表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「そこ」ではない世界の物語集

ジャンル別漫画キャラクター面接

~スポーツ~


「ジャンルはスポーツ漫画。主人公枠、もしくは主人公が属するチームの主力選手枠に応募ですね。希望する競技はなんですか?」

「はい、セパタクローです」

「あまりメジャーなスポーツではないですね」

「野球やサッカーなんかのメジャーな競技のスポーツ漫画は、世の中にもうある程度飽和状態で、ライバルが多いので。題材の被りが少ないマイナー路線で行こうかと」

「マイナーな競技となると、読者がルールを知らないんじゃないですか?」

「そこは、俺自身も物語の最初は競技初心者という設定にします。読者は俺たちと一緒にちょっとずつ競技のルールを覚えていく、って形にしたいと思ってます」

「スポーツ漫画におけるチームの主力選手というのは、大事な試合中や試合前に限って試合に支障が出るような怪我をすることも多いですが、そのへん大丈夫ですか?」

「平気です! 怪我なんて全然どうってことありません!」

「スポーツ選手志望の台詞とは思えませんね」

「いや、だって、スポーツ選手志望とスポーツ漫画キャラ志望とは、また別モノじゃないですか」

「それもそうですね」




~バトル~


「サブキャラクター枠に応募ですね。あなたの戦闘スタイルを教えていただけますか?」

「基本は剣術。見た目とは裏腹に動きが素早く、跳躍能力が高い。山中など、障害物の多い場所での戦闘を好む」

「あなたのキャラクターについて、わかりやすい外見上の特徴というと?」

「隻脚」

「あなたのチャームポイントは?」

「隻脚」

「ちなみに、もう一本の脚はどうされたのですか?」

「昔、敵に潰された」

「そうですか。では、戦闘や人生におけるあなたの信条をお聞かせください」

「『復讐であれば殺人も許される』」

「はい、なるほど……。信条をうかがった限りでは、なかなか冷酷で攻撃的なキャラクターという印象を受けますね。あなたの基本的性格というのは、どういったものでしょうか」

「攻撃的になるのは復讐を思うときだけだ。俺は、復讐に関わること以外では争いを好まない」

「そうですか。……ところで、あなたの採用に当たっては一つ問題があるんですよ。隻脚というところがですね」

「なんだと。身体に欠損があるのがまずいとでもいうのか」

「いえいえ、それはもちろんいいんですけどね。もしあなたが主人公サイドのサブキャラクター枠を希望するとなると、厳しいことになるんです。というのも、主人公サイドのヒロイン枠に、足の不自由な設定のキャラクターが応募していまして。こちらとしては、今のところ彼女を採用する方向で考えています。足に障害を持つキャラクターを同サイドに二人置く、というのは、立場が近いキャラの特徴が被ってしまうので、望ましくありません。ですから、主人公サイドのサブキャラクター枠を希望しますと、相当競争が厳しくなるでしょう。ただ、敵サイドのサブキャラクター枠を希望するのであれば問題ありません。それに、主人公サイドのキャラクター数はある程度固定ですが、敵サイドのキャラクターは、増やそうと思えばいくらでも増やせますので、倍率は限りなく低いですよ。その代わり、敵サイドのサブキャラクターは死亡率も高いです。数が多くなる分、立ち位置によっては出番も少なく、悪ければ単なる主人公サイドの引き立て役、使い捨て同然の扱いになるかもしれません。とはいえ、それでもここで不採用になって作品に登場すらできないよりは、ロクな扱いでなくても作品に登場できるほうが、キャラクターとしてはるかに幸せだと言えるでしょう。……どうします?」

