3本目
※前回までのあらすじ
俺の名前はタクル。健全な年頃のごくごく普通の男子高校生だ。……と思っていた。
ところがある朝、起きると俺の体は、「触手、触手、触手!」――な化物となってしまった
そんな時、俺の前に現れた謎の少女レイ。
彼女が言うには俺は宇宙人と地球人のハーフで、触手になったのは親父の宇宙人としての血が暴走したかららしい。
暴走の主な原因は『性的欲求の発露』つまり、脳みそ思春期の俺には超ピンチな訳だ。
青春真っ只中の男子は、エロい妄想とともにあるといっても過言ではない。
幸いなことに特効薬はあるらしかったが、薬の副作用が『一生勃起不全を患う』というものだった。
それはなんとかして欲しいと頼むと、副作用の無い代わりに効き目が中途半端な薬を貰った。
それはこれから始まる俺の苦難のほんの始まりの出来事でしかなかった。
* * * * *
「何だったんだろうか、あの時の出来事は」
レイという自称宇宙人に遭遇してから二日が経った。
その時にもらった不思議な薬の効果のお陰か、日常生活で俺の体が触手になるような出来事は無くなった。
あまりの何もなさに、あの朝に体験した不思議な出来事が全て幻だったのかとさえ思う程だ。
もっとも、そのような幻想は、昨晩行った自家発電によってあっさりと崩れ去ってSAN値を直葬されたのだけど……。さすが中途半端な作用だ。
あれは、精神衛生上とても宜しくなかった。
単品で見れば、あれは男の欲望を駆り立てる素晴らしいものだ。だが、している最中にアレにすり替わるのはそうとう上級者向けだった。
例えるならさ、純愛もののシチュを考えているとするだろ? それが一変してNTRとか、スカとかそういったものに変貌してしまう落差に似ている。
だってあの触手、いきなり見たらあまりに肉々しくて想像以上にグロイかった。少し見れば落ち着くのだが、何度見ても見慣れる気がしなかった。
「どうしたんだ? タクルはさっきから物思いに耽っちゃって。――さては久々に次の告白相手でも狙っているのか?」
「アキラ……。確かにこの間までは思っていた通りだった。しかし今の俺は、別の事を考えているんだ」
眼鏡をククイッと抑えて話しかけてくるのは、親友の矢立明。俺はアキラって呼んでいる。眼鏡が示す通りのインテリ派で、知的でクールな印象だと女子の人気があるのがやや憎いが。
俺とアキラは同じ中学の出身だったんだが、クラスが離れていてこの春、高校で同じクラスになるまで交流は無かった。
「ははーん。タクルお得意の心変わりか? いつも思うんだけど、フラれても次の相手をすぐに探そうとするタクルの精神には素直に感心するよ」
「アキラ……お前、さらっと毒を吐くのな」
スッゴク皮肉に聞こえるが、本当はアキラがそういったことを言わないのは知っている。
「違うよ。タクルは、クラスの男子からどれだけ尊敬されているのか知らないだけだよ。いつも皆言っているよ、『俺にもアイツ程の粘り強さがあれば彼女を作れるのにな』って」
「生憎その当人は、場数を踏んでも彼女なんてできそうに無いけどな」
「その時は、僕が恋人になってあげるよ」
「よせやい、気持ち悪いなー」
「冗談に決まっているだろー。元気でた?」
「ああ、少しな」
気遣いは嬉しいんだが……。
「オイ、タクルとアキラの奴がホモホモしいぜ」「どれどれ」「俺も混ぜて!」「むしろ混ぜられたい」「俺は掘られたい」「この中に一人、ガチがいるぞ」
ワラワラと集まる男子陣。どうも俺となら、男子同士の明け透けな会話が気兼ねなく楽しめるということで、よく話しかけられたり話しかけたりする。
そう言った会話をするのは俺個人は楽しいとおもうけど……でも、男にばっかモテてもしょうもない。俺は女の子に囲まれていたいんだぁぁぁ!
理想的なのは、包容力があって優しくて母性に溢れた年上の人とかがいいな。
「そうっ! できるならボインなおねーさんの胸に抱かれて飛び込みたーい。――みーたいなー。うへへへ」
やらかした。また妄想を声に出してしまった。
「うっわー。またあの変態触手がキモイこと言ってる」
俺と左に三つ隔てた席にいる小松菓織に、変態触手と呼ばれてドキッと焦るが別に正体がばれた訳では無いのをすぐに思い出して平静を保つ。
俺の名前が[タクル=テンタクル=触手]の方程式のもとに「触手」と変なあだ名で女子から命名されておりますですハイ。そのあだ名も、名実共に紛れもないものになってしまったのが今は悲しい。
「キモイとはなんだ、キモイとは。俺は全国の正常な思春期真っ只中の健全な青少年の心を代弁しているだけだ! 今日もどこかで、お前のスキな人だってきっとエロい妄想をしているに違いないんだ!」
「アンタの言葉で綺麗な乙女の恋を汚さないで。なるくんはそんなんじゃない!」
「へ?」
「あっ!」
別に引っ掛けようと思ったつもりはないのだが、引っ掛けてしまった。
なるくんて誰だよ? 俺は特定の人物を指して言ったつもりはないぞ。
菓織の顔はみるみるうちに真っ赤になっていき、天狗の面の様になっていく。
こんな級友の面白い事態を見逃さない連中がいる。同族(女子)たちだ。彼らは好みの話題のネタを目聡く発見すると、飢えた肉食動物が草食動物に狙いを定めた時のような瞳で菓織を睨む。
「なるくんてもしかして、C組の三ツ橋成海のこと? うっそー、菓織ってあいつのこと好きだったんだ」「ねーねー。どこを好きになったの? おせーて、おせーて」「もう、告白とかした?」「もしかして付き合ってる?」「いつも普段は拓海君て読んでいたけど、心の中ではなるくんとか呼んでいるの?」
「ち、ちが、そんなんじゃ……」
他の女子に囲まれつつ、必死に言い訳する姿は見ていて愉快に感じられる。
ちなみにあいつとは俺も話をしたことがあったけど、たしか熟女ものが大好きだったんだよな。ストライクは五十路とかなりの年上好きだ。道は険しいだろうが、菓織よ頑張れ!
