。そろそろ授業時間まで残り少ないんで席に着け。ホームルームを手早く済ませるから」
時計を見ると、始業時間まで残りが八分だった。次は移動教室ありだが、教室がすぐ近くなので余裕は本当はある。
「天道レイさんは、引っ越しや転入手続きの関係で明日からの登校になる。今日は紹介だけでも、先にしておきたったかったとの本人の希望だ。皆、明日から仲良くしてあげてくれ。聞きたいことがあったら各自で聞いておくように」
『はーい』
つくづくノリのいいクラスだよ。
隠してレイの転入のこと、及び自己紹介が済んで彼女は退室を……。
――チョイチョイ。
ん?
俺を手招きしつつ、担任に小さく耳打ちをする彼女。
「おい天道タクル」
「何ですか」
担任の呼ばれたので仕方なく席を立って前に出ていく。
「天道レイが具合が悪いらしい。親戚のお前なら、気兼ねなくできる所もあるだろう。保健室まで案内してあげなさい」
担任の後ろで俺を向いてテヘペロと舌を少し見せるレイ。十中八九間違いない、コイツ仮病だ。
しかしまあ、こんなとこまでやってきた彼女の事だ、なにかあるに違いない。
「分かりました先生」
担任に頼まれた通り、素直に俺はレイを保健室へ案内することになった。
「しかしなんだって、俺のいる高校へ転入してきたんだ?」
授業開始のチャイムは先ほどなったばかりで廊下を歩く人は居なく、教室の横を通る時だけ勉強を教える教師たちの声を感じる。
具合が悪いと仮病で伝えた建前上、保健室へ向かうと向かう俺とレイ。歩くすがら他に誰もいないことを見計らって、俺はレイに学校へ来た目的を聞いてみた。
「それはですね、理由が二つ程あるんですよ」
「二つ?」
何のだろう。馬鹿な俺には、この宇宙人がこの学校に入学してまでしなければいけないことがある理由なんて殆ど思いつかない。
第一に、入学なんてどうやって果たしたのだろうか。入学手続きなんてかなり詳しいことまでは分からないが、少なくとも戸籍がないとできないのではないだろうか。
「何だと思います?」
もったいつけられて質問を質問で返されたが、俺なんかが思いつくのはベタなものが一つだけだ。
「地球侵略……とか?」
「うぷぷ……! 侵略とか……うぷぷ」
俺の返答は失笑を買ったようで、レイは俺の返答に口を強く抑えて笑いを堪えだす。頬はパンパンに張り、堪え切れずに溢れた空気が口の端からこぼれまくっている。
「あんまり笑わせないでください。もしかして『宇宙戦争』と『インデペンデンス・デイ』とか『マーズ・アタック!』とかの映画で宇宙人を覚えた口ですか? 私たちはどちらかと言えば『ET』とか『未知との遭遇』タイプの友好的な方ですよ。あっ、『ウルトラマン』もお忘れなく」
以前にも思ったがこの宇宙人、宇宙人のくせに地球文化にどうしてそうも詳しいのだろうか。
「それは『この宇宙人、宇宙人のくせに地球文化にどうしてそうも詳しいのだろうか』なんて思考の読まれやすい顔をしていますね。そうなんです、割とソコ重要!」
人の思考を勝手に読まないでくれ、それとも俺が本当に読まれやすい顔をしていたんだろうか。うむむ、偶に妄想が口から漏れる前科もあることだし、自信がないぞ。
「そういえば、まだ私の職業をまだ言ってませんでしたね。ある時は宇宙人、またある時は謎の美少女、しかしその正体は権威ある学者……を目指しているしがない学者の助手です」
ラストで一気にショボくなった!?
どうして無駄に前フリでハードルを上げたんだ。そこまでグレートダウンするぐらいならもったいつけるだけ損だったよな?
「最初のコンタクトの時に、私はあなたのお父さんの部下だってことは言いましたよね」
「ああ、そうだな」
「あなたのお父さんがどんな仕事をしているのかご存知ですか?」
それはもちろんと答えようとして、言葉に詰まった。
あれ? 父さんの仕事って何をしているんだっけ?
