第20話 魔法訓練
「おいエイガ!そうじゃない!魔力が乱れてるだろ!」
ノーマンが怒鳴りながらエイガの杖を荒々しくつかめば、エイガは咄嗟に大きな声が出る。
「へ、へい!」
「返事はハイと言ったら何度わかる‼‼」
「は、はいぃぃぃぃぃ」
ドラゴンが襲ってきた次の日、エイガとモイとノーマンは国の中にある雑木林の中にいた。なぜかというと――
「俺たち今日魔法を始めたばっかっすよ!そんな怒鳴らないでもいいじゃないっすか!」
「モイは粗いがそれなりにできてる!お前だけだ!」
ちらりとモイの方をエイガが見やれば、モイはぷるぷると杖を抱えながら踏ん張るようにそこに立っていた。杖の先の水晶玉はまるで淡くもチカチカと光っており、必死にそこに生きようとしている蛍の光のようだった。
「う、うそぅ」
エイガがうなだれているとノーマンがバンと背中を叩いた。
「体に一定の出力で魔力を纏わせるんだ!それがぶれれば杖に伝わる前に霧散し魔法も崩れる!」
「その魔力みたいなものはわかるんすけどこれどうやったら杖に行くんすか!」
「もっと血管を意識しろ!破裂させる気でな!本当に破裂させても俺が治す!」
「えぇぇ」
さてノーマンはモイとエイガの二人に今日から魔法を教え始めた。
最初はわくわくしていた魔法の授業。言語だけではつまらなくて体を動かせるのは嬉しいはずなのにエイガはゲッソリとした顔でまた杖を握り直す。
もう一度杖に魔力を流さんと腕当たりの血管を意識しようとしたが、ふと朝のことが頭をよぎった。
そもそも時間がまずおかしかった。
――今朝
「おいエイガ今日から魔法訓練をするぞ」
朝のまだ日も上がっていない時間帯に、夜に出払っていたはずのノーマンはエイガの布団を引っ剥がした。
「え――今何時っすか」
この世界に時計はないが、エイガは無意識に枕もとの時計を探す。
「今日から魔法の訓練を始める、俺の仕事がないのは大体朝だからな」
「今、朝っすか?」
日が昇っていないのだから夜中の間違いではないだろうか。
まだ外では鳥すら鳴いておらず、蒸し暑くて開けておいた窓からは少し冷えた空気が流れ込んでくる。
「いいから行くぞ、モイはお前が起こしてやれ。年頃だしな」
「俺が起こすでも問題ありそうなんすけど」
ガチャ
「ヒッ」
まるで示し合わせたかのように部屋から出てくるモイ。
あまりに自然の流れすぎてエイガは小さく悲鳴をあげた。
「え、モイ?なんで起きて――」
するとエイガの言葉を予想していたかのように、本と一緒に持っていた黒板を見せてくる。
――本読んでたらこんな時間で。もうそろそろ寝ようと思ったら二人の声が聞こえたから。
「へ、へぇ」
自分では考えられない行為である。
「二人とも、着替えたら玄関前に来い。そこの雑木林で教えてやる」
ノーマンはそう言って玄関の方へと歩いていった。
コクリとモイが頷いて部屋に引っ込んでいき、
エイガもそれにつられるように自分も部屋に急いで戻った。
ノーマンに渡されたこの国の普段着を慣れない手つきで着こみ、そして今に至る。
「エイガ!もっと出力あげろ!まったく体から魔力が出てないぞ!」
「うぅ、マジでどうやって出るんだよぉ」
この日、結局エイガが杖を光らせることは一度もなく、日が昇ってノーマンは仕事に出かけていった。
「んだー!」
エイガは雑木林に仰向けになって、ぼーっと空を眺めだした。
少し鉄臭くももっそりとした土の香りがする。頬にチクチクと葉があたり少しひりひりした。
相変らず何もできないな、俺……。
――随分疲れてる
そうモイが上からエイガを覗き込む。
昨日の仲直りをしたあと、モイとの関係は概ね前と変わらなかった。エイガが話しかけて、それを無言で聞いて気になることがあれば黒板で伝える。
だが明確に変わったことがあった。
時々笑い声が聞けるようになったのだ。
それだけでもエイガは十二分に嬉しかった。
モイの後ろからは朝日が見えてきて、まるでモイの後ろに後光が差しているようだった。
「大丈夫……じゃないけどもうちょっと練習する」
エイガはむくりとモイの方に手を伸ばしてバランスを取りながら、体を起こす。
背中についた泥もそのままに横にあった杖を握る。
するとモイは慌てたように何かを黒板に書きつけた。
「え、ノーマンさんが自分のいないところで魔法は使うなって言ってた?」
コクリとモイが頷けば、またモイは黒板に書きつける。
――中々ないけど、体の血管が本当にはじけ飛ぶこともあるみたい。それを治せるの、この国でもノーマンさんだけだから、初心者のうちは見てないところで使うなって。
その言葉を見てエイガはがっくりと項垂れた。
「俺いつになったら魔法つかえるんだよぉぉぉぉぉ」
そうエイガが叫ぶと太陽がちょうどひょっこりと地平線から顔を出し、鶏の鳴き声がエイガの声を皮切りに町中で鳴り響いたのだった。




