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第45話 からっぽ

 ふと気が付くと、エイガの箱がからっぽになっている。

 エイガは空っぽになった箱の追加をもらうためにノーマンがいるはずの部屋に向かう。

 ノーマンの部屋の前について、箱を持ちながら扉を開けるのに苦戦していた時だった。


 「おいお前それ治癒魔法薬が入ってる箱だよな?俺にもよこせ」


 ふとしゃがれた低めの声が聞こえて、後ろを振り向くとそこには筋骨隆々の柄の悪そうな大男が立っていた。

 腕が一本なくなっており、肩から腰にかけて大きく包帯が巻かれていたが、包帯にはじんわりと血が滲んでいる。

 

 エイガはあまりの迫力に唾を飲み込む。

 しかし今治療魔法薬は切れたところだ。持っていない。


「す、すんません、ちょうど切らしちゃってて。待っててくれたら担当の治癒師さんに新しいの持っていくんで――」


「怪我人がいるっているのに出せないっていうのか⁉どうせ隠し持ってんだろ! あ゛⁉」


 青筋を立てながら大男がエイガに向かって怒鳴った。

 ビクリとエイガの肩が跳ねる。

 男があまりに大声で怒鳴り散らかしたので、あたりの視線がこちらに集まった。


 「え、えぇっと……」


 突然怒鳴られて、エイガは声が震えだす。

 どうしよう、何か言わなきゃなのに声が出ない。


「おいなんか言えよクソガキ!」


 鈍い音が聞こえたかと思うと、エイガの視界が横に流れる。

 背中に大きな衝撃を感じながら、エイガは何が起きたのかと体を起こす。

 頬と体が痛い。

 殴られて壁に激突したのだと理解した瞬間に体中に電撃が走ったような痛みが広がる。

 痛い、痛い。

 エイガは起こしかけた体が言うことを聞かず、そのままべしゃりと床に倒れた。


 さっきまでガヤガヤと所々から聞こえていた声がシンと静まり返った。


「おいさっさと魔法薬持って来いよ!早くしろ!」


 エイガの髪を鷲づかみにして、大男がエイガの体を無理やり起こした。


「俺みたいなやつには持ってこれないっていうのか?無能の四天王の下でしか働けない無能の治癒師が!」


 何を言っているんだろう、四天王ってことはノーマンさんのことだろうけど、ノーマンさんは無能じゃない。

 とっても綺麗ですごい魔法を使う、本当にすごい治癒師なのに。

 

 痛みで意識が朦朧としていると、若くも怒りを帯びた怒鳴り声が大男の後ろから聞こえてきた。

 

「おい、お前何してる!? お前はじっとしてろって言っただろ⁉」


 後ろからおそらくこの大男の担当だった治癒師が追いかけてきた。

 すると怒鳴られたのが気に触ったのか、エイガを掴んだ手をそのままに、その治癒師に振り向く。

 

「こいつが治療魔法薬をよこさねぇからよ、さっさとしろって言っただけだ」


「お前は治癒魔法薬を飲んでも塗っても意味がないと言っただろう! 早くそいつを離せ!」


 すると大男も負けじと大声で張り合う。

 

「俺は治癒魔法薬が欲しいって言ってんだよ!」


「話の通じん奴だな! 少し痛い目みせてやろうか⁉ あぁん⁉」


 治癒師の男が杖を構えだしたのでエイガは目を見開いた。

 あぁまずい、このままだと俺の頭がサンドバックにされそう。

 視界がかすむ、息もしずらい。

 今にも二人の乱闘が始まりそうな雰囲気の中、エイガは目を閉じた。

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