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第36話 出来損ない

 魔法薬がうまくいかなかったその夜、もう布団に入って随分と経つのにエイガはうまく寝付けなかった。

 自分なんかが魔法を使えるようになったところで誰も救えなどしないのでは、もっと言えば殺してしまうのではないかと嫌な考えばかりが頭を巡り、眠ろうとする頭を揺さぶる。


「だめだ、起きよう」


 エイガは考え事がてらあの寂れた中庭に行こうとドアを開けた。

 すると部屋に明かりが灯っている。


 ノーマンだ。

 小さい明かりをランタンに灯して、いつか見た朝のように読書へふけっていた。


「ん?エイガどうしたこんな時間に」


 ノーマンがこちらに目をむける。


「いや、ちょっと寝付けなくて」


「そうか……何か飲むか?」


「……じゃあそうするっす。でも自分でいれるっす」


「そうか」


 そう言ってノーマンはまた本に戻った。


――本当は1人になりたかったけど、中庭からずっと帰ってこないと心配かけるだろうし


 エイガはキッチンでミルクを煮詰めて、ホットミルクを2人分作る。


 それをお盆にのせてリビングに運び、ノーマンの横に置くと、ノーマンはエイガの顔を見上げた。


「いらなかったら、貰うんで」


「いや、ちょうど喉が渇いてたからな。ありがとう」


 そう言って一口、ホットミルクを啜りながらページを繰るノーマン。

 その横向かい前に座り、同じくミルクを啜るエイガ。


 カチッカチッと静かに時計が刻む音とノーマンがページを繰る音がリズムよく聞こえる。

 刻々と夜が更けていくのを感じながらミルクを啜っていれば、ふとノーマンが視線をあげた。


「エイガ」


「ん?なんすか?」


「もう入ってないぞ、そのカップ」


 言われてカップを覗き込めば確かに乾いたミルクがコップの底にへばりついている。


「あ、ボーっとしてました。すみません」


「謝ることじゃないだろう」


「はい……」


 エイガが俯くとノーマンは少しだけ息を吐いて、本を読む手をとめる。


「ブルム」


 そうノーマンが声をかければいつものようにノーマンの手にブルムがやってくる。


「ノーマンさん、どうしたんすか」


 エイガは急にノーマンがブルムを呼び出したので首を傾げる。するとノーマンは困ったように眉を下げた。


「いいや、お前が喜びそうなことってこれぐらいしか思いつかなくてな」


「あ……」


 つまりノーマンは気を使ってくれたのだ。

 ノーマンが気を使ってくれたことなんて初めてだったのでエイガは戸惑う。

 するといつもノーマンが命令しない限り動かないブルムがふわりとノーマンの指先から飛び立つと、エイガの頭の上に止まった。


「え、ノーマンさんブルムに何かを言ったんすか?」


「い、いいや言ってない。ブルムお前……」


 ノーマンが目を見開く。

 ノーマンがブルムに手を伸ばし、声をかける。

 するとブルムはそれに答えるように羽根を動かした。


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