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第16話 嵐

 2人があっけにとられていると、場に不釣り合いな明るい声が聞こえた。


「やぁやぁ!元気かい君たち。」


 2人は心臓を飛び上がらせ、その場から飛び退る。

 二人で両手をつなぎながら部屋の隅で涙目になりながらその人物を目視で確認する。

 立っていたのは先ほどまでドラゴンに噛まれていたはずのアレーシアだった。

 その体にはどこにも噛まれたあとなんて空いていないし、服に砂埃すらついていない。


 その隣には先ほどアレーシアの横に漂っていた3体の人型の水の塊のうち一体がアレーシアの後で浮かんでいる。


 よく見ると顔までついていた。人間のような顔に爬虫類の眼ををすべて黒にしたような目がくっついている。

 水の精霊みたいなものだろうか。


「え、あ、え?大丈夫なんですか⁉」


 エイガがそう聞くとモイも手をつないだままコクコクと頷く。

 2人の手は小刻みに震えている。

 先程の光景を見てしまった以上二人はアレーシアが無事なのが正直しんじられないといったところだった。

 アレーシアはちょっとちょっととからかうように手を動かしながら笑った。


「まるで幽霊見たみたいな目やめてよぉ~あの程度で。私にとったらどちらかといえば君たちの方が幽霊に見えるんだけどぉ~アハハハハ」


「「(ガタガタブルブル)」」


「ちょっとは笑ってくれると助かるんだけど」


 二人は今度は心配半分、怯え半分でさらにぶるぶると震えている。

 アレーシアは困ったように眉を下げて、しばらく考えていたがふとアレーシアがにんまりと笑った。


「二人とも仲いいね~仲良く手なんて繋いじゃって」


 そう言われて2人は同時に自分たちの手を見た。

確かにつないである。

 不安からの無意識だったとはいえ、気が付いた瞬間二人同時にハッとして手を離した。


「……」


 お互いさっきまで喧嘩の途中だったので気まずくて黙っている。


「アハハ甘酸っぱいやーアハハ」


 くるくると上機嫌にアレーシアがその場でまわっているとふとアレーシアのの元に小さな小鳥が飛んできた。

 その鳥が回っているアレーシアの頭に止まる。

 まるでどっかのプリンセスみたいな光景だなとエイガが思っていると次の瞬間その鳥はアレーシアの頭にその鋭い嘴を刺す。


「いったぁぁぁ!?」


 アレーシアが地面にごろごろと頭を押さえながら転がる。

 どっかのプリンセスは幻だったらしい。

 2人は目の前の光景にただ呆然とすることしかできなかった。


「おいアレーシア!お前どこにいる!ドラゴンの死体をどうにかしろ!」


 鳥から聞こえてきたのはノーマンの声だった。


「の、ノーマンさんだ」


 昨日とはまた違った怒りがひしひしと声から伝わってくる。

 エイガは昨日の光景が脳にフラッシュバックしながらもその聞こえてきた声に何故かホッとした。

 しかしそれはそれとして可愛らしい小鳥の喉から流れてくるのがおじさんの声というのは中々に気味の悪いものである。


「うぅ怖い怖い、片付けは君がやってよ。僕はドラゴン倒すっていう偉業を成し遂げたんだからさ」


 アレーシアはうげぇと言って文句を垂れる。


「これはまだ幼体だから大したことないだろう!それに今日の討伐組はブリキだっただろうが!お前は今日、結界担当のはずだろう!」


「あーうるさいうるさい!」


 アレーシアは頭にかぶっていた魔女帽子のつばを掴んでぎゅっと深くかぶりしゃがみこんだ。


「行けばいいんでしょ、行けば!これだからおじさんは!」


「お前俺と同世代だろうが――」


「え」


 エイガは思わずそう声を漏らす。


「うるさいおじさん!」


 アレーシアが手を振ると水の精霊らしきものがその鳥をぽちょんと自分の体に取り込んでしまった。

取り込んだはずの鳥はもう体の中には見えない。


 アレーシアはエイガの声を聞き洩らさなかったようで、ずいずいとエイガに寄っていった。


「エイガ君、それはどっちのえ?かな?」


「どっちと申しますと??」


 詰め寄られて、エイガは手でそれを制そうとするが、それでもかまわずアレーシアは寄ってくる。


「私のこと若いって思ってたえ?それともノーマンと同世代ってことに対してのえ?」


「え、えーっと」


 どちらかといえば後者である。

 この人、若く見えるけどもしかしてかなり歳いってるおばさん――。


「返答次第ではさっきのドラゴンと同じ目に合わせるからね」


 さっとどこから取り出したのか、その手には銀色で、四芒星のモチーフがふんだんにあしらわれた美しい杖が握られている。

 ふと遠くに見えるドラゴンの串刺しを見てエイガはごくりと唾を飲み込む。


「若いなっておもいました!はい!」


 この返答であっているのだろうか。


 エイガが勢いでそう言えば、どうやら正解だったようでアレーシアは満足げに杖をしまった。


「そうかそうか、やっぱり私は美しいよね」


「いや、そこまで言ってな――」


「じゃあそろそろ向かうかな、アーニー、行くよ」


 アーニーと呼ばれたさっきの水の精霊みたいなものはモイの髪をいじっていた手を止めてアレーシアの傍へと飛んでいく。


「ではノーマンの弟子たちよ、死にそうになったら私に言うんだよ。ノーマンは怖いからねぇ」


 そう言ってふわりと体を浮かせるアレーシア。


「バイバイー」


 そう言って飛んでいったのを二人は眺めていたが、ふとエイガは視線を感じてそちらへと振り返る。

モイが黒板を持っていた。


――本当に異世界なんだ。ここ


 その黒板を見せるモイの瞳は先ほどとは違い不安そうに揺れていた。


「……うん」


 二人はそう視線を落としながら、ドラゴンが解体されていくのを遠目から見ていたのだった。



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