第31話 魔法薬クッキング
「まずは材料だが……」
「うげぇ、覚えるの苦手っす」
エイガが渋い顔をするが、それにノーマンはフッと笑った。
「安心しろ、魔法薬は効能を上げようと思わなければ入れるものは何でもいい」
「マジっすか!?ラッ――」
エイガは言いかけたその言葉を途中で止めてしまう。
「どうした急に黙って」
エイガはふと考え込む。
果たして本当にラッキーなんだろうか?
魔法薬って色んな名前のわからんものを混ぜるからドキドキするのであって、そんな簡単に作れたらロマンもクソもないのではないか。
まぁでも――
「勉強しないでいいならいっか」
俯きながら、エイガは諦めたように笑い声を零した。
なんか心がモヤモヤするけどできないんだもんな。どうせ
ノーマンが首をかしげながらどうしたともう一度聞くがエイガがその視線に気がつくとまた愛想よく笑った。
「すみませんっす、もう一回お願いします」
「お前もしかして体調が悪いのか、それなら休んでもいいぞ」
「ち、違うっす!むっちゃ元気っす!」
ムンと何も出てこない貧相な腕を折り曲げ、エイガはポーズを決める。
「それならいいが、無理はするなよ」
ノーマンはエイガの顔色をじっと見つめながらも、持ってきていた本を開いた。
中にはびっしりと文字が並んでおり、頭が理解するのを拒否してくる。
しかしノーマンがページを繰るとどんどん文字が少なくなり、いつの間にやらほとんどが絵や図だけのものになっていた。
ノーマンはそのページを読書台に立てかけると、二人を振り返った。
「さて、始めるわけだがまず鍋を開けんとな」
鍋の中身は今日のスープにするとか言って普段使いの鍋に移そうとするノーマン。
流石にモイが止めたがそのまま移されてしまい、今日の昼ごはんに恐れおののきながらの魔法薬教室が改めて始まった。
「さて、さっき魔法薬の材料はなんでもいいと言ったが、厳密に言うと魔力を乗せられて食べられるものなら、何でもいいということだ」
するとエイガがハイっと手を挙げた。
「靴とかはダメってことっすよね?」
「あぁそうだな、あとは生きてるものもだめだ。必ず締めてから入れろよ」
「し、締め……」
エイガが顔を引きつらせると、隣のモイが黒板を見せる。
――髪とかは使わないんですか?
エイガはあぁ確かにと頷く。
日本のアニメなんかじゃ、よく魔法薬作りに髪の毛が必要とされる設定は多い。
しかし黒板を読み上げた瞬間ノーマンは分かりやすく顔を引きつらせた。
「お前たち、普段髪の毛なんて食うのか?」
「く、くいませんよ!」
「(コクコク)」
「なら何で髪の毛なんて入れる選択肢が出てくるんだ」
どうやらこの表情を見るに本当に入れないらしい。
「え、じゃあよだれは?」
「いれん」
――鳥の羽は?
「いれん」
「なんかの枝は?」
「食えんだろ」
――ネズミの尻尾は?
