第27話 後始末
「いや、え、え?もしかしてエイガさんが魔法を習ってるのって……」
音を立てたのはオーリアだった。横に杖が落ちている。
「おいオーリア、杖を落とすなんてなに初心者みたいな失敗してるんだ、杖は大事に扱え」
ハッとしたように慌てて杖を拾い上げるオーリアだったが、それでも杖を握り締めながらノーマンとエイガを交互に見ている。
「だって……だって!」
ノーマンとエイガを終始交互に見ながらプルプルと震える手でノーマンを指す。
オーリアは確認を取るようにエイガの方を見てノーマンを指でツンと指してきたのでエイガは苦笑いしながら頷いてみせた。
「う、嘘ぉ」
ヘニャヘニャとその場でへたり込む。
「お前も知ってるだろ、あの召喚で呼び出された異世界人だ。俺が引き取って育ててる」
どうやら理解が追いつかないらしい。オーリアはしばらく固まったかと思うと。
「えぇぇぇっぇぇ!!」
と叫ぶ。
路地の前にいた鳥たちがバタバタと飛んでいった。
「え、え〜エイガくんが異世界人ってことも驚きですけど……あの弟子を取らないで有名なノーマン様が?」
「え?」
エイガがノーマンを見ると肩を竦めてみせた。
「取らないんじゃなくて取る必要がないの間違いだがな」
「へ、へぇ〜」
ノーマンのその話を聞いてちょっぴり嬉しいのは気の所為だろうか。
エイガは自然と少しニヤけてしまった
「いやー、チャム様。帰ってきたら荒れそうですねぇ」
「無駄口叩いてないでオーリア、お前はさっさと報告しろ、なんで町中であんな怪我人が出る」
「あ?ハッ!いやすみません!実はですね――」
呆けた返事をしたオーリアが状況説明を始めると、後ろでふと何かが動いた。
あの魔族だ、ノーマンの後ろに立ってこちらに走ってきている。
エイガは咄嗟にノーマンに危険を知らせようと叫ぶ。
「ノーマンさ――」
するとノーマンは後ろを振り返らないまま向かってきた魔族を手に持っていた杖の先を押して、まるでテコのように魔族の顎下へと一発、杖をぶつける。
エイガはあんぐりと口を開いた。
「はぁなるほどな、んでオーリア。侵入経路は――」
「え、嘘でしょノーマンさん、そのまま話し続けるんすか?」
「え、あの……」
あぁよかった、どうやらこれは普通のことではないらしい。
オーリアも戸惑ったようにノーマンの顔と倒れた魔族を交互に見ている。
「侵入経路は?」
「い、いや!お、おそらく下水道です!」
ノーマンの顔と声にシワが乗り出したので、オーリアは慌ててそう答えた。
「根拠は?」
「下水蓋が空いてました!」
「弱いな、調査し直しだ」
「は、はい!」
「あと、魔族の処理が甘い。縛っとくなり、捕縛術に自信がないならトドメを刺すなりしとけ」
「は、はいぃぃぃ」
オーリアがパタパタとどこかに行こうとするので、エイガはふと抱えたままのリンゲを思い出した。
「オーリアさん!このリンゲどうすればいいっすか!?」
「え?あ、どうぞ!全部差し上げます!」
「え」
「おーよかったな、エイガ。リンゲって結構高いんだぞ、今日はリンゲパイでも作るか」
「え」
ノーマンはふぅと一息ついて、後ろで伸びている魔族を見つめながら言う。
「今日は早めに帰れ、まだ魔族がいるかもしれんからな」
そう言って親子の元に戻ろうとするノーマンにエイガは思わず声をかけた。
今この心を伝えたい、今伝えないときっと自分は
色々言い訳を考えてしまうから。
きっとこの気持ちを忘れてしまうから。
「俺!ノーマンさんみたいにカッコいい治癒師になりたいっす!」
エイガがそう宣言するように叫んだ。
ノーマンは目を丸くする。少し自分よりも背の高いノーマンの背中を見つめながら、エイガは力強くノーマンを見つめている。
その瞳にノーマンはふと頭に昔の記憶がよぎった。
何もできない少年が何もできないくせに一丁前に夢だけは語っていた記憶。
ノーマンは目を細め、ツカツカとエイガに寄ってきたかと思うと、エイガの頭を乱雑に撫でた。
「え、え」
「まずは杖を光らせてから言え」
言葉自体に温かみなんて感じないのにそう言うノーマンの口調はどこか温かくて、エイガはムズムズとお尻が痒くなる。
エイガは「はい!」と大きく返事をした。
この日からエイガはノーマンの訓練に俄然やる気がるようになったのだった。




