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一族を滅ぼした姉への復讐を誓うも、落ちこぼれた俺。日銭稼ぎに最弱の魔物を呼んだら――現れた魔王【椿】が跪いた  作者: ルツ


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最初の「椿」と、世界への宣戦布告

「ひ、ひぃぃぃッ!? な、何者だ貴様らは! 帝国に、この私にこんな真似をしてタダで済むと思っているのか!」 

瓦礫の散らばる廊下で、バルカ子爵は絹の寝間着を泥と脂汗で汚しながら、無様に後退りしていた。 

彼の周囲を取り囲むのは、眼窩に紅い炎を宿した無数の骸骨戦士たち。そしてその中心で、俺はボロボロの短剣を抜いたまま、静かに豚貴族を見下ろしていた。

「タダで済むか、か。そんなことはどうでもいい。俺はただ、お前の首を落としに来ただけだ」

「く、首だと!? ふざけるな、このドブネズミめが!」 バルカ子爵は恐怖で顔を歪めながらも、懐から細工の施された禍々しい魔導小瓶を取り出し、床へと叩きつけた。 

パリン、と硝子の割れる鋭い音。直後、小瓶から溢れ出したドス黒い魔力が、館の地下から何かを呼び覚ます。 ズズズズズ……!! 床を突き破って現れたのは、かつて帝国が他国を侵略した際に鹵獲したとされる、禁忌の魔導自動兵器『アイアン・ゴーレム』だった。 

数メートルに及ぶ鉄の巨躯。いかなる上級魔術をも弾く特殊合金の装甲。それは一国の軍隊を相手にするために作られた、虐殺のための機械だ。

「ガハハハハ! 驚いたか! これこそが我がバルカ家の最終防衛兵器よ! 潰せ! その生意気なガキと、後ろの生意気な女を肉片に変えてしまえ!」 

勝機を確信した豚貴族が、下劣な歓声を上げて命令を下す。 

鉄の巨獣が、地響きを立てて俺へと巨大な拳を振り下ろそうとした、その時。

「――主様の視界を遮るな、鉄の塊風情が」 

俺の隣に立つ椿が、椿色の黒髪を静かに揺らし、真紅の瞳を細めた。 彼女は一歩も動かない。武器すら構えない。ただ、その白く華奢な人差し指と親指を、チッと軽く合わせた。パチン。 

深夜の館に、小さな指開きの音が響く。 

次の瞬間、轟音すら置き去りにして、ゴーレムの巨躯、そしてその背後にあった領主館の建物の半分が、空間ごと完全に消滅した。 

断面は漆黒の魔力で綺麗に焼き切られ、瓦礫すら残っていない。そこにはただ、夜空に浮かぶ赤黒い月が、不気味に顔を覗かせているだけだった。 国家規模の防衛兵器が、指先一つで塵すら残さず削り取られたのだ。「あ……え……?」 

バルカ子爵の口から、情けない音が漏れた。

 目の前で起きた天変地異。現世の常識を遥か彼方に置き去りにした絶対的な暴力の前に、彼の頭脳は完全に停止していた。「ヒッ、ヒギィィィィッ……! た、助けてくれ、金を、領地を、何でもやる! だから命だけはぁぁぁ!」 

子爵は股間から温かい液体を漏らしながら、涙と鼻水で顔をグシャグシャにして床へ這いつくばった。昼間、露店の老人を馬車で撥ね飛ばし、「家畜」と罵っていた男の、これが末路だった。

「椿。手出しはここまででいい」「御意にございます、我が主」 椿が嬉しそうに微笑み、一歩下がる。 

俺は這いつくばる子爵の髪を掴み、無理やりその肥大した顔を上げさせた。「バルカ子爵。お前、昼間に言ったよな。『文句があるなら、俺たちを倒せるような大物でも召喚してみせろ』って」

「あ、あ、ああ……」「呼び出してやったよ。お前たちを、そしてこの帝国を滅ぼすための、最高の魔王をな」 俺は、あの日姉から握らせられた短剣を、子爵の首筋へと宛てがった。 

椿の花が、首からポトリと落ちるように。俺がこの女に付けた名前の呪いを、今ここで執行する。「――まずは、お前の首からだ」 

冷徹な一閃が、月光の下で閃いた。 ――ポトリ。 物言わぬ肉塊となった豚の首が、床へと転がる。10年間の地獄の、これが明確な最初の復讐の証だった。     * 

数時間後。夜が明け始めたバルカの要塞街は、奇妙な静寂に包まれていた。 

住民たちは、街を支配していたバルカ子爵の首が広場に掲げられ、街全体が黒い甲冑を着た骸骨の軍勢に占拠されているのを見て、誰もが「新しい地獄が始まった」と絶望に震えていた。 

だが、その広場の中心に立つ俺の前に、椿が1基の巨大な『広域通信魔導具』を設置した。 

これは帝国全土、そして4大将軍の陣営へと直接、声を届けることができる最高級の魔導具だ。「主様、回線が繋がりました。帝国の全主要都市、そして……アルティ将軍の魔導端末へも同期しております」「ありがとう、椿」 

俺は通信機の前に立ち、深く息を吸い込んだ。 

落ちこぼれと呼ばれ、泥水をすすり続けた10年間のすべてを、この声に込める。『――帝国の人間ども、そして、4大将軍『冷撃のアルティ』。よく聞け』

 俺の声が、魔力を通じて帝国全土の空へと響き渡る。『俺の名前はレオン。10年前、お前たちが滅ぼした【召喚師の里】の生き残りだ。たった今、国境要塞バルカを占領し、腐敗したバルカ子爵の首を落とした』

 帝国全土が、その想定外の報に激震する。 

だが、俺の言葉は終わらない。俺は、画面の向こうにいるであろう、あの最愛の、そして最も憎むべき姉の瞳を見据えるように、冷酷に告げた。

『アルティ。お前が世界を侵略し、どれだけの高みに登り詰めようが関係ない。俺は億の魔王軍を率いて、お前のすべてを奪いに行く。お前が俺たちから首を奪ったように、今度は俺が、お前の首を落とす番だ。――待っていろ。これは、俺からお前への、宣戦布告だ』

 通信を切る。 朝日が、バルカの街を赤く染め上げていく。

 俺の背後では、億の魔物たちが、主の宣戦布告に呼応して地鳴りのような咆哮を上げていた。

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