第85話 相殺
トンと2人のアレーシアが地面を蹴るとその身体はふわりと宙に浮かぶ。
「蝶の形の魔術格を選ぶなんて、随分幻精霊に一途だね、それともブルムがいないことのカモフラージュのつもりかな?」
「え?ブルムがいない?ここにいるじゃないっすか」
そう言ってエイガがノーマンの指に止まった蝶を見るとノーマンは唇をモキュっと引き結ぶ。
「それ絶対ブルムに言うなよ、怒るから」
アレーシアが杖を縦に振ればシャンと錫杖のような音がする。辺りを流れていた水が物理法則を無視して上に登りだし、花がつぼみになるようにノーマンたちを包みだした。
「青の四天王に水場で挑む傲慢さ、その身で味わうといいよ――”目隠牢”」
ノーマンたちを見下しながら杖を横に振ればその水はノーマンたちへと向かってくる。ノーマンはハッと笑う。その水を見上げながら杖をヒョイと投げて握り直すとその向かってくる水壁に杖を向ける。
「そう言って今まで俺に勝ったことあったか?――"竜爪"!!」
口をコッと鳴らし、そうノーマンが唱えれば水がバシャリと急に物理法則に従って下に落ちてくる。モイはノーマンにマントで庇ってもらったがエイガはそのままだったのでエイガはビッショリと体中が濡れた。
「うへぇ冷てぇ」
「いいか、エイガ、モイ。俺はアレーシアを相手する。その間にお前たちは外に逃げろ。アレーシアの屋敷の外に出ればブルムが保護してくれる」
「で、でもこの屋敷無茶苦茶人がいて……」
「大丈夫だ、ここに来る前に全員眠らせておいた」
「えぇ!?」
「あとはお前の体力次第だ、行け」
そう言ってモイ地面に下ろすと2人の背中をポンポンと背中を叩き、送り出す。
「生きて飯食うぞ、今日は俺の好物だ」
「――はい!」
モイも頷いて入り口へと走り出した。
「あーまってよ、私の生贄!」
そう言って一人のアレーシアがエイガたちの前を阻もうと前へ立ち塞がる。
「そのまま走れ!」
「はい!」
ノーマンが床に手をあてると叫ぶ。
「”選択”!」
そうノーマンが唱え床から生えてきたのは木の芽だった。
ぐんぐんと枝を伸ばしていき、床に転がっていたリアムの体に当たるとそれはリアムの体を巻き込んで大きな大木へと成長した。
アレーシアは咄嗟に横に体を捻り、間一髪で躱す。
ぐったりとしたリアムはされるがままで木の中で羽交いじめにされている。アレーシアはひらりと伸びてきた枝を躱す。
「あーあー、いけないんだ。治癒魔術をそんなことに使って」
「チっ、流石に外れるか」
「魔法はもっと荒々しく使ってなんぼだよ、ほらこんなふうに!"天秤”」
アレーシアが杖を横に傾けるとシャリンと音がして、空中に大量の氷柱が現れた。ノーマンに向かってその切っ先を向け向かってくる。
「相変わらず魔力効率が歪だな!」
そう言ってノーマンも空に飛び上がり、ローブを脱ぎ捨てる。壁にそって高速で飛びながらその氷柱を躱していった。
「"竜爪"!!」
そう言ってノーマンが杖をアレーシアに向けるとアレーシアはハッとして手を顔の前で交差して、防御の体勢に入る。
「なんてな」
ノーマンはその防御した隙を見逃さずアレーシアの背後に回り込んだ。
「"亜鳴"!」
「騙されたのどーっちだ」
そうアレーシアが言ってグルンと首の可動域を超えて首を回す。そしてトンとノーマンの腹に杖を当てるとアレーシアはニタリと笑った。
「"天秤"」
そうつぶやくとノーマンの腹に大きな風穴が空く――はずだった。
その体は何故か氷柱を受け止めることなくスルリと抜けていった。
「お互いハズレを引いたな」
そう言ってアレーシアの視界の端に現れたノーマンがその首の回ったアレーシアの頭を杖ではたき落とす。するとデロリと溶けるように型を崩して、下に落ちていくアレーシアだったもの。
「あれーこんな大規模な魔法、君の今の魔力じゃこんな長い間使えないはずだけど」
ノーマンの頭上から声が振ってきた。足を揃えノーマンがいる少し上で杖に腰掛けるアレーシア。
「相変わらず少ない魔力で頑張るね〜ブルムがいれば君は強いのに。勿体ない、もったいない、頼りがいのない相棒で可哀想としか言いようがないよ」
見下すアレーシアをハッと笑いながら、足元に魔法陣を出現させるノーマン。
「少なくとも子供を子供と思わないお前よりは断然マシだ」
「奇遇だね、私も状況が見えず綺麗事を言うような味方は嫌いだ」
そう言いながらアレーシアも後ろに4つほど魔法陣を出現させる。
「「まぁとにかく」」
言葉がハモった。それを合図に二人は杖を思いっきり横に振った。
「さっさと崩れろ!アレーシア!"亜空"」
「その言葉そっくりそのままお返しするよ!ノーマン!"葬送"!」
2人の魔術がぶつかり合い、塔の中に大きな火花が咲いた。




