第95話
モイの顔は、瞳孔が見開かれ、ニンマリと口角は歪んでいる。
「燃やしてやるわよ、その醜く腐った性根と一緒に……!」
――あぁまずい
エイガは咄嗟にそう思った。
か細く、しかし届けと強く願ってエイガはモイに手を伸ばした。
「……モイ怖いよ!」
ハッとしたモイがエイガを振り返った。
モイは目を白黒させて、エイガの言葉を噛み締めるように唇を引き結ぶ。
「なんで……?」
「モイ?」
エイガを捉えていたモイの目が潤んだ。
その表情はまるで親に置いていかれた、幼い子供のようだった。
その瞬間、油断したモイの後ろに秋山が剣を振りかぶった。
「エイガ君を信じるからそうなるんだよ」
一瞬の油断、モイの体は委員長の振り下ろした剣によってエイガの方へと吹き飛んだ。
「カハッ……!」
「モイ!……ゴホッゴホッ!」
モイに駆け寄ろうとするが、体を動かそうとすると、何十本も針を刺されてるみたいに痛い。
肺から溢れ出てくる血液、しかしそんなことも構わずにエイガは倒れたモイの近くに這い寄った。
「モイ、モイ……」
モイの体に目立った怪我はないが、腕が変な方向に曲がっている。
エイガが体を揺すると、モイは薄っすらと目を開いた。
「あんた、なんであんなこと言ったの……おかげでこままじゃ二人ともお陀仏よ……」
ぐったりとしたようにそう言いながらチッと舌打ちをするモイ。
「ご、ごめん……」
エイガは申し訳なさそうに目を伏せた。
「だってあのままだと……モイがあとから気に病むと思ったから」
モイはその言葉に眉をピクリと動かした。
エイガはさらに肩身狭そうに小さくなっている。
「バカね……そんなこと気にするなんて」
モイは何故かフッと笑った。
エイガたちの前に立ち塞がる秋山は、彼らにトドメを刺さんと腕を振り上げている。
秋山の背後で光る自分たちをこれから串刺しにするであろう無数の剣。
エイガはゴクリと唾を飲み込んで、痛む体を引きずりながらモイの身体にすがりついた。
「もし、もしさ、生まれ変わってまた会えたらさ」
モイは黙ってそれを聞いている。
「今度はちゃんと友達になろうよ、今度はもっとかっこよくていい奴になって会えるようにするから」
モイはそれ聞くとキョトンとして、次にプハッと吹き出した。
「バカなあんたじゃ、そんなの無理よ」
モイが目尻をくしゃくしゃにして笑うと、エイガは目を丸くした。
「生まれ変わるんだもん、神様にお願いすればそれくらいはくれるかもだろ?」
エイガも釣られて笑った。
絶対絶命の状態だったが、二人の間にはあの教室にいるような、そんな温かな夕暮れ時のような穏やかさがあった。
「死ね」
秋山の冷え切った声と共に剣は振り下ろされたのだった。




