第81話 没入
ガシャン!!
エイガに鎌が振り下ろされんとしたその瞬間、月の光が一瞬遮られ、部屋の天蓋窓が人影と共に大きな音を立てて割れた。
「なっ!」
リアムが振り下ろした鎌の軌道がズレてギリギリエイガの顔の真横に刺さる。
「ひぃぃぃぃぃ」
エイガが情けない悲鳴をあげた。
「何々、何事――ふぎゃっ」
その人影に少し遠くにいたアレーシアが踏み潰される。
パラパラとガラスが月明かりと共に降ってきて、その人影の顔を映し出した。
片眼鏡が月の光に反射して、焦燥が読み取れる切れ長な緑眼を照らす。ポサッとした新緑色の長い前髪が揺れれば、苦い薬草の匂いがするあの人はそこに立っていた。
「ノーマンさん……」
エイガが安心したように顔をほころばせる。
「おぉよかった。エイガお前首が外れてないな、最悪くっつけるつもりだったが」
「ひっ」
「なぜ俺に悲鳴を出す」
そこに立っていたのはあの中庭で名前を呼んだノーマンさんだった。よかった、ブルムが伝えてくれたんだ。
――エイガ死んでない?
「うわっ!モイが浮かんでる!」
天蓋窓にぽっかり空いた穴からまるで海底に沈むような速度で空からゆっくりと降りてくるモイ。ふわふわ浮きながらホッとしたように顔をほころばせていた。
「モイが俺見て笑ってる! モイも心配してくれてたの⁉」
エイガがそういって嬉しそうに叫ぶとモイはハッとして顔をすぐに引き締めてしまう。
「ど、どうやってここにいるってわかったんすか!?ここは不浄の場所だからブルムも近づかないって――」
「それは――」
そう言ってモイとノーマンは目を見合わせる。
――秘密
モイが意地悪く笑いながら黒板を見せた。
ノーマンが杖を一振するとモイの浮遊魔法が解けてストンとノーマンの腕の中に落ちてくる。
「ふぎゃっ」
ノーマンが足場にしているので下にいるアレーシアはまるで踏みつぶされたねずみのような声を出す。
「モイ、ゆっくり降りろよ。クッションがあるからな」
ノーマンは黒い笑みを浮かべながらモイをアレーシアの上にそっと下ろした。
ノーマンさん今まで見たことのないくらいニコニコ笑顔だ……。
「ちょっと、踏んでる!踏んでるって!腰!腰!」
モイが足を動かすたびに体重をモロに食らっているのかアレーシアはまた悶えるような声を上げ続けている。
モイがアレーシアを踏んづけているのに気がつき、足をのけようとするとそれをノーマンが止めた。
「のかなくていいモイ、思いっきり尻に敷け、潰しても構わん」
「……(コクッ!)」
妙に生き生きと頷いたモイは改めてアレーシアの上に行儀よく正座をして座り直した。
ノーマンも改めてアレーシアの腰あたりに座り直す。
その状況にエイガは若干引いていた。
ノーマンさんはともかくあんなに大人しいモイがここまでするようになるとは。
エイガが目の前の光景を凝視しているとノーマンがそれに気づいた。ニッコリと笑いながらかかとでアレーシアの腰を叩けば、アレーシアがたまらずと言った顔で声をあげた。
「ぎゃっ!」
汚い悲鳴が聞こえた。
「なんだエイガ。お前も座りたいか?座り心地は悪いが」
「い、いやさすがに女性を踏むのは」
「クズだ、問題ない」
「えぇ……」
それに適応しているモイもモイである。この数時間で一体何があったというのか。
エイガはしばらく目の前の二人をどんな目でみればいいのか分からなくて水の流れに目を泳がせるのだった。




