第53話 回収
そんな話をしているとふと部屋の扉が開く。
黒髪がぺったりとローブにかかり、彼が動けば艷やかに光を吸い込みはらりと揺れながら反射する。
丸眼鏡の先にある目はやる気のない死んだ魚の目をしているというのに、その姿の裏に知能を感じた。
「おぉニル、早かったな」
そうノーマンが言うのも構わず、スタスタと部屋に入ってきたかと思うとニルと呼ばれた男は伸びているユリヴァの前に座り込む。
じっと胸のあたりを確認している。
ユリヴァに胸が上がり下がりしているのを見つめて、ニルはため息をついた。
心配してたのかな。
するとニルはチッと小さく舌打ちをした。
え
ニルはノーマンを振り返るといい笑顔で残念そうにその形のいい眉を下げた。
「残念、死体ではなかったですか」
その言葉にエイガはぎょっと目を剥き、ノーマンは片手で顔を覆った。
「部下を殺すか、俺をなんだと思ってる」
「いやはや、ノーマン様なら死者蘇生だってできそうだなーと。それを私に試させてくれるのかとワクワクしてきたのに。残念です」
顔がいい分その一言一言に狂気が滲んでおり、エイガは思わず体を少し引く。
「まぁお弟子様もいるようですし私はささっとこいつを連れ帰りますね、お騒がせしました」
するとユリヴァの両足を掴んで引きずりだすニル。
「ちょちょちょ、それ駄目ですって!それ下手したら髪の毛ハゲますよ」
――そっち?
するとニルはエイガの言葉に不思議そうな顔をして、首を軽く傾げた。
「何をおっしゃるお弟子様。それはこいつの自己責任というものです。まだ大事に運んでやるというだけで私はまだマシです。私以外なら蹴って運ばれますからね」
「いや治安悪くないっすか?」
ノーマンを思わず見ると、ノーマンは素知らぬ顔。
どうやらこのニルっていう人の言うことがおかしいわけではないらしい。
「ぶっ倒れた人間には命以外保障しないというのが我々の暗黙の了解ですから。どう運ぼうと私の自由、倒れるこいつが悪いのです」
ではではと言って、ニルはいい笑顔でユリヴァをズルズルと引きずっていった。
「ノ、ノーマンさん。ここどうなってるんすか」
「別に珍しい光景でもないだろ」
「いや珍しいっていうかさっきから濃い人多くないっすか!?」
「濃いってなんだよ」
上司であるはずのノーマンに決闘を挑む奴や、人を笑顔で引きずり回す美男子。
さっきから会う治癒師全てが濃い!
「荒くれ者が多いからな、治癒師は」
「治癒師って優しい人が多いのかと思ってました」
「バカ言え、治癒師といえば不良ってこの国では有名だぞ」
「嘘ぉ」
エイガは先ほど引きずられて、少し抜け落ちた短めの紫の髪の毛を見つめた。
本当にこの世界に来てから想像と違うことが起きてばかりだ。
魔法は使えないし、人は目の前で死にかけるし、治癒師の塔で殴られるし、治癒師は濃い人ばっかだし。
「なんかそろそろ何が起きても平気になりそうっす」
エイガはそう言って頭をかいた。




