第65話 水精霊
エイガの目が光に慣れてきて薄目を開くとそこはまるで別世界だった。
大きく口を開けた真っ黒な穴の真ん中に、人が10人は余裕で乗れそうな白の盆が佇んでいる。
その穴と盆を囲うように細かいステンドグラスが施された塔が建っており、天井を見上げれば大きなドーム状のガラスが被せられていた。
その盆の真ん中からは水が控えめに溢れ、水の盆に美しい円型の波紋を作っている。
先ほどから聞こえていた大量の水が落ちるような音の正体はこの盆から零れ落ちた水だったのだ。
「さーてと、リアム!準備できてる?」
アレーシアがそう叫ぶと、ゴゴゴゴと何かがずれる音がして奈落の底からいつか見た人型の水精霊3体とそれの一体にひっぱりあげられてくるリアムがいた。
「遅いですよ、アレーシア様。この子たちアレーシア様の言うことしか聞かないんですから」
アレーシアが手を伸ばすと水精霊たちはアレーシアの元に集まってくる。
アレーシアの伸ばした手を掴んで、自らの頬にあてる者。
腰にしがみついて、じゃれつく者。
はたまたアレーシアの顔に自分の額を当てる者。
3人の美女がアレーシアにまとわりついているというなんとも神秘的な絵に見える。
「綺麗だろ?私の子供たちは」
アレーシアはふいにエイガを振り返りそう聞いてきた。
「え、あ」
エイガはふとこの光景に既視感を感じた。
何かと考えていると、あっとエイガは声をあげる。
「噴水の像」
「あれ?君中庭で見つかったんだっけ?運がいいね」
そう言ってアレーシアは水精霊たちに向かってついっと上を指さした。
すると3人の水精霊たちはゆるりとアレーシアから離れ、ふわりふわりとクラゲのように塔の中を漂い始める。
最後の一体が名残惜しそうにアレーシアの腕を伝いながらそっと離れていく。
アレーシアがじっと精霊たちを見つめている。
アレーシアの白い腕に黄色のビー玉があしらわれたブレスレットが袖からちらりと見えた。
月の光を反射してきらりと光っている。
アレーシアの腕の先に見える精霊たちを見つめる目はうっとりとしていた。
「あ、あの」
エイガが声をかけるとアレーシアはすぐいつものペテン師のような笑顔に戻った。
「そう、君の言う通りあの子たちはあの像の精霊だ。私の契約している水の幻精霊。あぁ見えてものすごく強いんだよ」
そう言うアレーシアの目は海色に光っている気がした。




