第59話 贖罪の願い
委員長が去ったあと、むくりと烏山が起き上がった。
ピチョン、ピチョンとどこからか水が垂れている音がする。
外は雨なのだろうか。
烏山は起き上がってしばらく虚ろな目でぼーっとしばらく斜め上にあった松明を見つめていたが、ふぅと息を吐く。
目を袖で拭い、まるで縋るように自分の翼を握った。
「腹立つなぁ……」
烏山がボソリと呟くとふと牢屋の中でモゾッと何かが動く。
エイガが目を腕で覆っている。
床に大の字でゴロンと寝そべっていた。
苦痛に耐えるよう唇を引き結び、時々腕に涙が滴る。
あぁ、水の音はこの音だったのか。
烏山は何かを迷うように瞳を揺らしたあと、そっと牢屋ににじり寄った。
「あんた……同情はする」
烏山はそう言って牢屋の隙間から翼を差し込んだ。
「あたしの翼ってお守りなんだって、いいことあるかもよ」
エイガは少し腕をズラしてその差し出された翼を震える指で握った。
「委員長、俺のこといつから嫌いだったのかなぁ……」
力無くそうポツリと言いながらエイガは腕を顔からよかした。
その目は赤く腫れており、相当泣き腫らしていたことが分かる。
翼を貸しながら、烏山は牢屋に背を向けた。
「人ってそういうもんでしょ、裏では何を思っているか分からない。それに一々傷ついていたらきりがないわよ」
エイガはそう答えた烏山に畳み掛けるように早口で言った。
「じゃあ俺委員長に好かれるにはどうすれば良かった? もっと勉強すれば良かった? もっと変なことすれば良かった?」
それに烏山は答えなかった。
エイガは急に喋る速さを落とす。
「自分が嫌になる、俺ずっと委員長に我慢させてたんだって……」
「……え?」
烏山は耳を疑い、目を見開いてエイガを見た。
「ごめんって言って許されるわけないけど……俺は――」
「なんで?」
烏山がエイガの言葉を遮った。
「え?」
「なんであんたが謝るの?」
「え、だって――」
エイガは意味がわからないと言うように体を起こした。
烏山はエイガを信じられないものを見る目で見つめた。
こいつ、なんでこんなに――
「あんた怒っていいのよ?絶対にあっちが悪いじゃん」
「で、でも嫌な気持ちにしたのは俺だし……」
「あんたそれ以上に嫌な思いさせられてるのよ?裏切られたのよ?なのに怒んないの?」
今度は烏山が畳み掛けるような口調になり、エイガはたじろぐ。
何とか答えようと、手遊びをしながらエイガも釣られて少し早口に答えた。
「だって俺がもっと気をつけてれば委員長は俺の面倒なんて先生に押し付けられなかっただろうし、もっと性格良かったら委員長は俺といるの嫌にならなかったかもしれない」
「あんた、腹立たないの?」
「だって……委員長はこんな俺に優しくしてくれたから」
「なっ」
「俺は委員長に救われたんだ、でも俺……」
「あんた……」
また俯き出すエイガに何かを言おうとした烏山だったが、口を閉じる。
「いや、私が言う資格はないわね」
そうポツリと呟いて、烏山はエイガに背を向けたまま話し続けた。
「あんたってさ、想像以上にお人好しなのね」
「え?」
思ってもない言葉にエイガは顔をあげた。




