第38話 出来損ないとは
エイガが泣きやんできて、様子をそれまでジッと見ていたノーマンだったが、ふとノーマンは口を開いた。
「お前は俺に似ているな、エイガ」
「え?」
予想だにしていなかった言葉にエイガは少しだけ顔をあげる。
ノーマンと目が合った。
フッとノーマンは笑い、ランタンの火をエイガとノーマンとの間に置き直した。
そして引き出しを開けて中を弄りだし、取り出したものは古ぼけたオレンジ色のエンブレムだった。
「俺は元々庶民の出でな、親父は魔族に襲われて死んでお前の5歳くらい下の頃までずっと一人で郊外の田舎に住んでいた」
エンブレムを手の中で転がして、ノーマンはふと思い出すように斜め上を見た。
「だが魔法を使えることを聞きつけた俺のお袋の生家、下級貴族に13歳の頃引き取られるという名の誘拐に遭った」
「え、それ本当すか?」
「別に珍しいことじゃないだろ?」
子供の誘拐が珍しいことじゃない……。
「んまぁ、それでなんだかんだ俺は貴族の世界に半分足突っ込んだわけだ」
「さっきから貴族貴族って言ってますけど、そもそもこの国貴族っていたんすか」
この国で過ごしてもう一ヶ月ほど経つがそんな感じの人は見たことがない。
そういう場所に住んでいるからか、いや仮にも四天王のそばにいるのに貴族に一度も会わないなんてあるんだろうか。
エイガはしゃくり上げながらもそう言うとノーマンは肩をすくめてみせた。
「今じゃもうほとんどいないも同然だがな。一応今でも魔力を使う才能があるのは基本血筋に貴族が入ってるやつだ」
「へぇ」
なんだか本当に日本と違う世界である。
西洋の文化なんてしらないし、王様がほっほっほしている姿しか思い浮かばないが元の世界でも似たようなものだったんだろうか。
委員長なら知ってるだろうな。
ふと委員長はどうしているかと思った。
音沙汰ないがアレーシアさんとブリキの元で修行しているんだろうか。
勇者だもんな。
「貴族になると必然的に魔力を持つやつっていうのは魔法学園に行かなくてはならないんだが――」
「あぁオーリアさんに学園のことは聞きました。ノーマンさんどうだったんすか?」
するとノーマンは手で転がしていたエンブレムを指で弾く。
落ちてきたエンブレムを掴むようにしてキャッチすると、ノーマンは改めてそのエンブレムを懐かしそうに指で撫でた。
「周りは生まれてから貴族の奴らばっかだぞ。俺を引き取った奴からの小言を聞きながら庶民上がりの俺はすぐに落ちぶれたよ」
「え、ノーマンさんが落ちこぼれ?」
エイガがキョトンとした顔をするのでノーマンはあぁと苦笑しながら頷く。
「魔法は生活魔法以外基本的なものすらまともに使えないし、座学もからっきし。庶民生まれでマナーも悪いんだからそりゃ落ちぶれるだろ」
「えぇ信じられないっす」
「本当だよ、お前よりおそらくひどかったぞ。お前は一人でシクシク泣くだけで害がないが、俺はあまりにムカつくことが多すぎて夜な夜な校舎中の窓を割ったりしてたしな」
「えぇぇ」
思っていた以上に素行不良である。
今の姿からは想像も――あれ俺確か初日にノーマンさんのことチンピラみたいって思ってたっけ。
そう考えると案外想像通りなのかもしれない。
「今何か失礼なこと考えなかったか?」
「い、いえ」
チンピラ声でそう言われると自然と背中がシャンと伸びた。
ノーマンは訝しむような目で見ていたが、まぁいいと話に戻る。
「まぁそんな俺でも治癒師にはなれたし、今じゃ四天王だ。夢があるだろ」
「うーん」
「なんだ?」
エイガは釈然としない顔で組んだ自分の腕にポスっと顔を突っ込んだ。




