第21話 お使い
ふわぁと大きなあくびをしながら、エイガは街の中心街で買い物袋を下げていた。
ノーマンと魔法訓練を始めてから一週間、あれからエイガは一度も杖を光らせることができていなかった。
モイはというともうちょっとした風魔法なら使えて、今日は手の中で木の葉を一定の場所に浮かせる練習をしている。
それに比べて自分は未だにスタートラインにすら立っていない。
なにか自分にもできることがないと気が狂いそうだったのでエイガは自分から買い物係を申し出た。
そして今に至るのだが……。
「値段全然わかんね……」
しかめっ面をしながら屋台に並ぶ果物らしきものと木札に書かれた数字らしきものを交互にみるが、何度見ても子供の落書きにしか見えない。
そもそも基本の文法すら怪しいのだ、エイガに日常生活の値札の見方なんてわかるはずがなかった。
「あんまり高いの買ったらきっと怒られるだろうし……うーん」
「ちょっと失礼」
「あ、ちょっと」
エイガの前にまさに肝っ玉母ちゃんと言わんばかりのふくよかな女性と小さな子供が割り込んできた。
その圧倒的な質量差に圧されてエイガは店の前からはじき出される。
「おい坊主、そんなところずっといたら邪魔になるだろ。決まったらおいで」
店主の女性もそう言って肝っ玉母ちゃんの接待を始めた。
エイガは1つため息をついて、横から何を買うか悩む。
「本当にどうすっかな」
エイガが途方に暮れていた時だった。
「きゃっ」
そう悲鳴が聞こえてきたと共にカランカランと何かが回ってエイガの足に当たる。
足に転がっているのを拾い上げればそれは上等そうなペンダントだった。銀色で細かい装飾が彫られている。
ふと声が聞こえたほうを見ると、そこにはノーマンが着ているのとは少し質素なデザインの黒いローブを羽織った白髪の女性が、目の前にりんごらしき果物をぶちまけて突っ伏していた。
しかし周りの人間は手伝うでもなく彼女とりんごを避けながらスタスタと横切っていく。
いや冷たくない?この国の人たち。
「あの……大丈夫ですか?」
おずおずと近づいてその足に当たったものとりんごを拾い上げて声をかける。
「え、あ!ありがとうございます!」
彼女の横髪をまとめていた黄色いビー玉のような髪留めがカランと涼しい音を立てる。
ポテッとした顔とトロンと重たそうな瞼に負けじとパッチリとした目。
そして手にあるリンゴと同じくらい赤い頬。
マロ眉を下げて、おでこをさすっている。
可愛らしい顔つきの人だなというのがエイガの第一印象だった。
彼女は起き上がるとハッとしてエイガの手にあるペンダントだけを慌てたように手に取る。
手には行き場を失ったりんごもどきが残った。
おいどうすんだこのりんご。
女性は傷がついているか確認してホッと安心したように息をつく。
「よかった、傷ついてない」
「あの、この果物はどうすれば……」
女性はそう言われて気づいたようで、「あ」と声を漏らしながらペコペコと頭を下げ、エイガの手に握られていたりんごにも手を伸ばした。
マイペースな人だな。
「いやーすみません……」
彼女はりんごも受け取り、持っていた皮袋に拾い上げていく。
それをエイガも手伝い、皮袋につめていくとかなり無理につめられていたらしく、1,2個ほど余ってしまった。
「じゃあ俺はこれで――」
余ったリンゴを手渡し店の前に戻ろうとしたのだがまた後ろでゴロンと言う音がした。
「いや〜」
振り返るとまたあの女性が情けない声を出しながらリンゴをボロボロと落としていた。
「あー」
エイガは思わず声が漏れる。
結局その女性はその日、エイガの前で3回リンゴをばら撒いたのだった。




