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第61話 逃亡

「はぁ、はぁ」


 エイガは訳も分からずまるで神殿のように清廉な廊下を走っていた。

 ランタンに照らされる白磁の壁はどこまでも続き、走っても走っても端が見えない。

 左側は壁がなく、中庭につながっていた。

 広い中庭だ。町では見たことがないような、南国チックな植物がわんさか生えている。

 その真ん中には青白い光に照らされ、凝ったデザインの噴水が立っていた。

 人魚のような怪物が3匹噴水の軸にまとわりついて、美しいというより気味が悪い。

 いつも買い物に行くときに中央広場で見かける大きな噴水よりも大きかった。

 

「ここ本当にどこなんだよ」


 出なければ殺される、それをエイガはわかっているものの、途方に暮れていた。

 なぜならさっきから走り回っているのに一向に端っこにつく気配がないのである。


「俺本当にどうすれば……」


 壁際に一定間隔でに飾られている花瓶、しかしその中に花は生けられていない。

 ただただ同じ花瓶がずっと並んでいるのである。

ずっと変わらない景色のせいで同じ場所をぐるぐる回っている気すらする。


「はぁ、はぁ、もう俺走れねぇ」


 走る体力もなくなってきて、見つからないよう中庭の植物に身を隠す。

 

「私の分まで怒れって……意味わかんねぇ」


 肩で息をしながら、エイガはふと烏山の言葉を思い出した。

 

 「委員長は悪くないのに、どうして俺が怒るんだよ」


 意味が分からな過ぎてエイガは頭を掻きむしった。

 

「エイガ君、出てきなさーい」

 

 がさりと後ろで音がした。

 びくりと跳ねるエイガの肩。

 エイガが恐る恐るゆっくり後ろを見ると、そこにはあの大きな噴水を背景に、海のような蒼髪を持つ、インクルをかけた青年が廊下からこちらに向かって一直線に歩いてきていた。


「エイガくんよく喋るんだね、おかげで早く見つかって助かったよ。えぇっとここらへんのはずなんだが」


 キョロキョロと見回す姿を見る限り、こちらにはまだ気づいていないらしい。

 気づいてないのに、ここがわかったっていうのか?

 

「リアム様、こちらにはいません」


「こちらもです」


「うぅ、この中庭植物が多いから分かりづらいんだよなぁ、でもここにはいるはず」


 なんでそんな確信を得ているのか、まったくわからない。

 追手はいなかったし、この近くにはドアもなかったはず。

 どうして……。

 エイガは訳がわからなくて、バクバクと音を立てる心臓を押さえながら息を潜めた。

 大丈夫、見つからない。

 落ち着こうと小さく息を吐いた瞬間だった。

 

「あぁそこか」


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