「タクル君の周りは、いつも愉快なことに事になってるね。ボクも混ぜてよ!」
見ている人も元気づけられる笑顔を持つ彼女の名は、沢浦真琴。俺の貴重な、戦績一分けの相手兼女友達。
「マコトか、別に今は俺が話題の中心になっていう訳じゃないけどね」
そう言って俺は、姦しい女子たちに囲まれている菓織の方を指して言ってみる。
「どんな話になってるの?」
話を聞いてから寄ってきたのではなく、騒がしいから寄ってきただけのようで、真琴は何があったのかを俺に聞いてくる。
「俺に聞くなよ。俺だって、今がどんな話になってるのか知らないよ。そこの適当な女子にきいた方が早いだろ?」
「それはそうなんだけど……タクルのほうが聞きやすい気がしてさ」
「普通は同性が相手の方がそうなんじゃないか」
自分でいって空しくなるけど『全校女子嫌いな異性ランキング』上位に入っている俺なんか、他の男子よりも普通は話しかけづらいんじゃないだろうか。マコトには時折、変わったところがあるなぁと思う。
だからこそ、気になって身近な友人にマコトのことを聞てみたり、それで思い切って告白なんかもしたんだけどさ。
そういえば、俺の告白を聞いたときの反応も……。
『あはははは!』
『どうしてそこで笑いが出るんだよ! 俺は大真面目だ!』
告白をしたら大爆笑された。でも、笑っていたのは馬鹿にしているとかじゃなくて、その笑いはもっと純粋で温かいものだった。
『ゴメン、悪気があるわけじゃないんだ。ただ、君は面白い人だなって。……いいよ』
『え!?』
『――お友達で』
糠喜びさせといての、お友達宣言だった。だけど、そんなの構わず俺は……、
『イイイィィィィヤッフゥゥゥゥゥ!』
歓喜の雄叫びを上げた。
『振ったからてっきり落ち込むかと思ったのに、君はそれでも嬉しかったの?』
『コレを喜ばずにいられるか! だって初めての女友達ができたんだぞ。十五年間の人生で初めてだ。半ばあきらめていた夢がかなったんだ。今喜ばないでどうするよ』
『やっぱり君は面白いな。君の事をタクルって呼ぶからボクの事をマコトって呼んでよ』
『ああ、いいさマコト。今日から俺たちは友達だ!』
『こちらからもよろしく。タクル』
初めてできた女友達。これからは仲良く、大事にしていこうって決めたね。
――なんてことがあったのさ。
「お前らー。席に着け! もうすぐ朝のホームルームを始めるぞ」
教室の戸が開いて担任が入ってきた。先生が来たことで教室の空気は変わり次第に静かになって、席の方へと帰っていく。
「皆、席に着いたか。このままホームルームを始めてもいいがその前に、喜べ男子。この時期に女子の転入生だ」
浮きめき立つ男子達。もちろんその中には当然俺も入っている。
「新しい子ってどんなのかな?」「可愛いのかな」「あえてカッコイイとか?」
女子も女子で、高校を途中で編入してくるなんて珍しい事態なので期待に胸を高鳴らせている。
「約一名にとっては、知っていてつまらないことだろうがな」
なぜそこで、俺を俺を見るのだ先生よ。
「入って来てくれ。自己紹介をお願いしたい」
先生に促され、空いたままだった戸の中から転入生の正体が少しずつ現れてゆく。
それで細長い銀糸のような髪が見えて、その時に俺は転入生が誰なのかを悟った。
その転入生はクラスの誰もが驚きの声を上げそうになる美少女で、何より強烈な個性を放った。
「ぐっもーにん、初めまして。私の名前は天道レイ。私のことは、気軽に■■っちって呼んでね!」
以前からこの作品をきちんと読んでくれた方の中には、最後ら辺で「おやっ?」となった人もいるのではないだろうか。
ハイ、レイが銀髪の設定でその描写を登場回の前回に入れておくのを忘れていました。失敗失敗。長期で気づかんかった……。この作品が上がっている頃にはその部分が加筆されております。大した変化でもないので修正前を既読済みの人は見返す必要はないと思います。
未熟な作者よりでした。