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第37話 ブルムの気遣い

ブルムが羽根を動かすとキラキラと雪が積もるような澄んだ音がした。


「"いつも私が出てきたら笑ってるのに笑わない。今日私どこか変?" だって? 違う違う、そいつは落ち込んでるだけだ」


「え、ブルムって喋るんすか」


「喋……りはするんだが俺以外に喋ってるところを見せるのは初めて見たな、そもそも俺から離れるのも――」


 またブルムが羽根を動かしてキラキラと音がする。


「え、落ち込むって何だって?気分が沈むことだよ」


「本当によく喋るっすね、俺にはわかんないっすけど」


 するとまたキラキラと頭の上から音がする。


「あー、お前迷惑じゃないならしばらくくっつけさせてやってくれ。お前が自分を見て笑うまでくっつくつもりらしい」


「いいっすけど……精霊ってブルムみたいにみんな喋るんすか?」


「いいや、ブルムは幻精霊っていう特別な精霊だ。一般的な精霊たちはおそらく意思は持っていない」


「そうなんすか」


 二人の間に少し沈黙が流れる。

きっともうこの心のモヤモヤはノーマンにバレている。

ノーマンが口を開こうとすると、エイガが先に口を開いた。


「俺、本当にこのまま魔法を学んでもいいんっすかね」


 エイガのその言葉にノーマンはクイッと片眉をあげる。

読書台の上に手を組みながらまっすぐとエイガに向き直った。


「……理由は?」


そう聞かれてエイガは少し目を泳がせたあと諦めたようにポツリポツリと話し始めた。


「俺天性の無能なんす」


 ノーマンはなにも言わずにそのまま耳を傾ける。


「何をやっても、人並みにできるまで人より数十倍の時間がかかるか、そもそもできないか、いつもそんなんばっかなんす」


 エイガは袖を強く握り、涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。


「でも俺ノーマンさんみたいに綺麗な魔法使いたいって思って、人を救えるような人になりたいって……思ったんすけど」


 エイガは喉からこみ上げてくるしょっぱい何かを飲み込む。


「俺みたいな無能に見られる患者さんって、きっと嫌だろうなって……俺でも俺に見られるの嫌っす。自分の命預けるなら、有能って言われる人がいいっす」


「勉強が苦手で嫌いで、努力もまともにできないで、こんな奴がノーマンさんみたいな治癒魔法は、魔法薬は……作らない方がいいんじゃないのかって……思ったっす」


 そこまで言うとエイガはさらに俯いた。

 ノーマンはそこまで話を聞くとゆっくりと体を動かす。エイガの垂れた髪の先の瞳を覗き込むように首を伸ばすとこう言った。


「それがそんなこと思ってる奴の顔か?」


もうその一言で限界だった。

エイガはポロポロと大粒の涙を零し出し、何度拭っても止まらず、しゃくりあげる。


「だって……俺初めてあんなに凄いって思って……だけど……ヒック……俺には……何の才能も根性もなくて……モイはもう魔法だって使えるし、クラスのみんなは紋章持ってるのに……俺だけなんにもできなくて……!」


あぁかっこ悪い。こんなウジウジした姿なんて俺らしくないのに。


涙を止めようとしても止まらない。

止めようすればするほど溢れてくる。


エイガはもう言葉を発せる状態ではなかった。ボロボロと溢れる涙が喉まで伝う。

ノーマンはじっとエイガが泣き止むまで黙ったままエイガを見つめていたのだった。



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