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第18話 嫌いの理由

 次に恐る恐るモイがノーマンの部屋の扉を開ける。

 席に座ると気まずそうにモイは黒板を見せた。


――はたいたのは本当です……。


「なんではたいた?」


 ゆっくりとまた黒板に文字を綴る。


――ついカッとして


「エイガにそんなんだからいじめられるって言われたことか?」


 モイはピタリと書く手を止めた。

 息が浅くなり、焦点が定まってない。


 震える手でゆっくりと文字を書く。


――私はいじめられてない。


 ノーマンはふぅっと息を吐きながら足を組み替える。


「お前が怒ったのはそっちだったのか」


 コクリとモイが頷く。


「エイガの話を聞く限りお前はあの聖女候補にいじめられているって聞いたが――」


「しが!……」


 言葉にならない言葉を吐き出すように頭を振るモイ。


「しがう……」


 そう呟いた言葉は今までで一番弱々しかった。

 ふとモイの脳裏に伊豆の嘲笑うような笑顔が映り、モイはその場でポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。


「おいおい、どうしたっていうんだ」


「っつふぅ」


 しゃくりあげるように静かにその場で泣くモイ。


――モイちゃん!


 モイの頭に幼い少女の声が響いた。

 さらに涙が溢れる。


 ノーマンは最初は目を見開いていたものの黙ってモイが泣き止むのを待ってくれていた。


 モイが泣き止む頃には目は真っ赤に腫れて、鼻もズビズビ音を鳴らしていた。


「汚いな、ほらこれで鼻をかめ」


 モイは渡されたハンカチでチーンと鼻をかむと、それを返そうとしてくる。


「返すな、そんなもの。洗って返せ」


「(ずびっ)」


「鼻で返事をするな」


 苦笑しながらノーマンは横の机に肘をつく。


「それでお前は一体エイガのどこが嫌いなんだ?さっきの発言が原因じゃないんだろ」


「ズズッ……」


 鼻をすすってムスッとしながら、モイは書いた黒板を見せる。


「誰とでもすぐに仲良くなるところ……そうか?」


 コクコクとモイは何度も頷く。


「エイガは確かに人懐っこいとは思うが……お前が言うほどそこまで得意ってわけでもないと思うぞ」


――失敗しても許されるっていうところが嫌いです。


「失敗しても?」


――だってエイガくん、クラスで何度失敗しても許してもらえて


「……」


――私は誰かと話すだけでエイガくんよりも人を不機嫌にさせる。エイガくんもよく人を怒らせることは一緒なのにその次の日にはまた戻せるのが……憎らしい


 その言葉でノーマンはふと違和感を感じた。

 パチンと手を鳴らしながら、モイを指さす。


「モイ、もしかしてお前エイガが嫌いなんじゃなくて嫉妬してるんじゃないか?」


 モイが大きく目を見開く。


「い、い……」


 混乱したように目をぐるぐると回しているが、大きく否定はしない。


「まぁそれはお前しか分からんな、若いんだしどれだけでも悩めばいい」


 そう言ったノーマンはニヤリと笑った。


「確認だが、じゃあエイガが悪いことしたとかそうじゃないんだな?」


 モイはコクリと頷いた。

 そして少し長めに黒板に書きつける。


「エイガくんには悪いことしたとは思ってます。あんなの正直八つ当たりだし……ってか」


 ノーマンが読み上げるとクスッと笑った。


「まぁそういう理由ならお互い理解していくしかないな、よかったよ。お前ら別々の家かなんかを用意しなくちゃいけなくなるのかと思った」


 唐突にそんなことを言い出したノーマンにモイが首を傾げる。


「だってよ、エイガ」


 そうノーマンが言ったのでモイは目を見開いて後ろを振り向いた。


 振り向いた先にあった扉の隙間が、ギギギと空いていき、その先にはぎこちない笑みを浮かべたエイガがいた。




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