第35話 資格
「じゃあさっそくいくぞ」
ノーマンがエイガの相槌を見て目を閉じる。しばらく経つと、ブワリと足元から風が起き、たちまち部屋に緑の精霊が溢れた。
外は昼前でかなり明るいというのに部屋が緑の光でボウっと照らされる。
エイガが呼んだ精霊は蛍のようだったのに、ノーマンが呼んだ精霊は強く光り、集まると大きな光の柱が出来上がっていた。
「もういいかな」
そう言ってノーマンが目を開けると精霊たちはゆっくりとその光を消していく。
鍋を覗き込めば鍋の奥に沈んだ魔穂がほんのりと緑色に輝いている。
「やっぱりノーマンさんってすごいっすよね」
素直に感動しているわけではなさそうな表情だったが、エイガはまたノーマンの魔法に惚れ直していた。
やっぱりすごい。
それしか湧いてこないが、ノーマンの使う魔法はオーリアやアレーシアに見せてもらったものとは全く違う、世界がノーマンに応えようとしているような、力強く、心に語りかけてくるような迫力があった
「当たり前だ、俺が一体いつから魔法を使ってると思ってる。少しの感情の揺らぎで出る魔力も桁違いなんだよ」
「うぅやっぱり俺って才能ないのかなぁ」
「あーだから落ち込むなって」
ノーマンの言葉もむなしくエイガが先程よりもさらに肩を落とすが、モイがそんなエイガの袖をクイッと引っ張った。
「な、なんだよモイ」
エイガが少し涙目になっている目を擦りながら顔をあげる。
するとモイは少し顔をしかめながら黒板を見せてくる。
――まだ決まってない。このままだと私が魔法使いづらいからもっと頑張って
その言葉にエイガとノーマンは思わず面食らう。
「モイお前……なんというか励まし方独特だな」
ノーマンの言葉を聞き流しながら、モイはまた黒板に書きつける。
――それにちゃんと進歩してる、この文字も読めてるんでしょ?
「あ」
確かにそうだ。
エイガは気づいていなかったが、モイが書くアルバート帝国の文字が普通に難なく読めている。
「確かに読める!」
――じゃあやってたら魔法も魔法薬もできるかもでしょ?やればやるほど進歩はするんだから
「た、確かに」
――じゃあ今やるべきことは?
「死ぬほどやる!」
――よろしい
「モイ……なんかお前エイガの扱い慣れてきてないか」
もう一度とエイガは自分で鍋を引っ張り出して精霊を出す前まで自分でやってみせた。
「じゃあもう一度、いきます」
そう言ってエイガは目を閉じる。
さっきのノーマンさんみたいになりたい。
ノーマンさんみたいに、綺麗で誰でも救っちゃう凄い魔法が使いたい。
俺も、誰かを救いたい!
エイガの周りには一つまた一つと精霊が増えていき、その数は先程よりも目に見えて増えていた。
「おぉいいぞ」
――あともうひと踏ん張り
ノーマンさんみたいに、ノーマンさんみたいに……。
……なれるのか?
ふとそんな言葉が頭の中に浮かんできた。
あの時の、エイガが初めて出くわした魔族の惨状を思い出す。
あの時もし自分がノーマンさんの立場に立った時同じことができるのか?
あんな冷静に魔力を練って、お母さん落ち着かせて、後ろから来た魔族を叩いて――
あんな魔法、中途半端な俺が使ってもいいのか?
――治療しようとしたら殺してしまうんじゃないか?
エイガの周りから精霊が散っていく。
ノーマンが困惑しながら思わず声を漏らした。
「なんで……」
モイも首を傾げている。
エイガが目を開けると、ノーマンとモイは目を見合わせた。
そんな二人にエイガは苦笑してみせた。
「また失敗しちまったっす」
それを言うエイガの顔は痛々しいほどに明るく笑っていた。
ノーマンとモイはそんなエイガから目をそらしはしないものの、何も声がかけられなかったのだった。




