第33話 治癒魔法という魔術
「女神はいないと思っている」
そのノーマンの言葉にホッとモイが胸を撫で下ろす。
ノーマンはその像を棚に戻しながら語り続けた。
「確かに治癒魔法は存在するがそれを行使しているのはどこまでいっても精霊だ。治癒魔法という魔術をそもそも発動するには魔法陣とそれを発動する大量の魔力が必要になるはずなんだが――」
治癒魔法という魔術?それを行使するのは精霊??さっきからエイガには意味のわからないちんぷんかんぷんな言葉がノーマンの口から次々と発射される。
ノーマンはそんなエイガを置いてけぼりにしたまま喋り続ける。
「治癒魔法は誰でも使える奇跡の魔法ではあるが、どういう魔法陣なのか、どういう属性を組み合わせているのか、何も分かっていない未知の魔法でもある。正直俺から言わせてみれば、ちょうどいいものがあったから祀り上げられているだけな気もするがな」
ノーマンはこちらにもどってくると脇においてあったもう一つの本を繰る。
「人類の西暦が数えられる前からある魔法だからきっとどこからか魔力を供給しているんだろうが、そんなこと今の魔法文明では不可能だ。何か失われた技術があったのかもしれん」
エイガはふとオーリアの治癒魔法を思い出した。
あれ?でもオーリアさん確か魔力捧げてたような―
「でも治癒魔法って魔力使いますよね?オーリアさん魔力を捧げーとか言ってましたし。それじゃないっすか?」
エイガがそう聞くとノーマンは首を振った。
「それは魔術式通りに動いた精霊への報酬だ。魔術式を発動させるにはあまりに魔力消費が少ない」
やっぱり自分に思いつくものは先に頭のいい人が考えてるんだなーとエイガは思考を放棄し始めた。
これの仕組みを解明したらなんか功績として名前が残ったりするんだろうか。
「話が逸れたな、まぁ要は感情によって溢れ出した魔力を餌に精霊を呼ぶってわけだな。簡単に言えば」
「あぁそれならわかります」
「じゃあやってみろ」
「はいっす」
エイガは早速転んだ記憶を思い出す。
できるだけ小さな頃の記憶。
しかしその記憶を辿っていくとある記憶に辿り着いた。
小さな頃兄についていこうとして転んだ時、ブランコで無茶をして転んだ時、はたまた何もない場所で転んだ記憶を掘り出す。
ジクジクと痛む膝、見ているだけでグロい傷跡、風呂に入ると染みた大量の傷。
早く治れと傷を見ながら思ってはいたものの、かさぶたの上にまたかさぶたを作って一生治らない。
治れ、治れと祈り続ける。
ふとツンツンと袖を引っ張られ目を開ける。
するとそこには緑色のホタルのような光をまとった粒が一つ、鍋の周りを飛んでいた。
「おぉ、一匹だが呼び出せたじゃないか」
ノーマンがそう言うのでこれは精霊なんだとエイガは認識する。
すると次の瞬間エイガは思いっきり腕を振り上げ、飛び上がった。
「やったぁ!!俺、やっと魔法使えた!!」
エイガにとって初めての魔法、それは小さくも今まで魔法を一度も使えなかったエイガにとって大きな前進だった。
ピョンピョンとウサギのように何度も飛んでいるエイガを横目にノーマンはこっそりとモイに耳打ちした。
「魔法薬は魔法ではなくて、精霊術っていう分野なんだが――まぁ言わなくていいか」
――それがいいと思います。
モイもそう言ってはしゃぎすぎのエイガの姿にしょうがないなと言わんばかりの顔をしながら、毒舌を書き込んだ黒板をしまい込みエイガの姿を見つめている。
「さて、魔法薬作りにはこの精霊だけじゃ足りない。もう少し呼び出すぞ」
ノーマンがそう声をかければ、エイガは飛び回るのをやめ、ハイっと元気に返事をした。




