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彼の望み、彼女の願い

 とある王宮の一室、そこで皇太子と皇女はいつものようにお茶を楽しんでいた。


「――どうぞ、アルフォンスお兄様」


 皇女が手ずから淹れた紅茶を受け取ると、蜂蜜色の髪と瞳の皇太子は貴婦人達を一目でとろけさせる微笑みを浮かべた。


「今日のお茶もいい香りだね。君が淹れてくれるお茶は、たとえ毒入りでも美味しいよ」

「今日の毒はシーダ地方でしか採れない、カッツァ茸の粉末ですわ」

「ああ、あれね。また今回も珍しい物を探してきたものだね」


 非常に物騒な会話を、二人はにこやかに交わす。皇女は自分の従兄弟であり、このままだと将来の夫になる青年の変わらぬ微笑みを眺め、ほう、と溜め息をついた。


「また駄目でしたのね。お兄様は、本当に色々な毒に耐性をつけておられて……困ってしまいますわ」


 淡い金髪と琥珀の瞳の皇女は、可憐で愛くるしい容姿を憂いに染めてさらりと兄(従兄弟)の殺害計画を口にする。しかし、皇太子はにこやかな微笑みを微塵も崩さない。


「もう諦めたらどうかな? フェリーシア。僕は君をとても大事にするよ?」

「私の足に鎖を繋ぎ、高い塔に閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくないくらいに、――でしょう?」

「よく覚えてくれてたね、フェリーシア。その通りだよ、愛してる」

「とっととくたばって下さいな、変態」

「嫌だなあ、勿論、本当にはしないよ? 王妃を塔になんて閉じ込めるわけにいかないだろう? それくらい愛しいということだよ」


 皇女の辛辣な言葉にも皇太子は穏やかに笑うだけだが、その瞳に宿るのは、ねっとりとした甘い毒。


 彼の本心を感じとった皇女は、逆に瞳を冷たく凍らせる。


「早いとこ死んで下さいな、お兄様。ご心配なさらずとも、この国は私がしっかりと守ってみせますから」「勘違いしないで欲しいな、フェリーシア。確かにこの国のことも気になるけど、僕が心配なのは君だよ? 確かに君なら女王として上手くやっていくだろうけど、僕以外の男を王配に迎えるなんて、絶対に認められないね。何があっても僕は君を妻に迎えるよ、王になってね」



 あと一年で皇女は18となり、成人する。それを待ち、現王の甥であるアルフォンスは皇女と婚姻を結び王位に就くこととなっている。

 直系の皇女だが、女の身であるフェリーシアと、男で、優秀だが、王佐である王弟の息子であるアルフォンス。王宮内部の分裂を防ぐ為の措置だった。

 当事者の一方はそれに歓喜したが、もう片方は決定した時に卒倒する有様だった。


「 あと一年だね、フェリーシア。そろそろ君のドレスを手配しておかないとね」

「それよりも、お兄様の御葬儀に着る為の黒いドレスが欲しいですわ」

「随分と気が早いね。君より先に逝く予定はないから、安心していいよ、愛しい僕のフェリーシア」

「あら、気が早いのはお兄様の方ですわ。誰が誰のものですって?寝言を仰るのはやめていただきたいわ、お兄様」

「ははは、そうだね。あと一年待たないとね」

「ふふふ、そんな日は来させませんわ」


 美しい皇太子と皇女。まばゆいばかりにきらきらした光景の筈なのに、絶対零度の空気で凍りつく程に寒々しい。


 二人の運命が決まるまで、あと一年。


「……あの人外の化け物をなんとか滅することが出来ますように」


 今夜も呟かれる皇女の願いは、はたして叶うのだろうか……。


   ☆おまけ☆


 白亜の宮殿のバルコニーで、降るような星空を眺める二人。麗しい皇太子と皇女は、絵物語から抜け出したかのように美しく、幻想的ですらあった。

 満天の星空を見上げ、皇女フェリーシアは琥珀の瞳を輝かせた。


「まあ、綺麗。あんなに星の河が濃いのなら、本当に今夜は星流れの日なのですわね」

「勿論、本当だよ。愛しい君に会えるなら、幾らでも嘘を吐くけどね」

「そこで、『愛する君に嘘を吐くなんて』とは仰らないのが流石ですわ、お兄様。――あ!」

「おや、星が流れ――」

「お兄様が消えますように!お兄様が消えますように!お兄様が――ああっ!」「残念。流れてしまったね」


 おやおや、と肩を竦める彼の隣で、皇女は握り締めた拳を口惜しさで震わせた。


「これはきっと、僕は君の傍に居るべきだってことじゃないかな? 」


 瞳を細め、甘く微笑む彼に、皇女は冷たい眼差しで応じる。


「次はもっと短い言葉にしますわ。――お兄様を滅せ、ならどうかしら……?」


 本人を前にして、堂々と恐ろしい言葉を呟く皇女。そんな彼女を、皇太子アルフォンスは愛しげに見つめている。彼女の願いがなんであろうとも、こうして傍に居られるならば、彼にとってそれは幸福に他ならない。

 ――愛しい愛しい、僕のフェリーシア


 彼は星になど願わない。欲しい物は、この手で掴みとろう。その為に利用できる物は全て利用して。そう、君の心さえも。


 誇り高い皇女が、一度交わした約束を破ることは無いと彼は知っている。だから、あの賭けを持ちかけた。


『婚儀の日までに僕が死んだら君の勝ち。僕は決して君の邪魔はしないし、罪に問わない。そのかわり』


 ――婚儀まで僕が生きていたら、その時は君は僕のもの。その身体だけじゃなく、心もね。


 艶然と微笑んだ彼は、星空を見上げるフェリーシアをいつまでも優しく見守るのだった。

 流れ星に願いを!……やってしまった感が(汗


 温度差のある殺伐とした会話は書いてて楽しかったです。ヤンデレって、現実にいたら全力で逃げたい相手だと思うのですよ。

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