第78話 友達
「モイって言う言葉はきついけどさ、なんだかんだ優しいと思うんだよ。だからきっといじめ見て見ぬふりしてたの許してって言ったら許してくれると思うんだ」
何を知った口を言い出すんだこの男。モイは内心呆れながらもう一口をすくって口に運ぶ。
そもそも許すも何もモイはあれををイジメとおもってはいなかった。いじめられているかわいそうな人間、そんな目を向けられるのがモイは嫌いだった。あれはイジメではない。復讐なのだ。そんな目を向けられる資格はないし、当然の報いなのである。
エイガはそんなモイの心も知らず話し続ける。
「だから許さなくていいよ、昨日も似たようなこと言ったけどモイにとってあれはイジメじゃなくても、もしかしたら何かできるかもしれなかった。
辛そうな顔してる人を放っておいた俺が悪い、それで仲良くしたいなんて虫が良すぎるのもわかってる」
相変わらず何もわかっていない、コイツは。
見当はずれの弁明をするエイガにモイは内心でため息をついていた。
やっぱりこいつと仲良くするなんてきっと無理なのだ。いいところを見つけようとしても嫌なところが何十倍も大きく見える。
一度植えついた印象というのは中々変わらないものだ。こいつのことを好きになれないのもきっとそのせいだろうなんてそこまで考えたところでモイは自分へもため息をつく。
いいや、この気持ちはきっとこいつの問題じゃない、これは皮肉れた私の――
モイがそこまで考えているとふと水がざーっと流れる音がした。エイガが洗い物をするために桶にくんでいた水を流しに流したのだ。
それで頭の中に浮かんでいた黒い感情も一緒に頭の奥へ流れていってしまった。
エイガは桶を流しにたてかけると、モイをまっすぐ見つめた。その目は朝焼けのように澄み切っており、直視するのがためらわれるほどだった。
「でも俺、それでもモイを友達って思うことにしたんだ」
「は?」
エイガの頓珍漢な言葉に思わず出た掠れ声。エイガはビクッと驚いたように肩を跳ねさせる。
「い、いや意味わかんないこと言ってるのはわかってるんだよ、俺」
意味が分からないと言わんばかりに眉をひそめるモイにエイガは苦笑いしながらポリポリと頬をかき、目を伏せる。
「でもさ、俺普通の関係って無理なんだよ。好きか、知らないか、嫌いか。それ以外の中途半端な関係で関わるっていうのができないんだよ」
意味がわからない、人間の関係なんて中途半端なことばかりだろう。
エイガの言葉の意味が本当に分からなくてモイは眉間にシワが寄っていく。
「モイにとっては意味わかんないと思うけどさ、俺モイのこと好きでいようって思ったんだ。もちろんモイは俺のことどう扱ってもいいよ、俺が悪いし」
意味がわからない、本当に意味がわからない。そんな思考にたどり着くのも意味がわからないが、どう扱ってもいいけど俺は好きでいる?クサイ台詞だ。どうせそんなこと不可能なのに。
モイのそんな考えとは裏腹にどんどんエイガは話を進めていく。
「だからさ、これから俺はモイを大事にするし、どんだけ冷たくされても友達だって思うよ。そうしたらきっと俺、次モイが辛い時に駆け寄れる気がするんだ、それが俺の罪滅ぼし」
そう言ってエイガは屈託なく笑った。
「あっそ......」
――あの時はどうせ無理だと思っていた。調子のいいことを言うエイガをうざいとまで思いながらエイガの作った日本食もどきを食べていた。そしてあれから1か月。
目の前ではヴァルカンとノーマンが焦った様子でずっとしゃべり続けている。
エイガはその宣言通り、どれだけ冷たくしても自分にくっついてきた。どれだけ冷たくしても、どれだけ粗雑に扱ってもエイガはずっと態度を変えなかった。
――もう、本当に意味わかんない
モイはそう心の中でつぶやいて、一歩を踏み出した。




