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第68話 無抵抗

 アレーシアはエイガを捕まえた衛兵に盆の真ん中を指さした。


「そこにつないでおいて。すぐ儀式の準備をするから」


「仰せのままに、アレーシア様」

 

「な、何するんだよ!」


 「いったろ?有効活用って。君にはこれからできるだけ苦しんで死んでもらう」

 

「そ、そんなことして何の意味が」


 エイガは盆の真ん中に叩きつけられ、そこについてた錠で盆の上に張り付けになる。

 背中にあたる水が冷たくて、エイガは反射的に腰をのけぞらせたが、それも衛兵に押さえつけられた。


 アレーシアがちょいちょいと指を動かすと上で漂っていた精霊たちがまたアレーシアの元に戻ってくる。

 

「さすがにノーマンから学んでいるだろう?強い感情は精霊を呼び寄せる。精霊が呼び出されれば、大きな魔法を生み出す」


「ま、まさか」


「そのまさかさ、君の強い苦しみの感情と絶望の感情を使って幻精霊、”死の幻精霊”を呼び出す」

 

「そんな――ふざけるなよ!あんたなんか四天王じゃない!何度でもいってやる!」


「どうぞお好きにお呼び、どうせあともうちょっとで死んじゃうんだからなんでも許すよ」


 あっけらかんとしたアレーシアはそんなエイガの言葉には耳も貸さずそう言ってスタスタと歩いて行ってしまった。

 それを見たエイガは絶望したように顔を俯かせる。


「俺、本当の本当に死ぬのかな」

 

 そうぽつりとつぶやいて、エイガは呆然と天井からこちらを見下ろす月を呆然と見つめた。

 ケラケラと笑っているのか憐れんでいるのか、はたまた何とも思っていないのか、よくわからない顔をした月はそれでも美しかった。


「かっこわりぃ、物語の主人公だったらここで逆転したのかなぁ」


 エイガはポツリとそう呟く。

 エイガの上からリアムが杖を振る。

 またあのプールみたいな匂いがしてエイガは意識が遠くなる。

 魔法がかかったことを確認するとリアムはふんと鼻から息を吐きだしてそのまま塔の中から出て行ってしまう。

 あぁ、本当にまずいかも。

 エイガの脳裏にはふとノーマンとモイの顔が浮かんだ。


「結構最近、楽しかったんだけどなぁ」


 エイガはそう噛みしめる様に言いながら拭えない涙を流し、眠りについたのだった。

 

 アレーシアは階段を上り、地上に出るといつもの笑顔が消えた。

 美しい花紺青色の瞳を中庭に向けて、月を見る。


「なんだい?そんな顔して」


 そうアレーシアが声をかけると後ろについてきていた水精霊がゆらりと水の髪をゆらした。

 月を反射した透明な白い瞳が不満そうな色を浮かべている。


 彼女はアレーシアの顔の前にきて、月を遮る。

 アレーシアの目をのぞき込みながらコポコポと泡のような音を出した。

 

「うーん、ユリア。君はまだ母さんのことをわかってないね」


 そう言ってアレーシアは笑いながら、儀式の準備をするべく歩いていったのだった。


 コポポ……。


 ユリアと呼ばれた水精霊がそう音をこぼすと、周りにいた2人の水精霊たちがユリアを慰めるように後ろから抱きしめる。

 一人の水精霊がユリアの手をひけば、つられるように進みだすユリア。

 後ろからもう一人の水精霊がユリアの肩を抱きながらユリアの背中を押し、アレーシアのあとをついていったのだった。

 

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