思い返せば父さんの仕事について聞いたことも聞かされたことも記憶にはない。
「そのあなたのお父さんの仕事がですね、先ほど仰ったしがない学者なんですよ。
その我々が、研究しているのが地球人についてなんですよ。その研究分野は多岐にわたっていて、文化文明、進化の歴史に民族学までありとあらゆることがこの学問には含まれているのです。
それでですね、現在学会へ提出用のレポート作成に追われている多忙な先生に代わって私が、その研究の調査及び報告担当としてこの星へと降り立ったんです」
「それが第一の理由」とレイは人差し指を立て示し、続いて「二つ目といって」中指も立てる。
「さっきのがやって来た一番の本命の理由だったんですけど、この学校に転入した理由は次が本命になります。
会ったときに渡した薬、中途半端なことが十分に承知できていると思います」
あの薬の効き目は確かだった。けれども、エロい気分が一定値を超えるとあっさり効力を失ってしまう。
おかげで、妄想するときは肌色率40%だったものが倍以上の90%でないとアウトになった。しかもたとえ肌色が少なくとも、競泳水着やレースクイーンのようなのボディーラインを掻き立てられる妄想だとこれもアウト。
常時エロを考えているわけでないけども、こうも禁欲的だと溜まるものが溜まってくる。
飢餓ならぬ飢エロスとして、考えなくてもいい時についエロスを追及しそうになってしまう。
「助けてくれ! このままじゃ俺はどうにかなってしまいそうだ!」
レイの肩を掴んで俺は懸命に訴えかける。こっちは、切実なんだ。
「そうそう慌てなすんなって、その為に私がいるんだから。まずはその溜まったリビドーを……」
「おい、どうするんだ!?」
突然レイが俺の右手をとり、自身の胸へととった手を導き入れ……、
――ペタリ。
「ヌいてあげましょう」
これから誤解を招きそうなので予防線を引いておくことにする。
ただの言い訳だとあざ笑うかもしれない。だが俺だって譲れない一線はあるんだ。
俺は貧より巨のほうが好きだ! ツルーン、ペターン、ストーンと聞くだけで空しくなるようなお子様体型は俺の好みではない。
俺の所持するお気に入りバイブルの八割は、ほぼグラマーとムチムチによって構成されており、炉裏などという所持だけで社会的生命が終わりそうなシロモノは一切所持などしていない。
確かに見聞を広げようと手を出そうかと考えたこともあった。――が、しかしだ!
結局、俺はそれに手を出すことなどなかったし、食指が動くこともなかった。
これで俺が何を言いたいかというと、俺は断じて貧が好きな訳ではないのだ。
無いよりあった方がいい!
その考えは昔から変わらないし今だってそうだ。現に美少女姿でのレイを見ていても、顔とかは美少女だから異性を意識できても、反面スレンダーと言えば聞こえはいいが貧相な体の方はあまり興奮しないのだ。
だから、胸を触ったって全然反応するつもりはないし、嬉しさよりも「なんでよりにもよって薄いまな板に触れているんだ」と悲壮感の方がでてくると声を大にして言いたい。おまけに、見てくれはどうであってもその本性は人度見れば人々を狂気へと陥れる容貌をもっているのだからお断りだ。
――だがしかし! だがしかし! だ。
今目の前にいるのは、素性を知らなければ文句なしの美少女で、未発達の絶壁であろうがなかろうがおれが触れているのは紛れもなく美少女の胸に違いはない訳で、ましてや俺が女の子の胸に触れた経験など皆無で、しかもこれが俺のファーストコンタクトだとすれば抑えがたい衝動も湧き出てくることは仕方のないことだと思うんだ。
だから……。
ウジュル、ウジュル、ウジュル――。
そう。例え身体的な好みから外れていても、触れたことであっという間にピンク色の思考に脳内がされてしまうのは仕方がないんだ。
授業中とはいえ、いつ誰が来るともしれない場所で触手生物へとその姿を変貌させてしまった。
「なにしてくれてんだよ!」
『大声で喋っちゃってもいいんですか?』
そうだ。大声なんかだしたら人が来るじゃん。
少しあたりの気配を探っても、幸いなことに今ので人がくる気配はない。セーフ。
ここは職員室のある廊下で、先生達が通ってきてもおかしくはない。もし、通るようなことがあっては学校の廊下という開け場所ですぐに身を隠せるような場所は見当たらない。
『にしても。ナニだなんて……やらしいこと言うね』
ボケなんかしている場合じゃなんいんだ!
間違いなく第一発見者はこの俺の姿をみて大声で悲鳴を上げるに違いない。俺だってそうだもん!
『こんな所に、いつもでも居られるか! 俺は隠れるぞ!』
「ちょっと待って。話を聞いてからでも」
レイが俺を止めておくようなことを言っていたけど、今の俺には聞く余裕も構う余裕もない。
俺は急いですぐ近くにある、主に教員が使っているトイレへと逃げ込んだ。
「行っちゃったか……。あいつは人の話を聞かないかないなぁ」
この作品がアウトかセーフかと問われれば、ギリギリセウトなんじゃないかと思う一二三 五六です。個人的に下ネタは中学生レベルに止めているつもりです。
本作は
・性行為などを連想させる描写……出してません。
・誤解や模倣……触手playはマネできません。
・性的感情を刺激……読者が妄想を飛躍させる分には問題なし。致命的なものは避けているつもり。
以上の観点から問題無しだと思うんですよ。警告あったらそれはそれで、仕方がないだろうと思いますけど。
もしも、あなたがココを読んでいるときすでにそうなっていたのなら、そんなこと考えていたバカがいたんだと笑ってください。
決して上品な言葉ではないので、ここで覚えた単語の意味をパパやママに聞かずないで、できるだけ自己解決でお願いします。気まずい空気になっても知らないゾ☆