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第87話 本日二度目の絶望

 モイがそう唱えると杖の先が緑色に光りだし、エイガの体を包み出す。別に全てを治す必要はない。内臓の出血があるならそれを止めるだけでいい。そう思い浮かべながらモイは魔力の出力をあげていく。


「うっ」


 エイガのうめき声と共にグチャと生々しい音が聞こえた。ハッとしてモイがエイガを見るとエイガの顔はさらに青さを増していく。

 

――なんで

 

 ふとモイの視界の端に白い何かが映った。それが何か認識した瞬間、モイはヒッと悲鳴を漏らした。

 エイガの脇腹辺りから白い棒のようなものが腹を突き破って出ている。骨だ、おそらくあばら骨であろう骨がエイガの腹から出ていた。


「あれ失敗?いたそー、腹から骨が出るなんてどんなかけ方したらなるの」


 委員長が嘲笑うような笑みを浮かべながらモイにそう言うが、モイの頭はもはや委員長の嫌味など頭に入らなかった。


――どうしよう、どうしよう、私が余計なことしたせいでエイガが死ぬ 


 モイの呼吸が段々浅くなり、エイガの服を掴む手に力が籠る。目頭が熱くなり、堪えようとしても涙が頬を伝う。エイガの頬や目にモイの涙が垂れた。

 するとエイガが薄っすら目を開けた。泣いているモイをしばらく見つめていたがふと「……ぁ」とか細い声をあげる。


 何かを言おうとしているらしい。モイは聞き逃さまいとエイガの口に耳を近づけた。


「モイは……悪くな……い……よ」


 その言葉にモイは鼻の奥にツンとした何かが差す。

 エイガはゴホッと大量の血塊を吐き出した。ハッとしてモイはせめて吐き出した血が喉に詰まらないようエイガを横向きに寝かせる。すると少し呼吸がしやすくなったのかエイガのか細かった息が少し落ち着いた。しかし弱々しい呼吸であることに変わりはない。

 カヒュー、カヒューと音を立てながら肩で息をしているエイガを見ながらモイはまた涙が溢れそうになる。なんで、なんでこんな時までこの男は人の心配をしているんだろう。恨み言でも、痛いでも少しくらい自分のために相手を傷つけても誰も文句は言えないのに。


 しかし感傷に浸っている時間はここにない。後ろでは秋山がしびれを切らしたのかイライラしたように腕を組んでトントンと足で地面を叩いている


「ねぇ死んだの?生きたの?」


 モイは秋山のその声に振り向きもしなかった。あぁこの男はなんでこんなことが言えるんだろう。一ヶ月前あんなに仲良くしていたのにこんな非道になれるものなのだろうか。 友達は……一生大事にするものじゃないんだろうか。


 モイが返事をしないので秋山がしびれを切らして杖を構えた時、ふと耳に着けていたピアスから連絡が入った。澄んだ声のヘラヘラした口調でされた報告を聞いて委員長がニヤリと笑みを浮かべた。彼の視線の先にはエイガの背中を擦るモイがいる。その姿を見て何かを思いついたのか秋山はあぁと声を漏らした。


「ねぇ栗原さん、取引しない?」


 モイがピクリと耳を立て、秋山を振り返る。


「君たち随分仲がいいみたいだね、エイガくんはすぐ人に懐くから拾ってきた犬みたいに見えたんだろ?気持ちは分からなくもないよ――栗原さん、君がエイガくんをここに置いていくなら君だけは外に出してあげてもいいよ」


 モイはその言葉に目を見開いた。


「あ……がっ!」


 モイが声にならない声をあげた。歯を食いしばり、その目を釣り上げ委員長に怒鳴っている。


「今アレーシア様から連絡が入った、アレーシア様がノーマンに勝ったらしいよ」


 モイだけでなく意識すら朦朧としていたエイガもその言葉に目を見開いた。


「う、嘘だ!」


 エイガは叫んだ拍子にまた血を吐く。モイは無理に起き上がろうとするエイガを涙目で抑えるが、それでも尚エイガは起き上がろうとするのをやめない。


「嘘だろ!ノーマンさんが負けるわけない!」


 そう言って秋山に震える指を差すエイガ。秋山はその姿を見て滑稽そうに声をあげて高笑いする。


「嘘だったらいいね、そんなに疑うならこれでも聞くかい?」


 ヒョイと秋山が投げたのはノーマンが持っている通信ピアスと似たような耳飾りだった。それを恐る恐るモイが拾い、耳に当てる。流れる音声に耳を傾けていたが、突如目を見開き呆然として耳に当てていた耳飾りをポトンと力なく落とした。

 エイガも息を荒くしながらもそれを耳に当てる。


「やっほーヒデキー!私アレーシア、ノーマンに勝ちました~!ノーマンの死体を処理してからいくからそっち押さえといて~」


 その言葉が壊れたラジオのように延々と繰り返されている。

 ボトリとエイガの手からも耳飾りが落ちた。


「ほら、本当だったでしょ?」


 そう言って秋山はニタニタと笑いながら肩を竦めて見せたのだった。

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