第28話 上層会議
ある王宮の会議室にて
「さーて今回の議題だけどね、ノーマン、報告よろ」
アレーシアがパチンと指を鳴らし、前に座っていたノーマンを指差す。
「やめろ、お前に指をさされると何倍も腹が立つ。あとその変な話し方もやめろ」
するとアレーシアは鬱陶しそうにぐーっと椅子の上で伸びをした。
「んーもう、やめろやめろって年寄りはそればっかりだよねぇ、この言葉遣いはねぇ~ケイが教えてくれたんだよ。これが若者の喋り方らしくてね」
アレーシアのその態度にノーマンは額に走った青筋を何とか手で押さえる。
あぁなんでこんなに目の前の女は俺の気に障ることしかしないんだ。
ノーマンは憂鬱だった。
国の重要な砦である、四天王が一堂に集まる(一人不在だが)この会議は早々開かれるものではない。今それだけとんでもない事件が起きたのだ。
ただでさえ、今起きている問題で頭がいっぱいになりかけているのに、さらに怒りまで加わるともう何から手を付ければいいのかわからない。
「あぁあの子か、運動神経も飲み込みも早いし、中々筋がいいぞ」
まとも枠だと思っていたブリキもアレーシアに同調し始めるので、ノーマンはため息をつく。
「ブリキまで……」
怒りが一周回って落ち着いてきたかもしれない。
パンパンと扇で机が叩かれるとその場にいた3人はすぐに口を閉じた。
「お前たち、喧嘩するのは構わんがやることをやってからじゃ」
「「「ハッ」」」
息の揃った返事とともにその部屋には緊張感が走る。
「ではノーマン、報告せよ」
ノーマンはゴホンと軽く咳払いをすると、淡々と昼間に起きたことを話し始めた。
「はい、今日の双子の刻頃、街で大量出血を伴う魔族による襲撃がありました。子供は私が治療し、一命を取り留め魔族は捕縛しましたが……」
女王はノーマンの言葉に途中からハァとため息を漏らした。
「その魔族がどこから入ったのか、じゃろう?」
「はい、私も現場検証には携わりましたが、それでも結界の穴を見つけることができませんでした」
「お主の精霊を使ってもか」
「私の精霊は不浄の場所を嫌うので、おそらく下水道などの何処かではあると思うのですが――」
「ねぇねぇなんで穴がある前提なの?」
アレーシアがニンマリと笑いながらノーマンの言葉を遮った。
「結界は無理に壊すと必ず痕跡が残る。それは魔族でも誰もが知ってるはずだ、でも綻びが見つからないとすると……」
「何が言いたい?」
回りくどい言い方はノーマンが一番嫌うものだった。
「いや、結界を一瞬解いて入れちゃえば、痕跡は残らないよなぁって」
「そんなことしたら俺たちの誰かが気づくはず……まさかお前」
するとアレーシアはいつもの胡散臭い笑みを浮かべながらパチンと指を鳴らした。
「そうだよ、私たちの中に裏切り者がいるんじゃないって話だよ、ひゃー怖い」
頬に両手に当てて、おちゃらけるように両目をくの字にしているアレーシアにノーマンはまた額に青筋を一本増やした。
「そんなことをすれば、ブルムが気づくはずだが?」
苛つきが声にまで出ている。落ち着け、苛立てばこいつの思う壺だ。
「まだ可能性の話だって〜でもでも、君の精霊だって万能なわけじゃないじゃん?さっき言ってたでしょ?不浄の場所には近づかないって」
「そ、れ、にー」
アレーシアは勿体ぶるように人さし指をテンポよく言葉に合わせて振った。
「ノーマン、君が一番怪しいんだよ。だって君が嘘つけば全部そうなるんだから」
頭の中で何かが切れる音がノーマンの頭の中で鳴り響いた。
「……お前、俺と戦いたいのか?」
「まっさかー、私はあくまで可能性の話をしてるだけだよ〜でも怒るってことは図星なんですか〜?ノーマンさん」
「アレーシア=クレイトス!!」
するとアレーシアとノーマンの間に手を差し込む人物がいた。
「まぁまぁ、アレーシア、ノーマン。熱くなるな」
「ブリキ……」
「アレーシアもあまり場をかき乱すな。頭のいい子じゃったからの、お前は。儂らが見えていないところも見えてしまうのは分かるが、混乱をさらに大きくしてどうする。良い子じゃから、もっと落ち着こう」
アレーシアがぶぅと頬を膨らませる。
「爺っちゃんもう私子供じゃないんだけど」
「ワシにはまだ小さい子供に見えるがの」
「嘘だろ、ブリキ。もう立派なババアだろうが」
「ノーマン、君には言われたくない」
「ほれほれお主たち、じゃれ合いはあとじゃ」
女王がまたパンパンと扇子を叩けば、辺りは静まり返る。
「アレーシアもやめぬか。ノーマンがそんなことをするわけがなかろう、蝶の件も相わかった。全員警戒をさらに強め、召喚者の教育に勤しむこと。いいな。侵入した魔族の拷問はこちらで行おう、これにて会議は解散じゃ」
「「「はっ」」」
こうして人知れず行われた上層会議は幕を閉じたのだった。




