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第6話 烙印

「紋章がでないだと⁉召喚者なのに!?」


 その言葉でエイガはすべてを察した。

 エイガが背伸びをしてみるとそこには青い顔をした栗原が水晶から震えた手をゆっくりと離していた。


「あーたまにあるらしいね、紋章なし。珍しいらしいんだけど、大当たりをひいたら大外れもあるってことか」


 アレーシアが顎に手を当てながらそう言った。中々にストレートな物言いで、エイガは思わず栗原の顔に目を移す。俯いていて顔が見えなかったが、肩が少し震えていた。


「この子の担当したい人―ってたぶんいないよね、君ちょっと脇にそれてて」


 指を指したのは会場の隅っこ。あんなの公開処刑のようなものじゃないか。栗原はその場で固まって青い顔のまま震えている。あまりに気の毒だった。


「ハハっあんた流石ね」


 すると今度は甲高い声が聞こえた。

 あぁ嫌な声だ。エイガが眉をひそめながらそちらに視線を移すとそこには先ほどアレーシアに物申していた伊豆とその取り巻きが立っていた。どうやら栗原の次に水晶に触れるらしく、栗原の後ろに彼女たちは立ちふさがっていた。


「まさかこんなところでも雑魚とはね、本当に心の底から同情するわ!」


 伊豆が高らかに笑いながら、栗原を軽く突き飛ばす。バランスを崩した栗原はその場で尻もちをついてしまう。怖いのか、目は伏せられており伊豆と目を合わせる様子はない。


「雑魚は雑魚らしく隅っこにいなさいよ」


 そう言って伊豆が水晶に触れた瞬間だった。委員長が触った時のようにまばゆい光が水晶からあふれる。


「せ、聖女の紋章ですとな⁉」


「あぁ神よ」


 そう口々に話されるのを見るに、委員長と同じレア度のものが出たらしい。


「聖女の紋章⁉勇者か聖女どっちかが出ればいい方なのに、どっちも⁉やっぱり私の日ごろの行いがいいからだね」


 そうはしゃいだように、アレーシアが言った後ろで女王がホホと笑った。


「聖女の紋章とは破魔の魔法が使える紋章よ、お主も勇者と同じ、アレーシアとブリキから師事を受けるとよい。期待しておるぞ」


「なんだか、わからないですけどありがとうございます」


 とびっきりの猫なで声を出しながら伊豆は女王にお辞儀をし、それに拍手喝采が起こる。そして次に変わるため伊豆はその場をあとにしたが、紋章なしと判定された栗原はその場に座り込んだままだった。なんとか立ち上がりフラフラと隅っこに行ったがその顔は変わらず暗い。


 次はエイガの番だ。エイガがクラスで最後の番だった。


――もし紋章なしだったら、嫌だな。


 ちらりと栗原を見れば、また座り込んでうなだれている。気の毒だとは思うがあぁはなりたくないと、汗ばんだ手を水晶にあてる。ぎゅっと目をつぶっていたが、またどよりとその場がざわついた。

 ゆっくりと目を開けると――その水晶には何も映っていなかった。


「あちゃー紋章なしだね。大当たりが二人いたから、大外れも二人。なるほどねー」


 アレーシアは呑気に言っているが、エイガにとってはそうではない。さっき栗原に向けていた感情がそのままエイガ自身に降りかかってくる。失望の交じった不快な視線。


――俺、これからどうなるんだ。


 そんな言葉が一番最初に浮かんだ。震える膝に耐えきれなくてエイガはその場で崩れ落ちたが、今度はクラスメイトから笑い声があがった。先ほどとは違って親しみがあるような笑い声。

