第67話 人殺
「そ、そんなこと国民は飲んでるんすか⁉」
エイガはアレーシアの言葉を信じたくなかった。
まだ一ヶ月しか暮らしていないが、市場や、中庭で会った人たちとエイガはそれなりの関係を築いてきた。
そんな人達が、自分の周りにいた人間がこんな大量の死体を黙認できる人間が自分を囲んでいたなんて思いたくもなかった。
「何言ってるんだい?私は四天王、国民を守ることが使命だ。この部屋にある骸骨の中に罪なき人間は一人もいない」
「じゃ、じゃあこれ一体どんな人なんすか⁉一人や二人じゃない、100人くらいいるっすよ!」
「うーん、まぁ今までは死刑になった人とか、戦争で死にかけた人を拾ってきてたんだけど。それだとどうしても若くなくてね」
エイガはゴクリと生唾を飲み込む。
「死にかけた人って……まさか生きてる人を!?」
「だって生きてる人間じゃないと意味ないんだもの。死体は使えないから」
エイガは歯をギリリと鳴らしながら歯を食いしばる。
「あ、あんたそれでも人間かよ!あんたなんて四天王に……ノーマンさんと同じ名前を持つにふさわしくない!」
「はいはい、生贄くんキャンキャン吠えないでね~あとそんなこと言うとリアムが――」
アレーシアがそう言い終わる前にエイガの視界がぐるりと回る。
今までアレーシアの少し後ろに控えていたリアムが走り出し、エイガの上に馬乗りになったのだ。
エイガの喉元に突きつけられた短剣。
たった一瞬の出来事、エイガは最初自分が下敷きにされているなんて気が付かなかった。
リアムの瞳孔を小さく、しかし目は大きく見開いている。
「エイガ君、それはいただけないかな」
その蒼の瞳は正気を完全に失っていた。
何かにとりつかれているかのような有無を言わせない圧力。
エイガはまたゴクリと唾を飲み込み、そのきらりと冷たく光る短剣を見つめた。
「さっきはやられたけど、今回はそうはいかないよ」
そう言ってリアムは顔にかかった青いサラッとした髪をはらった。
「あの無能とアレーシア様のことを比べて語るなんて君みたいな奴隷には百万年早いんだよ、君のこともっと嫌いになっちゃった」
このまま喉を掻っ切られるかもしれない。
そう考えるとカタカタと体が震え出した。
「なんか言ってみなよ?それとも怖気付いたの?これぐらいヒデキやケイならすぐに反撃するのに。やっぱり奴隷だからそんな事もできないのかな?」
淡々と、しかし責め立てるような口調にエイガはリアムの言う通り怖気づいていた。
刃物なんて包丁やハサミしか使ったことがない、それを人に向けるなんて包丁を始めて使った時、母に怒られたから恐ろしくてやったこともやられたこともない。
初体験なんて聞こえはいいが、何の役にも立たない、どちらかといえば命を危険にさらす今の状況にエイガは呼吸が浅くなり、心臓が飛び出しそうなくらいに強く、早く脈打つ。
しかし答えなくては。
答えなくてはきっと喉を掻っ切られる。
「ど、れい?」
恐怖の中エイガがやっと絞り出した声はそれだった。
「こらこらリアム」
アレーシアはポンとリアムの肩に手を置いた。
「言っただろう?傷をつけられたら困るって」
「し、しつれいしました、アレーシア様」
そう言ってリアムはエイガの上から足早に退いた。
「奴隷って……どういうことっすか」
エイガはそう静かに、だが震える声でそう聞いた。
アレーシアはあざとく口の下に人差し指を添えた。
「何か変なこと言ったかい?君たちがこの国の国民って言った覚えは一度もないんだけど――もしかして勘違いしちゃった?」
絶対に分かっている口ぶりでアレーシアはニンマリと笑う。
「国民でも、貴族でも、王族でもない。それなら君たちの立場は――奴隷だろう?」
「――は?」
「ハハッその顔傑作だよ、君」
やっと出たその掠れた言葉、アレーシアそう言ってその美しい口元を歪め悪魔のように笑ったのだった。




