簡単なのにめちゃめちゃうざい爆弾解除
一般の買い物客で賑わうショッピングモールに爆弾が仕掛けられたとの通報があった。もちろん通報したのは仕掛けた本人だ。
『ウフフ……。仕掛けたのは一階の掲示板だよ』
爆弾解除班が駆けつけてみると、言われた通り、掲示板の表に堂々とそれは貼り付けられてあった。非常ベルのボタンにそっくりなので、通行人は皆、気にもせずに通り過ぎていたようだ。
『解除の方法は簡単さ。青いボタンを押すだけでいい。だが……』
電話のむこうで犯人の男は、小馬鹿にするように笑った。
『果たしてできるかな?』
電話を受けた時は『何をバカなことを』と思った。
しかし現物を見た瞬間、解除班のメンバーは『な、なるほど』と思った。
爆弾の前に邪魔な広告がある。
web漫画の試し読み広告だった。
それを消すには、広告の左上についた、とても小さな✕印を押さなければならなかったのだ。
解除班メンバー最年少のトシくんが呟いた。
「こ……、こんな小さすぎる✕印……。もし、押し損なったら……」
爆弾魔の電話の声が脳裏に蘇る。
『ウフフッ……。もし誤って広告か爆弾本体に指が触れてしまったら、その瞬間──』
どーーーん!!!
爆弾が起動してしまうのだという。
ベテランのハマさんが落ち着いた声で言った。
「わしの震える指と老眼では無理じゃ。トシくん、頼む」
「ぼっ……ぼくはまだヒヨッコなので──。アキヤマさん、お願いできますか?」
トシくんの頼りきった視線を向けられて、アキヤマは苦笑した。
この道10年、脂の乗り切った32歳、精悍なヒゲ面に脂汗が滴る。
重い責任感がアキヤマの肩にのしかかる。
もし、小さすぎる✕印を押し損なったら──
平和なゴールデンウィークのショッピングモールが阿鼻叫喚の地獄と化すことだろう。
✕印に向かうアキヤマの指先が震える。
嫌な記憶が蘇る。
『小説家になろう』で邪魔な広告を消そうと思って、小さすぎる✕印を押したつもりが、広告が起動してしまった、あの嫌な記憶が──
「こんなことになるならチアーズプログラムなんて登録しなければよかった……」
震える唇が呟くが、もう、遅い。
覚悟を決めた。
アキヤマの指先が、小さすぎる✕印を──
「待って!」
ただ一人の女性メンバー、川上レイが彼を止めた。
「罠よ! その小さすぎる✕印はダミー!」
はっとしてメンバー全員がそれに気づく。
いつの間にか、今まで存在していなかったさらに小さすぎる✕印が、他の場所に現れていたのだ。広告の右下だ。
「き……、気づかなかった!」
「時間が経って初めて現れるのか、本物の✕印が!」
「なんて卑怯なんだ!」
「こんなことして広告が逆効果になるとは考えないのかしら……」
「それにしてもさすがは『名探偵Mrs.マーブルチョコ』の異名をもつレイさんだ。よく気づいたな」
「こういう時に役に立つのが女の勘というものよ」
結局、川上レイがその細い指先を駆使して✕印を押し、広告を消した。
広告の消えた先に、青いボタンがひとつ、現れた。
けっして大きなボタンではなかったが、今まで小さすぎる✕印を見ていたので、空のようにでっかく見えた。
「よし、押すぞ」
アキヤマがそれを押そうとした瞬間、新たな広告が、ボタンの前に浮かび上がった。
アキヤマの胸に殺意が芽生えた。
川上レイは爆弾解除なんかもうやめて帰ろうかと思った。




