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第54話 帰路

「あー終わった終わった」


 ノーマンはそう言って伸びをしながらあくびをした。

 外はもう日が沈んでおり、ガス灯が光り出している。

 城壁の上にはチラチラと星が瞬いていた。

 緑の塔から出るとひんやりとした風がエイガの頬を撫でる。

 今日は本当に色々あった。


 ノーマンはユリヴァとリリベルを叱ったあとも働き続けたというのに、顔は朝と変わらず少し気怠げな表情を浮かべているだけだった。

 エイガとモイはその後ろを追いかけながら帰路についた。 


「にしても緑の塔から出る時、すっごい見られてた気がするんだけどあれなんなんだ?」


 エイガがモイに聞くと、モイは首を傾げた。


「いやーあれはですね、こわーいノーマン様に連れられるエイガさん達を憐れむ目ですよ。ユリヴァは結局塔の中をニルに引きずり回されてましたし」


 後ろからひょっこりとオーリアが顔を出すものだからモイとエイガは驚いて後ろに飛び退った。


「オーリア、お前今日は帰りか」


 そう言ってノーマンは後ろを振り向く。


「いやーはい。そろそろ帰らなくては兄様の部屋の掃除が間に合いませんので」


「あぁユノか、今回帰ってくるんだな。頼まれたのか?」


「いや、でも多分兄様、伯母様が部屋に入れないようにしてるでしょうし掃除できるのは私だけかなと。綺麗な部屋のほうが嬉しいでしょう」


 オーリアさんってお兄さんいるのか。

 叔母さんと仲悪いのかな、お兄さん。

 オーリアのお兄さんを想像してみると大仏のような微笑みを浮かべたポテッとした男の顔が頭に浮かぶ。

 こんな感じかな、でもそんな人が家族と仲が悪いとは到底思えない。

 似てない兄弟なのだろうか。

 エイガがそんなことを思っているとノーマンがふとブルムを呼び出した。


「ブルムを一匹連れてけ、お前の実力なら大丈夫だとは思うが見つかった時にはブルムに頼め」


「いやーそうさせて頂きます、ありがとうございます〜」


 そう言ってオーリアは箒に乗ってどこかへ飛んでいってしまった。

 エイガはあることが気になった。

 

「見つかるって何にっすか?」 


 するとノーマンは肩をくすめてみせる。


「あいつも色々あってな。言ったろ?治癒師は不良の集まりだって」


 どうやら細かいことを教える気はないらしい。


「オーリアさんが不良かぁ」


 頭の中でオーリアにコテコテの不良コーデを着せるエイガ。

 なんとも一番似合わない姿である。


「似合わんすね」


「まぁな、暴言は吐かんし気は弱そうだがあれでも俺の次に治癒魔術に長けてる奴でもあるんだぞ」

 

「へぇー」


 やっぱり副隊長というだけあって実力がある人なんだな。

 あれ、じゃあ前の魔族襲撃ってかなり運が良かったということなのではないだろうか。

 たまたま近くをオーリアが歩いていて、ノーマンに通報。

 たまたまノーマンが来ることができて子供は治り魔族は倒された。

 もしあの時誰かが欠けていたら死人が出ていただろう。

……あれ?


「それよりエイガ、お前よくあれだけの怪我で済んだな、かなりの衝撃だったろ」


ノーマンの言葉で思考が現実に戻ってきたエイガ。


「え、なんすか?」


ノーマンの言葉が聞こえずエイガは聞き返す。


「なんだ疲れたのか?今回はすまなかったな、患者の中にはああいうやつもいると言っておけば良かった」


「い、いや!ノーマンさんが謝ることじゃないっす!」


 ノーマンは申し訳なさそうに目を伏せた。


「煮え切らない結果かもしれんがお前を殴ったあのグリズという男も本当に切羽詰まってるんだよ。許してやってくれ」


「いや、いいんす。それに俺もなんでか腹立たないんで」


 エイガに戦争のことはやはりまだ全貌はわからない。でも自分が想像できる範囲を超えた、人の顔を変えてしまうような恐怖を、あのグリズという男は経験してきたのだろう。しかもそれを三回。

 責められるわけがない。きっと自分に責める権利はない。


「ありがとうな」


 ノーマンがエイガの頭を撫でた。

 ノーマンは褒める時よくこうやって頭を撫でる。

 エイガはこの撫でが好きになってきていた。

 

――顔たるみきってる、お人好し


 モイがそう日本語で書いて見せてくる。


「なっ、いいだろ別に。俺が許せばそれでいいの。それにモイに殴られた時の方が痛かったもんね」


するとモイはムッとしてドスッとわき腹にひじを入れた。


「あー痛い!俺さっき肋骨折ったのに!」


 エイガが悶える仕草をするとモイはサッと顔を青くする。


「モイ、心配するな。俺がブルムを使って治したから痛いわけがない」


 するとエイガに騙されたと気が付いたのか今度は思いっきりエイガの足を踏みつけるモイ。


「わ、悪かったって。痛い!」


 無言でエイガの足を踏み続けるモイからエイガが逃げて部屋の中で追いかけっこが始まる。


「こら、お前ら子供みたいなことをするんじゃない」


 そう言うノーマンの顔はエイガたちを諫めながらも――笑っていたのだった。

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