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第91話 人それぞれ

「何を言いだすかと思えば当たり前のことをべらべらと。馬鹿程話が長いって本当なのね」


 秋山はその言葉にずれた眼鏡をかけなおす。


「はぁ?僕が馬鹿?」

 

 秋山が怒るというよりも困惑の表情を浮かべながら自分のことを指でさす。

 モイはそんな秋山に鬱陶しそうにため息をついてお下げを払った。

 エイガはふとその顔に見覚えがあった。


「(あの顔、モイが本気で相手を心底見下してるときの顔だ)」


 現在進行形で窮地に追い込んでいる相手に対してモイはそんな顔を向けていた。

 あぁ鬱陶しい、邪魔くさい、と言った声が聞こえてくる、まるで部屋の隅に溜まったほこりでも見るような目で委員長を見ている。


「えぇ馬鹿よ、本当に馬鹿、救いようのない馬鹿。無駄に知識がある分エイガよりひどいわ」


 「なっ」


 秋山が何かを言いかけたがそれをモイの言葉が遮る。


 「エイガが馬鹿で利用価値がないなんて、この世界に来る前からわかっていたことじゃない」


「その通りだけど言われたら言われたでくるものがある……」


 モイの直球すぎる言葉にエイガはぐさりと言葉の槍のようなものが己の胸を貫いていった気がした。

 胸がじくじく痛い。これは果たして怪我のせいなのかはたまた精神的なところからくるものなのか。


「モ、モイさん~俺一応ここにいるんだけど、ついでに死にかけ……」


 エイガが痛む胸を押さえながらそろりと手を軽く上げれば、般若の顔をしたモイの睨みが飛んできた。


「馬鹿はおとなしく黙って息だけしてろ、耳障り」


「は、はい……」


 モイのその迫力に有無が言えなくなりエイガはその場で小さくなる。そんなエイガを横目で見ながらモイは今度は張り付けたような笑みを浮かべて秋山に話しかける。


「まぁ確かにこんな粗大ごみ、あなたみたいな人間に言わせればさっさと捨て駒にしろって言いたいんでしょ?」


「は?君は違うって言いたいの?お綺麗だね」

 

 秋山が眉を顰め、引きつった笑みのまま小馬鹿にするような口調でそう言う。

 その顔を見た瞬間、今度はモイがクスクスと笑った。


「へぇあなたこの言葉をそういう意味で取るの、随分遠回しな言い方をするものね」


「そうとしか取れないだろう!」


「そうかしら、エイガはどう取る?」


「え、俺!?」

 

 急に話を振られたエイガはビクッと肩を跳ねさせ、あーっとと口ごもりながら、しどろもどろで答える。


「……そうじゃない!って否定すると思う」


「あんたは直感的だものね、ちなみに私は頷くわ」


「は?さっきから何なんだよ栗原さん」


 秋山がそうかすれた声で返せばモイはついにぷっと吹き出してしまう。

 

 「今ここにいる人間だけでもこんなに答え方が違うのにあなたはそうとしか取れないと言った、頭が固いったらありゃしない。私なら今の言葉にそうねって答えるわきっと。だってその通りだと思うもの。」


 モイがおどけたように両手をあげてみせ、つらつらと挑発するような言葉を並べていくたびに秋山の顔が真っ赤になっていく。

 エイガは思わずモイの顔を盗み見た。いつも伏せがちだった目は爛々と輝き、こんな絶体絶命の状況だというのにその顔には余裕が満ち溢れていた。追いつめているはずの委員長の方に落ち着きがないと感じるほどである。

 おそらくこれがモイの本来の性格なのだろう。好戦的で、頭が回り、人を口で転がす。

 エイガには絶対できない芸当である。エイガはモイに舌を巻きながら、改めてモイは自分と違う頭の出来なのだと頭に刻み込まれた気分だった。でもそんなモイにエイガは1つわからないことがあった。

 

「き、君がエイガくんを粗大ごみと思ってるのなら、なんであんな言葉吐いたんだ!君の言う通り捨て駒にすればいいだろう!」


 秋山がヤケクソになったのか、せせら笑うモイを指さしながら叫ぶ。そうそんなことを考えているモイがどうしてエイガを庇ったのかそれがわからなかったのである。


 モイに自分がどう思われているかなんてエイガがいくら馬鹿でもわかっているつもりだった。

 暴言を吐いてくる話の通じない人間、モイがエイガを見る目は少なくともそう語っていたはずだった。そんなモイがまずこんなところに自分を助けにきたこと自体が嬉しくはありつつも違和感でしかなかった。


 そんなエイガの思考に相槌を打つようにモイはコツっと靴音を立てながら一歩前に出た。ふいにエイガを振り返ったそのモイの目がエイガを映す。


「あ」


 エイガがそう声を漏らせばモイはクスリといたずらっ子のように笑った。


「口開きっぱなしよ、アホ面」


 モイがエイガを見たその目にもう嫌悪は映っていなかった。恋とも親愛とも違う、それはエイガの存在を認めたと聞こえる目にエイガはポロリと一筋の涙を流す。


 モイはまた秋山に向かって杖を構えた。


「そうね、自分でもなんでこんなことしてるのかまだ全然わかってない。でも――」


 パチっパチッとモイの体から火花が飛び、エイガは思わず後退る。

 モイは少し考える様に右上を見ながら、指を顎に添えてコテンと小首を傾げる。


「あんたみたいな半端者にこの馬鹿(エイガ)はあげたくないってことだけはわかったから……かしら?」


 そう言い終わるとモイは愉快そうにニタリとした笑顔を秋山に向けた。


「さぁ委員長、もう一戦といきましょう?私間違ったことを間違ったままにするのが大嫌いなの。」


 

 

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