「言ったはずだ。俺は、復讐以外では争いを好まない」

「というと?」

「…………倍率、低いほうで」




~ラブ・コメディ(少女向け)~


「主人公枠に応募ですね。では、好みの男性のタイプを聞かせていただけますか?」

「そうですね。かっこよくて物腰の優しい王子様タイプに憧れますけど、いつもケンカしちゃう、ちょっと乱暴だけど実は優しい男の子なんかも気になっちゃいます」

「あなたのキャラクターについて簡潔に教えてください」

「はい。明るくて前向きなだけが取り得の、いたって平凡な女の子です。顔だって人並みだし。あ、でもね、顔が平凡っていうのは設定では確かにそうなってるんだけど、絵で見るとその他大勢の女子より明らかに可愛いですから。あたしが平凡な人間って設定は、主層読者の大部分の平凡な少女たちが感情移入しやすいようにそうなってんですけどね、でも、設定はともかくハタから見りゃ、あたしが平均を上回る容姿をしてるってのは一目瞭然ですから。そんなあたしに、読者の大半であろう十人並みかそれ以下の女が感情移入して『私もこんな恋愛したいな(はあと)』とか思ってドキドキときめくなんざ、ハッ、身のほど知らずもいいとこだっつーの! ……あ、もちろん、作中ではそんな自負はおくびにも出しませんけどね。あたしはあくまで平凡な女の子ですから」




~ラブ・コメディ(少年向け)~


「ヒロイン枠に応募ですね。好みの男性のタイプというのは?」

「えっと……。優しい人、です。顔も学力も平凡でいまいち頼りないような人でも、とりあえず優しければそれでOK。あとから美形で頭が良くてお金持ちな男性に求愛されたとしても、私は平凡なほうの男性を選びます」

「自分の容姿をどう思いますか?」

「『あんな平凡な男があんな美人と付き合うなんてありえねー』と周りに思わせるほどレベル高いです。一見高嶺の花だけど、交際相手に求める理想は一般男性に手が届かないレベルってわけじゃないんです」

「では、ヒロイン枠を希望するに当たっての意気込みをどうぞ」

「はい! 少年読者へのサービスは怠りません! 胸でも下着でも尻でもなんでも出します!」




~ホラー~


「主人公枠に応募ですね。あなたのキャラクターについて、基本的性質をお聞かせください」

「はい、私はある程度の好奇心・行動力は持っていますが、特殊な能力なんてものは特になく、いたって平凡、超常現象に対しては無力な人間です。怪奇現象に遭遇しても基本的にはそれに振り回されてばかりです。ちょっと人より機転が利くので、危機的場面で一旦は危険から逃げ出すこともできますが、結局逃げ切れず、すぐまたピンチに陥ります。あきらめが悪いので、最後までしぶとく生き延びようとします」

「バッドエンドでも大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません」

「グロ、スプラッターは大丈夫ですか?」

「大丈夫です! 腸でも心臓でも脳みそでもなんでも出します!」




~ギャグ~


「主人公枠とサブキャラクター枠、どちらでも構わないということでよろしいですね?」

「は、はい」

「ギャグ漫画のキャラクターに必要な能力はなんだと思いますか?」

「えーと、それはやっぱり、ボケとツッコミ……ですか?」

「それもそうですが、ギャグ漫画キャラに必要なのは、なんといっても丈夫な体、そして超人的回復力です。作品や作中での立ち位置によっては、バトル漫画の主役などよりはるかに強靭な肉体が不可欠となるでしょう。拳、蹴りはもちろんのこと、バットや木槌や金棒、場合によっては拳銃や刀で急所を攻撃されても死なない体が必要になるのです。殴られたあと頭髪がどこに行ったのか不可解な巨大たんこぶを盛り上げる能力、あらゆる怪我にはどこからともなくバッテン型の絆創膏を出現させ自動で貼り付ける能力、なんてものも重要ですね。そして、ストーリーに関わるもの以外の怪我は、怪我をした次のコマまでには治せるようになっていなければなりません。それから、筋力も必要でしょうね。突っ込みの一手法として、ボケた相手を数十メートル先に落下するのではないかと思うほど高々とぶっ飛ばすものがあります。また、ボケとしてぶっ飛ばされるのなら、当然そのあと落下してもほぼ無傷で生還できる肉体が必要です。……と、ざっと説明しましたが、あなたはどうでしょう。ギャグ漫画キャラクターにふさわしい頑丈な体をお持ちですか?」

「だ、大丈夫……だと、思います」

「では、試させていただきますね」


 バキィッ!

 ひゅーん

 グシャア!


「……ああ、どう見ても回復不可能なほど潰れてしまいましたね。これだけ内臓の飛び出る死に方ができるなら、むしろホラーのジャンルへ応募されたほうがよろしかったのでは。今さら遅いですけど。自分の適正を見極めないとこういうことになるのが、漫画用キャラクターという存在の怖いところですね。

 ともあれ、今回は不採用ということで」




 -完-




全体的に、ベタなタイプの漫画の面接だったと思われます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