第42話 今日
エイガとノーマンが一緒に笑うとエイガの頭に止まっていたブルムが飛び立ち、ノーマンの元へと戻る。
指を差し出すのを待っているのか、ノーマンの前でホバリングしている。
「満足したのか?」
ノーマンがそう言いながら手を差し出すとそこに止まる。
羽根を揺らすとまたあのキラキラとした音がした。
「"笑ったから帰る、次呼ぶときは笑って私を出迎えてって伝えて"だって? なんだそんなにこいつの笑顔が嬉しかったのか?」
それには答えずブルムは飛び立っていた。
ブルムが見えなくなると、ノーマンはクフっと可笑しそうに笑った。
「あのブルムが人に興味を持つとはな、明日は槍が降るぞきっと」
「ブルムってなんだか幼い子どもみたいっすね」
エイガがそう言うとひょっこりとまたブルムが現れた。
エイガはびっくりして肩を跳ねさせたが、ブルムはキラキラとなにかをノーマンに言ってまた消えた。
「"私子供じゃない"だとよ。気をつけろよ、ブルムはトイレとか不浄の場所以外はどこにでもいるし、なんでも聞いてるからな」
「え、ブルムが持ってる力って人を治す能力じゃないんすか?」
「は?そう思ってたのか?ブルムの属性は光だ。女神の力は使わん」
「へ、へぇ」
なら治癒の時にブルムを出すのはなんでなんだ?
それも聞きたかったが、ふいに大きなあくびが出た。
今まで溜まっていたものを吐き出して安心したのだろう。
気になったがそれはまた明日にでも聞けばいい。
エイガも立ち上がった。
「もう遅いんで俺寝るっす。ありがとうございますっす」
「そうか、だがそろそろ訓練の時間だぞ」
「エ」
エイガは驚いて外を見ると確かにそんな感じの空色に見える。
「え、えーっと今日流石にやったら寝不足で使い物にならない気がすんっすけど……」
「治癒師になりたいなら寝ずの晩もよくある、いい機会だ慣れろ」
「そんなぁ」
いたずらっぽく笑うノーマンにエイガは半べそで泣き言を言う。
「なんだ、治癒師になりたいんじゃなかったのか?」
ニヤニヤと笑いながらノーマンも立ち上がり、エイガの額をツンと指で突く。
「なりたい!!っすけど眠いもんは眠いんす!」
「正直なもんだ、だが俺も今日は早めに塔に行かなくてはならんから、長くはない……あ」
ノーマンはふと思いついたように声を漏らす。
「エイガ、今日は寝ていいぞ。時間になったら起こす」
「え、なんすか逆に怖い」
エイガがノーマンの突然の手のひら返しに一歩後退ると、まぁまぁとノーマンは笑みを絶やさない。
「今日は校外学習だ、俺の仕事場に行く」
「え、確か今日って……」
ふとノーマンが今日は大規模な兵の入れ替えの日だから夜まで帰れないと言っていたことを思い出す。
「お前が俺よりできんと劣等感を抱えることがいかに馬鹿らしいか教えてやる。モイにもいい刺激になるだろうしな」
そう言ってノーマンは立ち上がり、モイを起こしに向かった。
「え、えぇ」
エイガは嫌な予感が胸を駆け巡ったが、そんな気持ちとは裏腹に瞼が重くなる。
ふと手のひらの上に緑色の光が降りてきた。
――俺治癒師になれんのかな
強い眠気に抗うことが出来ず、エイガはその机の上で突っ伏しながら眠った。
モイの部屋の前まで来ていたノーマンは振り返り、エイガが寝落ちしているのを確認するとフッと笑った。
「おやすみ、すぐ起こすがな」
ノーマンがそう言えば、またブルムが肩に降りてきた。
キラキラと音を立てるとノーマンは小さくハハッと笑った。
「俺だって甘やかしたくなることはあるさ。誰だって自分の仕事を褒めてくれるやつは好意的に感じるし嬉しいだろ」
そんな二人の会話なんてつゆ知らず、エイガはもにゅもにゅと心地よさそうに口を動かす。
起きた後の1日が人生をひっくり返すような1日に繋がっていると知らずに。




