第24話 悲鳴
「あれ、すっごい悲鳴」
エイガが呑気にそんなことを言っているといつの間にやらオーリアは視界から消えていた。
視界の中に彼女を見つけた時には既に少し離れた場所で彼女は箒のようなものに腰掛けている。
「風と重力の精霊たちよ、我が願いにこの魔力を持って応えよ!」
そう彼女が唱えればその箒はふわりと舞い上がる。
「え、え!?」
状況を判断できずにいるエイガには目もくれず、彼女はその悲鳴が聞こえた方向へと上空に飛び出していく。
「え、ちょっと……待って!」
エイガは置いてけぼりになったリンゲの袋を持ち上げて彼女を追いかけた。
空を飛ぶ速度が早すぎて、追いつけはしないが何とか目で追いながら走る。
「ハァ……ハァ……」
エイガは運動が得意というわけでもない。人並みといったところだ。
息切れと滴ってくる汗を拭いながら彼女が着地したであろう場所に続く路地を曲がった。
「ヒッ」
思わず顔とともに引きつった悲鳴。
こびりつくような鉄の匂い、赤い鮮血、そして血につけたのかというくらいに血まみれな子供とそれを抱きしめる母親。よく見ればさっきの肝っ玉母ちゃんだった。
「どうして魔族が……一体何処から!」
オーリアが母親たちの前に立ち、杖を構えながら目の前の相手を睨む。
彼らの前にいたのはパット見普通の子供だった。
しかしその頭には小さな角がついており、肌は死人のように青白い。獣のように鋭い瞳孔がこちらに向けられ、エイガは背筋に悪寒が走った。
「お、おいらがやった!おいらがやったんだ!」
引きつった笑顔で自分を指差すその姿にエイガは少し違和感を覚えた。しかしそんな違和感もオーリアが放った一言でかき消えた。
「何故……何故人を傷つけてそんな笑っているんですか?これだから魔族は……」
あれが魔族の笑い方……随分変な笑い方だな。
顔を歪め、額に皺をためた乾いた笑み。
どちらかというと悲痛めいたその笑いは聞いていると良心がかき乱され、まるでこっちが悪いことをしているような気分にまでなった。
オーリアはまるで汚物でも見ているような目で魔族を見下ろす。
「滅びなさい、ここに貴方達の居場所はないです」
先程の柔らかな雰囲気は成りを潜め、底冷えするような冷たい声で彼女は杖を立てた。
「人間なんてクソだ!あぁぁぁぁぁ!」
そう子供は発狂したように手の中に小さな火の玉を作ってこちらに向かってくる。
彼女は杖を地面と平行にして持ち、目を閉じる。
「火の精霊たちよ、我が魔力を捧げ身を焦がすようなその力を我に与えよ!」
そう彼女が唱えながら、杖を回す。すると回るうちに杖の先に火が灯り、彼女の前に大きな火の輪が現れる。
「ファイヤーブレス!」
二本指で輪っかを作り、その中にフゥっ吐息を吹き込めば、彼女の前に炎の柱が現れた。
「あ……」
その声を最後に目の前の子供はその炎の柱に飲み込まれた。
炎がはけると、そこには焦げ臭い匂いと、不謹慎だとは思いながらも焼肉のような匂いがした。
ピクピクと痙攣をしながら床に倒れている魔族。
魔族だと言われても、人型の生き物が焼かれているのは見ていて気分がいいものではない。
「本当に、なんでこんな生き物を神様は作ったんでしょう」
オーリアは今にも目の前の魔族を刺し殺しそうな、そんな雰囲気を身にまとっていた。
エイガはゴクリと生唾を飲み込む。
「ちょっと、しっかりおし!あんたがいなくなったら私一人になっちまうよ!」
母親の声で我に返ったのかオーリアは後ろを振り返り、それにつられてエイガも振り返る。
魔族と同じく痙攣して母親の腕の中で死にかけている子供。
赤黒い血がまるで砂時計の砂のようにドクドクとこぼれ落ちている。
「ま、魔術師様……子供、子供が……」
母親の腕は震えながらも服が汚れるのも構わず子供を強く抱きしめている。
オーリアはそんな母親の元に駆け寄りしゃがんで、母親の手に触れる。
「大丈夫です、癒やしの四天王を呼びました。必ず治ります。ですから一緒に傷口を押さえてください。出血量を少しでも減らしましょう」
「は、はい」
「癒やしの女神イランテスよ、この者に祝福を」
「(あれ)」
さっきと詠唱の言葉が違う。
オーリアがその場で呪文を唱えると緑の光が溢れ出し、少しだけ血の勢いが収まる。
癒やしの四天王と聞いてエイガに思い当たる人物が一人。
もしかしてとエイガの頭をよぎった瞬間、後ろからドンと何かが落ちてきたような音がした。
「患者は!」
エイガが後ろを振り返ればやはりそこにいたのはノーマンだった。




