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一族を滅ぼした姉への復讐を誓うも、落ちこぼれた俺。日銭稼ぎに最弱の魔物を呼んだら――現れた魔王【椿】が跪いた  作者: ルツ


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深夜の急襲、黒き不死軍勢

深夜。 国境の要塞街バルカは、深い闇と不気味な静寂に包まれていた。 

昼間の暴政で私腹を肥やし、民の悲鳴を子守唄代わりにしていたバルカ子爵は、今頃ふかふかの最高級ベッドの上で、醜いいびきをかいて泥のように眠っているのだろう。 

しかし、その領主館の周囲は、決して無防備ではなかった。 子爵が他国から強奪した金で雇った、数百人の帝国精鋭兵。彼らは最新の魔導アーマーに身を包み、鋭い眼光で周囲を警戒している。さらに、館の敷地全体には、最高位の魔術師が展開した『感知結界』と、近づく者を自動で迎撃する『魔導トラップ』が幾重にも張り巡らされていた。 

並の暗殺者や、一国の精鋭部隊であっても、この館に一歩近づくことすら不可能な、絶対の防衛網。 

――だが、それは『現世の常識』が通じる相手なら、の話だ。 

領主館を見下ろす、近くの劇場の高い屋根の上。

 冷たい夜風に吹かれながら、俺は椿と共に、静かにその時を待っていた。

「準備はいいか、椿」

「いつでも、我が主の御心のままに」 

椿が、その白く華奢な指先を、夜空に浮かぶ赤黒い月へ向けて、チッと軽く鳴らした。パチン。 

静寂の夜空を切り裂く、小気味よい指開きの音。 

その瞬間、現世のルールが悲鳴を上げた。 

ズズ、ズズズズズズ……!! 領主館の広大な敷地、庭園、そして見張りの帝国兵たちの足元。そこに存在していたすべての『影』が、まるで生き物のように禍々しく蠢き始めたのだ。「な、なんだ!? 影が――うわあああッ!?」 

巡回していた帝国兵が異変に気づき、声を上げた瞬間。彼の足元の影から、漆黒の魔力を纏った無数の『骨の手』が猛烈な勢いで這い出し、その両足をがっちりと掴んだ。 空間が歪み、割れた裂け目から、次々と姿を現す異形の群れ。 

洗練された漆黒の重鎧を身に纏い、眼窩に紅い炎を宿した、凶悪な骸骨の戦士スケルトンソルジャーたち。その数は数百、数千――いや、瞬く間に領主館の敷地すべてを黒く埋め尽くすほどの、圧倒的な物量。「敵襲ぅぅぅッ!! 怪物だ、アンデッドの軍勢が結界の内側に――ひ、ぎゃああああッ!?」 

帝国兵たちが武器を抜く間もなく、影から現れた骸骨たちの容赦ない刃が振り下ろされる。 

どれだけ強固な感知結界を張ろうが、どれだけ凶悪な迎撃トラップを設置しようが、意味はない。彼らは外から侵入したのではない。椿の権能によって、館の内部にある『影』から直接、呼び出されたのだから。 

絶対の防衛網は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変わった。 防衛の要であった精鋭兵たちが、圧倒的な数の暴力の前に、悲鳴を上げて次々と肉片へと変わっていく。 ドサリ、ドサリと崩れ落ちる鎧の音の中。 

軍勢の最前線から、ひときわ巨大な、圧倒的な威圧感を放つ影がゆっくりと歩を進めてきた。 

魔界軍総大将、バアルだ。 

身の丈3メートルを超える骸骨の巨躯。彼は自身の身長ほどもある巨大な大剣を軽々と肩に担ぎ、眼窩の紫炎を激しく燃え立たせながら、館の頑丈な鉄製の大扉の前に立った。「我が主の復讐の路を阻む、分不相応な愚者どもめ。――塵に還れ」 バアルが大剣を無造作に一閃させる。 

ズドォォォォン!!! 

凄まじい風圧と漆黒の魔力の衝撃波が放たれ、いかなる魔導爆撃にも耐えるはずだった大扉が、周囲の石壁ごと木っ端微塵に吹き飛んだ。

館の正面が、文字通り消滅したのだ。「ヒィ! ひ、ヒィィィィッ!? 何事だ、何が起きておるのだ、誰か説明しろぉぉぉ!!」

 館の最奥、豪華な寝室から、絹の寝間着を着たバルカ子爵が、脂汗を滝のように流しながら廊下へと這い出てきた。あまりの轟音と振動に、ベッドから転げ落ちたのだろう。

「お、おい! 騎士団長! 誰かおらんのか! この私を誰だと思って――」 

叫びながら廊下を進む豚貴族の目に飛び込んできたのは、見知った部下たちの姿ではなかった。 

そこにあったのは、返り血で黒く濡れた骸骨の軍勢と。 壊滅した館の瓦礫を踏み締め、その中心を悠然と歩いてくる、一人の少年の姿。 

俺は月光にボロい短剣を反射させながら、床に腰を抜かす豚貴族を見下ろした。「やあ、バルカ子爵。いい夜だな。――お前の首を貰いに来た」

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