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第3話 薬草の男

 カツカツと革靴を鳴らしながらの廊下から向かってきたのは、アレーシアと同じような黒いローブを羽織りカラス面を被った長身の男だった。彼がエイガの前を通り過ぎると染み付いた苦い薬草の匂いがした。


「あれ〜四天王さまがこんなところにいていいの?」


 おどけてそう言うアレーシアの前に男はズカズカと歩み寄ってくると、その胸ぐらを掴む。


「お前!!最近大人しいと思っていたら……なんてことを!!」


 ザワッとしたどよめきと緊張感がその場に走る。突然目の前で人が胸ぐらを掴まれたらそうもなるだろう。


「まぁまぁ、ほら子供たちも見てるし」


「善人ぶるな!虫唾が走る!」


 当のアレーシアは胸ぐらを掴まれているというのに全く慌てる様子がない。どちらかといえば愉快そうに笑っている。


「あ、ノーマン様!いたぁぁぁぁぁ!」


 そう声が聞こえて振り返れば長身の身なりを整えた男がこちらに走ってきている。

 艶のいい青い髪を一纏めにして肩に乗せ、インクルの紐を揺らす青年――いや成人男性だろうか?エイガたちより少し年上ぐらいの彼は転びそうになりながら廊下を爆走し、アレーシアたちの間に飛び込むと即座にアレーシアからノーマンと呼ばれた男を引き剥がした。


「ちょっとノーマン様!やめてください!僕なんですよ、始末書書くの!!」


「リアム!お前もお前だ!全員クズじゃねぇか!」


「はいクズです!でももうやっちゃったんです!召喚反対って言ってももうやっちゃったんですぅぅぅぅ!戻りますよ!これから式典ですから!」


「待て一発あいつを殴らせろ!そうせんと俺の腹の虫が治まらん!」


「帝国治癒師総長が何言ってるんですか!国民に聞かれたらただでさえ悪いイメージ悪化しますよ!」


「そんなもん知らん!離せぇぇぇぇ!」


 そう言って引きずられていったカラス面のノーマンと呼ばれていた男とそれを引きずっていった男にクラス全員が呆気にとられていたが、アレーシアがパンパンと手を叩いたので意識がそちらに移る。


「はいはーい!じゃ老害おじさんが消えたところで面会行ってみよー!」


 クラスメイトは何だったんだ?老害?と口々に囁きながらも、アレーシアが後ろに視線だけで無言の圧をかけたのでその言葉たちはなりを潜めた。

 きっと自分たちにさっきの光景がなんなのか知る権利はないのだろうと賢い者は悟ってそのまま従う。

 そんな中エイガはこっそりともう一度あの男が引きずられていった方向を見た。


――あの人、俺たちの召喚を反対してくれてたってことか?


 エイガはそんなことを思いながら視線を戻そうとすると、同じく後ろに目をやっていた栗原と目が合った。


「……」


 スッと目線を逸らされる。

 エイガは少し気まずくなりながら先程の男のことを思い出していた。


 普通ならあの男を異常だと思うのが正常なのだろうが、エイガにとっては今まで会ったこの世界の人間で一番親しみを感じたのだった。




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