第84話 死体
アレーシアの上に座り込んでいたモイがふわりと浮いてノーマンの方へと運ばれてきた。
「なんかモイと俺の扱い違くないっすか?」
「まぁさすがに肝が据わっているとはいえ女の子だしな」
しかしなぜかノーマンはモイを下ろさない。じっとアレーシアの方を見ながらノーマンはパチンと指を鳴らす。
「あはは、やっと背中が軽くなった。ずっと人を踏み台にして心が痛まないのかい?君たち」
よろよろとアレーシアが立ち上がる。一瞬アレーシアがこちらを見れば横から水柱が飛んできた。
それをモイとエイガを脇に抱えたノーマンがひらりと避け、防御魔術を展開する。
魔法を飛ばしてきたのはなぜか今目の前にいるはずのアレーシアとは逆の位置に立っているアレーシアだった。
笑っているが目が笑っていない。
先程までつぶされていたアレーシアも立ち上がって2人が並ぶ。二人の姿は全くの瓜二つ、まるで鏡をみているかのようだった。
「本当にびっくり。ノーマン、どうやって彼を見つけたの?知りたいなぁ、君には教えてもらわなくちゃいけないことがたくさんあるんだ」
二人のアレーシアが杖を召喚し構える。
「さぁ?うちの弟子が消えたんでな、蝶に道案内を頼んだだけだ」
アレーシアがクスクスと笑いながらコンコンとその杖を床につけば、下から3体の水子の幻精霊が現れる。
「にしても相変わらず容赦ないね、踏んづけられたから二人まとめて下から打ち抜いてやろうと思ったら魔法詠唱を無詠唱でかき消してくるんだもん。感動の弟子と再会の片手間に私の一番弟子を相手にしながらやる芸当じゃないよ、風情がないね」
「お前の風情は人間から吹き出す血の噴水なのか、感性を疑うな」
ノーマンは自分の周りに漂っていた蝶を指先に止まらせて嘲笑う。
「残念だったな、1つも死体が手に入らなくて」
その蝶を見た瞬間、アレーシアは驚いたように目を凝らす。
「随分簡単な魔術式で構成されてると思ったら、懐かしいもんだね。それ君が1年生であの人と作った魔術式じゃないか。もう思い出したくもないだろうに」
「あの人?」
エイガはそう首を傾げる。思いだしたくないってどういうことなんだろ?ノーマンさんと何かあった人なのかな。
また含みを持たせながらクスクスと笑うアレーシアにノーマンは何も言わない。
アレーシアはふと笑う声をピタッと止めた。笑って細められていた目が開かれるとその目には光がなかった。
瞳孔が小さくなって蛇のようだった。エイガの背中をゾワリと冷たい何かが這い上がる。
人形のように感情が抜け落ちた顔でアレーシアは後ろに魔法陣を何個も展開させた。
「まぁいいや、作戦変更。死の幻精霊じゃなくて、君の死体をもらおう。君はきっとこの先生きてると邪魔になるだろうから」
ノーマンも指に止まった蝶を前に突き出す。
「やれるもんならやってみろ、クズ野郎」
「ちょうだいよ、君の遺体。私が大事に使ってあげる」
そうして戦いの火蓋は切られたのだった。




