第47話 名
「おぉ、おぉ無能の四天王様のお出ましか、無能な部下のしつけはしっかりしとけって女王に言われなかったのか」
挑発するようにそう言った男の前にノーマンは黙って立つ。
エイガがノーマンに話しかけようと抱きかかえられながらも体を起こす。
「ノーマンさん……」
ノーマンさんは絶対無能なんかじゃない、それを言ってやりたいのに体が痛みでうまく動かない。
ノーマンはこちらを見ず、大男を見つめたままオーリアに言った。
「オーリア、エイガに治療を頼む。第二肋骨と第五腰椎骨折、血管は自然治癒でいい」
「了です!」
オーリアに運ばれエイガは少し離れた場所で寝かせられる。
するとモイも恐る恐る近づいてきた。
――よく生きてたね
そう書かれた黒板を見せながら、治療をしようとするオーリアに、先ほど配っていた魔法薬を手渡すモイ。
さすがに気が利く。
ふと自分が叩きつけられた壁を見ると大きくへこんでいた。
痛みでわからなかったが、あんな衝撃を受けて無事だったならまだラッキーだったのかもしれない。
ただ――。
ふとエイガはノーマンと大男の方へと視線を向ける。
「無能の四天王様は安全な国の中でぬくぬく過ごして、俺たちみたいな勇敢に戦った戦士は国に帰ったら冷遇されるっていうのはちょっとばかし不公平なんじゃないか」
するとその意見に同調したのか、周りの患者から野次があがってきた。
「たしかにそうだ」
「俺たちは腕やら、足を失ったのに。どうして一番戦力のはずの四天王は戦わないんだよ、おかしいだろ!」
「お前が行けばいい、お前が戦場に行ってこいよ!」
大きくなる野次にノーマンは周りを一瞥して黙ったままだ。
するとその騒ぎを聞きつけたであろう男の治癒師がもう一人走ってきた。
濃い紫色のローブを羽織り、鼻息荒くこちらに走ってきたかと思えば、ノーマンと大男の前に躍り出る。
どうやらさっきの野次を聞いていたようで顔はりんごのように真っ赤、歯をくいしばり鼻息を荒くしているその姿からはヒシヒシと怒りが伝わってきた。
「お前ら本気でそんなこと言ってるのか⁉緑の塔で治癒を受けておいてノーマンさんを悪く言うなんて――」
するとノーマンがその言葉を遮った。
「いい、リリベル」
「だけどよ、ノーマンさん!」
「戦えないのは本当のことだ、俺がこいつらの言葉に言い返す権利はない」
すると大男が小馬鹿にして嘲笑うように笑った。
「四天王様がなさけねぇ!お前なんかさっさと戦場に送られて死んじまえばいいんだ!」
ノーマンがふと大男に一歩近づいた。
「――グリズ」
ノーマンがそう呟けば笑っていた大男の笑い声がピタリと止まった。
「なんで俺の名前を知ってるんだよ」
グリズと呼ばれた大男が眉をひそめながらそう言った。
「当たり前だろ、小さい頃から何度お前がこの緑の塔に治療に来てると思ってる」
そうノーマンがいうとグリズが目を見開いた。
「お前に見られたことはないはずだが」
するとノーマンは苦笑して答える。
「子供や出兵から一度帰ってきた奴は俺が検査して健康に異常がないか調べることになっている、だからお前が今回3度目の出兵だったことも、その腕が今回失ったものじゃないってことも知っている」
するとグリズが押し黙った。
「お前は今回でしばらく出兵がなくなるんだってな、伝令役から聞いたぞ」
「だからどうしたんだよ……どうせまた出兵するのに」
そうぼそりと呟き、俯いたグリズの言葉に周りの患者たちもつられるように俯いた。
エイガから見てグリズの体はさっきの殺気立っていた時よりもどこか小さく見えた。
ノーマンはポンとその男の肩に手を置く。
「いいや、ただまたあの図体に見合わない、お前の優しい顔が拝めてよかったと思っただけだ」
――優しそうな、顔?
エイガはもう一度グリズの顔を見た。
眉間に皺が寄っていて、顔に影も多くてどう見ても優しそうな顔ではない。
前はもっと優しい顔だったのだろか。
でも戦争で人の顔は変わるものなのだろうか。
エイガはノーマンの言っていることが分からなくて、首を傾げるばかりだった。
「家に帰ったらあたたかいものを食べろ、面倒ならここで用意する炊き出しでも食べていくといい」
「そんなものなんになるんだよ」
それを聞いたノーマンは切なげに目を細めた。
そして今度は突然グリズの大きな手にノーマンは自分の手を重ねた。
エイガはその行動にぎょっと目をむく。
それは周りも同じだったようで、エイガの治療を終えていたオーリアもモイも、辺りにいた患者も治癒師もポカーンと二人を凝視していた。