「お前たち今まで一体どんな食生活をしていた?逆によく思いつくよな、そんなこと」
ノーマンにまるで人外でも見るような目で見られ始めたのでエイガはすかさず訂正しに行く。
「えぇ……俺たちの世界の魔法薬のイメージってここらへんなんすけど」
エイガは頬をポリポリと掻きながら首を傾げる。
ノーマンは受け入れがたいのか額を押さえ始めた。
「本当にお前らの世界の薬ってどうなってんだ」
確かに何で髪の毛とかよだれとかいれるんだろう。考え直してみると中々汚い。
そう考えるとノーマンが気持ち悪そうに顔をしかめる理由も頷ける。
――薬には使わないですけど、私たちの世界には魔法がないので空想上そうなってるって感じです。
モイが補足するとノーマンはあぁそういうことならと渋々頷いた。
ノーマンはキッチンから食べ物を取り出して机の上に運びながら続けて聞いてくる。
「つまりお前らにとって魔法薬っていうのはおとぎ話の類ってことか? じゃあお前らの言う薬ってどんなものなんだ? あ、これカビ生えちまってるな」
そう言ってノーマンはキッチンへ捨てに行った。
「あの丸い薬の材料?うーんそういえば知らないや、モイは知ってるのか?」
するとモイは少し考えてからいくつかの名前をサラサラと書いていく。
――植物が多い気がする、あと動物のものとかあとは鉱石なんかも材料になってるって親から聞いたことある。
「親?モイの親ってお医者さんとかだったのか?」
エイガがそう聞けばモイはコクリと頷いた。
――お父さんが医者でお母さんが薬剤師
「へぇ、モイってすごい家だったんだな」
道理で頭が良いわけだとエイガは一人で納得する。
――違う、親が凄いの。私じゃない
そうモイは黒板を見せてきたが、そこに胸いっぱいの大きな木の根を抱えたノーマンがドスンとモイの脇にそれを置く。
「さて、材料は持ってきたが、モイさっきお前たちの世界の薬はなんだって言ってた?身近なものから使ったほうがいいだろう」
モイは先程書いた材料をまた粗方書き出す。
それを受け取ってノーマンはへぇと今度は感嘆の声を漏らした。
「髪の毛やらネズミの尻尾なんて言い出した時はどうなるかと思ったが案外まともな材料じゃないか」
ノーマンは興味深そうに上から見ていたようだがふとある一行で目が止まった。
「カビ……?」
「え?カビ?」
エイガも聞こえてきた言葉の衝撃に思わずノーマンの言葉を復唱する。
するとモイは何か言いたいようでノーマンの手にある黒板に手を伸ばした。
モイが黒板に書き付けている間にノーマンはこっそりとエイガに耳打ちした。
「お前らの世界ってカビ食ってたのか?」
「ま、まさか」
そんなことを言っているとモイの黒板が完成したようでくるりとその面をノーマンたちに向ける。
――カビはカビでもある成分を持った特定のカビです。食材にも使われてるんですよ
するとノーマンは理解し難そうに瞬きを繰り返している。
「お前らの世界って随分と狂ってるな」
「俺、もしかしてカビを食ってたのか」
――ノーマンさんはわかるけど何でエイガくんまで驚いてるの
モイはあきれ顔をエイガに見せながら、サラッとカビが使われていた食材を書き出す。
「チーズに納豆、醤油とか味噌も?へー知らなかった」
――常識がなさすぎやしない?
モイの毒舌にもエイガは最近慣れてきていた。
「いやー俺食べれればいっかって思ってたし」
――想像はつくわ
ノーマンがパンと手を鳴らす。
「さて、気を取り直してだな、魔法薬を作ってみるぞ」
「はーい」
エイガののほほんとした返事が部屋に響いた。
ノーマンはまずさっき持ってきた木の根に刺さっていたコルクを抜く。
木の根を傾けると透明な水が出てきて、それを鍋に注いでいく。
「なんかヤバい色の液体が出てくると思ったら普通っすね」
「ただの蒸留水だ、一旦お前らの世界の常識は捨てろ、ゲテモノができる」
「じょ、蒸留水?」
エイガが首を傾げるとモイが黒板を見せる。
――綺麗な水のこと、混ぜものはもちろん水道水みたいに消毒液とかも入ってない本当に純粋な水
「何でモイは知ってるんだ」
――小学校で習うことだから
「おぅ……」
エイガの無知さも混ざってしまったその鍋をノーマンは机にあげる。
「次は魔力を込める食材だが――これでいいだろ」
そう言って目の前に並ぶ食材から選び出したのは稲穂のような植物だった。
「なんかお米みたいっすね」
エイガがそう聞くとノーマンは包丁を手に取りながら答えた。
「米? はわからんがこれは魔穂という植物でな、この先っぽの実に周囲の魔力を溜め込む習性があるから使いやすいんだよ」
それの茎を包丁で切り落としながらノーマンはそう言う。
ふとエイガが真剣にノーマンの手を見ているのに気がついて、ノーマンは手を止めた。
エイガに包丁を差し出し、こう言った。
「やってみるか?」
するとエイガはパッと顔を輝かせる。
「はい!」
エイガは元気よくそう返事をして、包丁を受け取ったのだった。




