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第17話 穴

 ノーマンは足早に帰路についていた。皮肉なことにアレーシアの魔族の処理の仕方はブリキと違って飛び散りにくい。

 そのため予定より早めに帰れることになったのだ。


「飯でも作るか、あいつらもまだ子供っちゃ子供だし」


 軽く買い出しをして、その足で家に向かうといつもより家から漏れる光が多い気がした。


「なんか違う?気が?」


 少し違和感を覚えながら、ドアを開けるとそこには大きく潰れた中庭が一望できる大穴が空いていた。

 随分と風通しの良くなった家を見てノーマンはあんぐりと空いた口が閉まらない。


「は?え?え?」


 ふとアレーシアが意味ありげに笑っていたのを思い出した。

あいつ……。


 ハッと思い出したように中庭を見る。黒い枯れきった植物が生えた花壇は運のいいことに壊れていなかった。


 ホッとしたのも束の間、また思い出したように2人を探す。

 すると壊れていない部屋の隅っこでエイガとモイが何故かお互いにそっぽを向いたまま体育座りをしていた。

 何もなかったわけがないと言わんばかりの空気だった。


「何があった」


 2つの意味を込めてノーマンはそう言った。


「モイにはたかれました、あと家がドラゴンに壊されました」


 そうエイガがモイを指差しながら言ったのを聞いて、モイも荒くこの国の言語で黒板に書き付けていく。


――エイガくんがクソ野郎なだけです、あと家はドラゴンが壊しました


眉をハの字にして、モイがエイガを指さす。


「おいおい」


ノーマンは頭を抱えて、一つの事件と一つの事故に頭を抱えたのだった。


 ノーマンはとりあえず夕飯を作ってくれた。

 メニューは具少なめのトマトスープと硬めのパン。そしてオーブンで焼いたチキン。


 味は美味しいし、家はなんとか応急処置を完了させ夜は過ごせそうだ。

 ただエイガとモイが一言も喋ろうとしない。


「今日お前ら大丈夫だったのか?」


 ノーマンが2人にそう聞けば


「はい」


コクリ


 そこから話が広がらない。

 人の機嫌なんて伺うのは何年ぶりだろう。


6年ぶり――いや10年ぶり……か?


 ふと自分が四天王になってからの年数を数えてみるがそんなことをしても目の前の状況が変わるはずがない。


 ノーマンはしょうがないかと言って立ち上がった。

 ノーマンに2人の視線が集まる。


「1人ずつ俺の部屋に来い」


 そう言ってノーマンは自分の部屋に引っ込んでいったのだった。


――――――


「――んで、何があった?」


 ノーマンの部屋はどこか薬草のような苦い匂いが充満していた。

 目の前の椅子に促されたエイガは浅く椅子に腰掛ける。


「モイが急に叩いてきたっす……」


「それはさっき聞いた。その前に何があった?」


「ノーマンさんが出かけていったあとなんでかモイに嫌いって言われて……なんでって聞いたら教えてもらえなくて……それで……」


 エイガはそこで言葉を止めてしまう。


「なんだ、それでモイが怒ったのか?」


「いや、あの……正直これは俺が悪かったと思うんすけどそんなんだから伊豆さんにいじめられるんだって言ったら、怒って――いやこれ俺が悪いっすよね……」


「いじめ?」


 ノーマンは眉間に皺を寄せた。


「モイっていじめられてるんっす、伊豆さんっていう女の子に。ほらあの聖女認定されてた人っす」


「いじめっ子が聖女か、随分面白い配役だったんだな、あの儀式」


 エイガは急に上目遣いをノーマンに使い出した。


「なんだ可愛くもない上目遣い使って」


「ちょーっと本音言っていいっすか?胸がむしゃくしゃするんで。怒らないでほしいっす」


「……いいぞ」


 するとエイガはスゥっと息を吸い込んだ。


「モイって正直喋らないし、無愛想だし、話しかけても怒ってる理由とか教えてくれないし……それを言ったのは悪いと思ってますけどそんなんだからあのクラスで伊豆さんに目をつけられるんだって……頭いいんでしょうよ?俺なんかより色々考えてるとは思うんすよ?でもでも普通人に直接理由も教えてくれないで嫌いって言ったり、馬鹿にしたり……これから一緒に過ごしていかなきゃいけないのにモイは自分の好き嫌い言うばっかで……モイだって悪いところあると思うっす!……俺性格悪いっすか?」


 ハァハァっと一気に言ったせいで息が切れているエイガを見て、ノーマンは髭の生えていない顎をさすった。


「お前の言い分はわかった。次、モイを呼んでこい」


「うっす……あでもそうは思ってましたけどモイとは正直仲良くしたいっす。俺よく人のこと怒らせるから何が駄目だったのか言ってくれないとずっと怒らせちゃいます……これから一緒に過ごすんだし仲悪いのは俺耐えられないっす」


 そうエイガは手遊びをしながらしょんぼりとそう言った。


「わかった、それはモイにもそれとなく伝えておく」


「あリがとうございますっす」


「あ、あとエイガ――」


 ノーマンはエイガに手招きすると、こっそり何かを耳打ちする


「え?」


 エイガはそれを聞いて驚いたように首を引っ込め、ノーマンを見つめた。

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