第14話 火種
き、気まずい……。
先程のモイの嫌い発言から早1時間、モイは部屋の隅で本を読みふけっており、エイガは特にすることもなく、勉強をする気にもなれなくてただボーっと天井を眺めていた。
ボーっとするついでにモイがどうして嫌い発言をしたのか思い当たる節を考えてみるが、見つからない。
いっそのこと聞いてみるか。
「ねぇモイ、俺なんかしたー?思い当たる節がびっくりするくらいないんだけど!」
突然大声をあげるのでモイは驚いて肩をビクリと揺らした。
また呆れたようにハァとため息をつくと、サラリと黒板に書きつけ、目線もやらずにこちらに見せてきた。
――そういうところ。
「えぇ」
本当にわからない。
――仲良くする気はないし、仲良くしようとしないでいい
「えぇ……」
「本当になんかした?俺」
プイッとそっぽを向いてしまい、エイガはハァとため息をついた。
「そんなんだから、伊豆さんとかにいじめられるんだよ」
ボソッと呟いたつもりだったが、どうやら聞こえていたらしい。
モイはみるみる顔を真っ赤にして、ダンと手に持っていた本を机に打ち付けた。
「ぁ……っが!」
初めてモイが声を発した。キッと細められた目でズカズカと音を立て、エイガの横たわるソファに近寄ってきたと思うと、パシンと乾いた音が響いた。
「は?」
モイはエイガの頬を思いっきりはたいた。
突然のことにエイガはポカンとしていたが、叩かれたのだと気がつくと、フツフツと怒りが湧いてきた。
「何すんだよ!」
思わず大声を出してしまい、ハッとするがモイはそれに言い返すように言葉にならない息を吐いた。
「ぅ……んか!ぉ……だ!」
「何なんだよ……理由を聞いても分からないのに嫌われるこっちの身にもなってくれよ!」
「っ!ンがぁ――」
モイが言い返そうとした瞬間空からバリィンとガラスが割れるような音がした。
「「!?」」
二人は同時に顔を上に向けるが次は中庭から重い衝突音が聞こえた。
「な、なんだ!」
「うっ……」
腰が抜けて動かないモイを横目にエイガは中庭が覗けるキッチンの窓へと走る。
エイガがそっと中庭を覗き込むと、そこにはぎろりとエイガの体の半分くらいあるヘビのような眼と目が合った。
「うわッ!!」
驚きすぎて後ろに尻もちをつくエイガだったが、その目玉は窓に近づき、雄たけびをあげる。
「キィヤァァァァァァ!!」
まるで金切り声のような鳴き声に耳を塞ぐ2人。
「……これってもしかして――ドラゴン?」
先程ノーマンが呟いていた言葉が頭で木霊する。
ノーマンがここにいろと言ったということはここは安全なはずだ。ドラゴンがいると言っていた東側ではないはず。
この国特有の普通の生き物だったり?
いいやそれならこんな大きな生き物、初日に見つかるだろ。
気持ちばかりの現実逃避も2回目の金切り声のような鳴き声でかき消える。
「ぃ……!」
悲鳴をあげているのかモイから空気が鋭く吐き出される音が聞こえた。
その瞬間2人の背に生存本能が語りかけてくる。
逃げろ、お前は被食者だと。
2人が恐怖のあまりその場から動けずにいると、壁がバリッと爪で破られ、ドラゴンの全貌が見えた。
2つのギロギロした目が2人を射抜き、口を開ける。
あぁ死ぬ。
2人が思わず目をつぶった時だった。
「おいおい君、入国を許可した覚えはないんだけど」
そんな凛とした声が聞こえ、ドラゴンの後ろから水の柱が起き上がる。
2人がおそるおそる目を開けるとそこには――
「アレーシアさん!?」
昨日の忘れもしない黒髪と青い瞳、昨日はつけていなかった大きな魔女帽子。
そこに現れたのは四天王の一人 、アレーシアだった。




