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第82話 反撃

3人の茶番にようやく理解が追いついたのか、呆気にとられていたリアムはハッと我に返る。


「ノーマン様、いくらあなたでもアレーシア様にそんな扱いは――」


 リアムが杖を構えた瞬間にノーマンはギロリとリアムを睨んだ。


「うるさいなリアム。それにそんな大物、お前の筋肉配列じゃ扱えねぇって何度も言ってるだろうが」


 そう言ってノーマンがパチンと指を鳴らせば、その指の先から銀色の蝶が飛び出した。

リアムは咄嗟に身を引いたが、その後ろにいつの間にやら銀の蝶がいたことにリアムは気づいていなかった。


「しまっ――」


 そんな言葉すら言い終わらないうちに蝶がリアムの二の腕にとまった。

 その瞬間リアムはガタンと大きな音を立てて鎌を落としてしまった。


「い、今何が」


 今度はエイガが呆気にとられながらそう聞けばノーマンは肩をすくめてみせた。


「相変わらずまだ考えが足らん奴だな、こんな不意打ちに防御魔術も張れないなんて。エイガ、モイ、あぁはなるなよ」


「あぁはなるなって――あれは気づけないっすよ」


 ノーマンは鎌に杖を向けるとヒョイッと魔術で浮かせてそれを奈落の下へ投げ込んだ。


「武器も取られて情けない。アレーシアに相当甘やかされてるみたいだな」


「甘いのはそちらの方では?」


 そう声が聞こえて振り向けば、そこには先程ノーマンにやられたはずのリアムがふらりとそこに立っていた。顔は少し冷や汗をかいていたが、体に異常があるようには見えない。 


「ノ、ノノノノノーマンさん!?」


「うるさいなエイガ。お前ならすぐ助けてやるって」


「いやそれはありがたいんっすけどさっきの魔法効いてないじゃないっすか!」


「当たり前だろ、治癒魔術だぞ」


「へっ!?」


「筋肉の無理に入ってる力を抜かせる魔術だ。本来釣り足なんかを治すために使う治癒魔術だよ」


 リアムは青筋を額に作りながら前傾姿勢になった。


「戦いで釣り足の治癒魔術?ふざけてます?」


「ふざけてるもなにもお前みたいな脳筋は、緩めてやらないとなーっていう先輩からの親切心だよ、ありがたーい治癒魔術の意味がわからんとは――」


 まるでリアムを挑発するようにあくびをしてみせるノーマン。


「動きが固すぎるな、遅すぎて眠れそうだ」


「随分と舐められたものです……ねっ!!」


リアムは短めの両手剣を取り出し、ノーマンの方へと向かってくる。


「う、うわぁぁぁぁ!ノーマンさん逃げて!」

  

 しかしノーマンはどこ吹く風と、まったく慌てる様子がない、それどころかリアムを小馬鹿にするように鼻で笑って見せた。


「そりゃあ、戦争の経験すらまともに積んでないお前なんて相手にならんからな」


「老害は引っ込んでてくださいよ!」


「俺はお前より顔色はいいが――な!!」


 ノーマンはリアムが間合いに入るとアレーシアの尻を思いっきり踏みしめて蹴る。


「ちょっと今わざと強く踏んだでしょ!!」


 アレーシアのキンキンとした怒鳴り声など無視してノーマンは飛び上がり、リアムの頭上から杖を持って飛びかかる。ガラ空きなノーマンの懐、そこに向かってリアムはまっすぐ両手の短剣を振り下ろした。


「なってない!!」


 そう叫んでノーマンは空中で横に1回転したかと思うと、リアムの切りかかってきた両手剣の根元を脚で蹴り上げる。

 次にそのままリアムの頭上を蹴りつけて地面へと叩きつけた。


 「カハッ」

 

 口から唾を吐きだしながら地面に派手にうちつけられたリアム。立ち上がろうとすれば後頭部にノーマンの杖が押し付けられた。


「これみよがしなスキに引っかかる。両手剣を一気に繰り出すことで生まれた小回りという利点の遺棄。今ので俺は魔法なしでお前を2回殺せるな」


 トントンと人差し指で自分の頭を叩いて見せるノーマンをリアムは悔しげに睨みながらチッと舌打ちをした。


「わぁ……」


 エイガは感嘆の声を漏らし、モイもノーマンを食い入るように見つめている。


 エイガたちはノーマンが四天王だということは知っていた。治癒魔術においても、体術においても他を凌駕する実力者だということは言われなくても分かっているつもりだった。

 しかし緑の塔でユリヴァの魔法を退けたのとは訳が違う。剣を持った、同じく実力者であろう人間を相手にしてもこの立ち振舞である。

 この人のどこが無能だと言うのだろうか。エイガとモイはそれが不思議で仕方なかった。


「今のが魔法でないと?嘘をつくのがお下手で」


 リアムは未練たらしく負け惜しみを吐く。


「誰が魔法を使っていないと言った?油断は一番の死因だぞ。防御魔術だけはかけるさ」


「つまり身体への魔法はかけていらっしゃらないと」


「あぁそうだが」


 するとリアムはククッと俯いて失笑した。

 あぁおかしい、この男はどうやら常識が通じないと天を仰ぐ。


「化け物……流石蝶の精霊に好かれるだけはありますね……あなた一体何体の魔族を殺しました?」


 リアムがそう目を細めながら滑稽そうに振り向けば、ノーマンはまっすぐとその目を見返しながら言った。


「女王の次くらいじゃないか」


「一体何体なんでしょうね、うらやましいこと」


「さぁ、お前も殺せば記録更新だな」


「ご勘弁を、降参です」


 そうリアムが両手をあげるとノーマンは隣に飛んでいた蝶に耳馴染みのない言語を呟く。すると銀の蝶はリアムの上を飛び回り、鱗粉を振りかける。

 するとリアムは膝をついて眠ってしまった。

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