 エイガはそっと顔が見えないよう後ろを振り返った


「エイガまで紋章なしとか、お前らエイガに謝れよ」


 笑いながら委員長にそう小突いている東間がいた。


「え、僕のせい?」


 委員長は戸惑ったように、そう言ったが、伊豆はフンと鼻をならした。


「私たちは選ばれたの。だから負け犬に謝る必要なんてないと思うのだけど、ねぇ委員長」


「負け犬って、伊豆さん」


「あら負け犬を負け犬って言って何が悪いの?」


 委員長がたしなめる言葉も空しく、伊豆は相変わらず性格が悪いなとエイガは改めて思った。

――でもここでこの空気に乗らなくては。

 そんな義務感でエイガは震える膝を立てて立ち上がった。委員長を困らせるのも本意ではない。エイガはいつものようにおどけて見せた。


「いやー俺こういうくじ運いつもないんだよ、ついてないよな!まぁいいか、なくてもどうせ使えないし!俺馬鹿だからさ!」


すると同情的な顔をしていたクラスメイトも段々とエイガなら大丈夫かと口々に言い出した。しかし口ではそう言っているがエイガも内心は大焦りである。


 話を聞いている限り、衣食住や面倒を見てくれるのもその育ててくれる人らしい。だからもし自分がひきとられなかったとしたらどうすればいいのだろうか。


 アレーシアは相変わらずエイガの気持ちになんて興味がないように育て手の募集を始めた。


「この子の育てになりたい人いるー?ついでにさっきの子も……いないよね、そりゃ」


 アレーシアがやれやれと首を振る。


「しょうがないから私が引き取ろうか――「俺が引き取ろう、2人ともだ」」


 そう声が聞こえてエイガが振り返れば、先ほどまで一度も手をあげていなかった四天王が手をあげていた。それにまたどよめきが広がる。


「あいつが手をあげただと?」


「いや、案外似合いかもしれんぞ、無能と無能。お似合いじゃないか」


 かなり言われ放題である。四天王は偉い人ではないのだろうか?


「ノーマン……」


 女王がぼそりとつぶやいたのが聞こえ、あの薬草の匂いがする男がこちらに歩いてくる。

他の四天王がしっかり手入れされているローブを羽織っている中、彼はよれよれのローブを羽織っていた。

歩きながら彼が烏の仮面を外すとそこには新緑色のぼさぼさの髪と髪の色と同じ切れ長の瞳。

そして一番印象的だったのが、片眼鏡越しに見える、目の下についた濃いクマだった。


「俺が引き取る、こいつとそいつ。それでいいよな、クズ」


目の前のエイガと、端で目を見開いてこちらを見ている栗原を指さしながら、そう言うノーマンの声は淡々としていた。


「クズじゃありませんーアレーシアですぅー」


「一緒だろ、クズ」


 アレーシアには目線もくれずエイガたちを見つめる鋭い眼光にエイガはゴクリと生唾を飲み込んだ。会話が成立せずただノーマンが暴言を吐く。空気はノーマンが喋るたびに冷え始めていたが、アレーシアはどうとも思っていないらしく飄々としていた。


「はいはい、どうせ言っても無駄でしょうね。いいよ、逆にいいの?この2人紋章なしだよ?私が預かっても全然いいんだけど」


「俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」


「さいですか、ならこれで育ては全員割り振られたね。女王陛下、決定でよろしいですか?」


「あ、あぁ」


女王が少し歯切れ悪く返事をし、奇妙なその選考会は終わった。クラスメイトたちはそれぞれ自分たちを引き取ることになった育ての側に近づいていったので、栗原とエイガも恐る恐るノーマンがいる方へと歩いていった。


「お前たち、名は」


 ふいにノーマンが2人に聞いてくる。


荒井 衛雅(アライ エイガ)……です」


「……」


「おい女の方、名乗らないか」


「あ、栗原さんはしゃべれないです、あがり症さんで」


「あがり症??」


 ノーマンが片眉をあげて、いぶかしげに栗原を見る。ちらりとエイガが栗原を見ると、こんなときでも栗原の顔は相変わらずの無表情だった。ノーマンはハァとため息をついて踵を返した。


「エイガと……そいつ下の名前は?」


 ノーマンはエイガに向かって目でクイッとモイを指してきた。


「え?ええっと......」


呼ばなさすぎて思い出せないが、なんとか記憶の断片を捕まえることに成功する。


「モイさんだったと思います」


「エイガとモイだな、俺はノーマン=アクター。ノーマンとでも呼べ」


 相変わらず感情の感じられない声で簡単に挨拶をし、ノーマンは歩き出した。二人がついていっていいのか戸惑っていると、ノーマンが後ろを振り返る。


「ついてこい、俺の家に行くぞ」


 そう言われてエイガとモイは慌てたようにその後ろについていった。


 ネガティブな感情以外感じとれないノーマンと、感情が顔に出ず喋れもしない栗原。この2人と過ごすのは大変だろうなとエイガはノーマンの後ろを追いかけながら、まだ始まってすらいない生活の先が思いやられたのだった。

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