第71話 髪飾り
「だが、お前その格好だと寒いよな――あぁそうだ」
そう言ってノーマンは小走りに二階へ登っていった。
降りてくると、手には小さな赤い宝石が埋め込まれた花形の髪飾りが握られていた。
「少し不格好かもだが、俺が作った魔道具だ。つけてるだけで温かくなる。火の魔道石だからおそらくお前とも相性がいい」
へぇと言った顔をしながら、それを受け取ったモイ。
確かに握っているだけでも少しあったかい。
さっそくつけようとするモイだったが、つけ方がわからない。
ピンではないのである。
髪にはさむためには何工程もありそうな髪飾りだった。
モイが首を捻っているとノーマンがヒョイッとモイの手からその髪飾りを取り上げた。
「なんだ、つけ方がわからないのか?これはこうやってな――」
ノーマンはそう言ってモイの難解な髪飾りを簡単に開いてしまう。
ほぉっとモイが目を丸くすると、それを受け取ってまたつけようとする。
しかしやはり初めて見たものだからか、うまくいかない。
カチャカチャとしばらく音が鳴って、モイはぼさっとなった前髪を恨めしそうに見ながら、諦めたように手を下ろした。
「しょうがないな、貸してみろ」
ノーマンに促されるまま髪飾りを渡すと、ノーマンは手慣れた様子でモイの髪を軽く手櫛で整えて髪飾りにはさむと簡単につけてしまった。
「さぁ行くぞ」
ノーマンがそう言って扉を開ける。
髪飾りのおかげなのか、吹き込んでくる風は暖かった。
モイは前を歩いていくノーマンの後をついていきながらじっとノーマンを見つめていた。
その視線に気が付いたのか、ノーマンがちらりと後ろを振り返る。
「どうしたモイ、そんなに嬉しいのか?」
モイは見当違いの言葉に少しむっとした顔になる。
しかしそんな事否定しようがないので軽く首を振って、黒板に書き込んだ。
――なんか、手慣れてません?髪につけるの。
「ん?そうか?久しぶりにやったから、逆に少しぎこちなかったくらいだがな」
ノーマンのその言葉にモイの頭に衝撃が走る。
久しぶり?
――え、ノーマンさんもしかしてお付き合いされてる方いたんですか?
一か月近く過ごしていてまったくそういう気配がなかったので、モイは驚きを隠せない。
確かにいい人ではあるし、料理もなんでもできる。
職業は四天王で、確実に高給取り。
改めて考えてみると声と雰囲気と歳(何歳かは知らないが)以外はとんでもない優良物件である。
「女子っていうのは、どうしてそんな人様の恋が気になるんだ。ほら、いくぞ」
そう言ってさっさと歩いて行ってしまうノーマンをモイは慌てて追いかける。
モイはノーマンの後をトコトコとついていきながら考えていた。
ノーマンさんの恋ってどんなのだったんだろう。
モイはまたノーマンの顔を盗み見た。
お父さんたちにそういうこと聞いたことないけど、やっぱり甘酸っぱいものだったのかな。
モイはそういうことに本当に疎い。
恋をしたいと思ったこともないし、今でも面倒だろうと思っているくらいだ。
しかしどうしてか、ノーマンの恋路は気になった。
――ノーマンさんのことを恋愛対象としてみてるから気になるとかそういうのじゃないのよね、多分。
無意識に黒板へ書き込みそうになって、モイは慌てて消す。
ノーマンさんの恋人って、やっぱり同じ治癒師だったのか。
あの忙しさを見ると多分そうだろう。
今女性治癒師で一番に思いつくのはオーリアさん……もしかしてオーリアさん?
いや歳の差がありすぎる。
でも今、それ関連のものが一つも家に転がっていないって少しおかしくない?
いやそういうもの?わからない。
モイはそんなことを考えながらノーマンの後をとことことついていったのだった。




