第60話 義理
エイガのキョトンとした顔に烏山は小さく笑うとその顔を横目に見ながら烏山は妙に清々しそうな顔で続けた。
「委員長も、圭が嫌ってたのもわかるわ」
「え、おれ伊豆にも嫌われてんの?」
「えぇすっごく、ちなみに私もちょっと嫌い」
エイガは困惑したように眉を下げた。
「えぇ……委員長はわかるけど、お前らとはほとんど喋ってすらないんだけど」
「一ついいこと教えてあげるわ、人に嫌われる理由ってなにもあんたが必ず悪いことをしたから嫌われるわけじゃないのよ」
「悪いことしたから嫌われるわけじゃない?」
「全部そうってわけじゃないけどね。あんたのことは嫌いよ、なにもされてないけど」
「そ、そんなぁ」
情けない声をあげるエイガに烏山はクスっと笑った。
「あんた見てるとイライラするから」
「え……ごめん」
「謝んないで」
「えぇ」
烏山は握られていた翼をそっとエイガの手から抜き取って、立ち上がる。
「私はもうどうせ死ぬ。なら」
大の字にまだ寝転がっているエイガに烏山が向き直る。
エイガに立ち上がるように促し、少し下がるようにてぶりをする烏山。
「腹立つのよ、委員長もあんたも。私はどうせ何もできない。でもこのまま何もできずに死ぬのも嫌」
烏山は牢屋に手を伸ばすと、次の瞬間ビュンと風が鳴りガシャンと大きな音を立てて、鉄格子が切れた。
「怒ってみなさいよ! 私の分まで!」
上からバタバタと数人が階段を降りる音が聞こえた。
きっとさっきの委員長みたいな見張りだ。
「で、でも俺委員長に怒る資格なんて」
「次そんなことほざいてみなさい!この鉄格子と同じ目に合わせてやる!」
「待ってくれ、どういうことだよ?それになんでお前が死ぬって……」
「行け、出来損ない!」
エイガは戸惑いながらも烏山の発破に慌てて起き上がり、烏山が指差す方向へと走り出した。
それを見送ったあと、後ろから追いかけてくる足音を聞きながら、急いで自分の翼の上に鉄格子の破片を乗せ、壁にもたれかかった。
「何事!」
蒼髪を揺らしながらアレーシアの一番弟子であるリアムを始め衛兵たちが降りてきた。
烏山は顔を俯かせゴクリと唾を飲みながら、エイガが走っていた方向とは逆を指差す。
「すみません、あいつ魔法使えたみたいで。油断しました」
「今すぐ捜索して。逃げられれば厄介だから。僕も探すから全員いつものウォーターベルトをを持つことを忘れないこと」
バタバタと走っていくリアムたちをこっそりと盗み見ながら、全員が去ると緊張がほどけた反動でため息が出た。
「うまくやんなさいよ、本当に」
烏山が安堵から翼を床に下ろした時だった。
「随分ホッとしてるじゃない?攻撃を受けたっていうのに」
横から聞こえた声に烏山の背中にブワリと鳥肌がたった。
烏山が動揺を隠すのも忘れて振り返れば、そこには白い装束に身を包んだ美女が立っていた。
「なんで……ここにいんの?圭」
そこにいたのは、あのモイを式典で嘲笑っていた伊豆圭だった。
烏山が震える声でそう聞けば曲げた指を口に添えながらクツクツと伊豆は笑う。
「いや、なんだかすごく面白そうな匂いがしたから。ついつい寄ってきちゃった」
伊豆の顔はまるで新しいおもちゃを見つけた、しかし狂気がにじみ出た笑みだった。
烏山は喉をヒュッと鳴らしながら、止まらない震えを必死に抑え込みながら口を開く。
「こ、殺さないで……」
「そんなひどいことしないわよ、私は」
そう言って伊豆は烏山に歩み寄っていった。
烏山の前までくると、烏山は逃げ場のない壁にさらに体を寄せ、反らす。
その姿を目を細めながら見下す伊豆。
次の瞬間、まるで雑草でも抜くような勢いで伊豆が烏山の前髪を掴んだ。
「い、あ、が!」
「私、裏切者は嫌いなの」
痛みに喘いでいる烏山の顔を伊豆が愉快そうに目じりを歪めながら、そのまま烏山を地下牢の奥へと引きづっていった。
その後しばらくして、地下牢には甲高い断末魔がこだましていたのだった。




