EP34異世界とうっかりと
市場の奥で田村・ララ・婦人が話し合い。
婦人は保護と契約を提案。
田村は市場に物資搬入を希望。
護衛と職員が派遣される事に。
田村がギルド証を持っておらず、仮発行へ。
婦人が田村の正体を深追いせず、ララも黙認。
ドクダミの鉢植えを田村が持参し、婦人も驚く。
市場には二人の女性が顔を見合わせていた。
市場の世話役、ララ。
商業ギルドのギルド長婦人。
ドクダミが植えてある植木鉢を掲げた田村。
長細い鉢植えに5株のドクダミ。
女性陣二人の様子を見て、田村は悟った。
・・・あ、これはまたやってしまった。
「ちょっと、田村、それどうしたの?」
ララは田村に尋ねた。
「・・・生えていたから、
鉢植えに入れて持ってきた。」
「貴重な薬草ではなかったのですか?」
今度は婦人が田村に尋ねる。
「・・・いや、そうでもないみたいですよ。」
他人事のように田村は答えた。
・・・現代の公園で取った雑草です。
・・・野草でどこにでも生えています。
・・・費用は一切かかっておりません。
いろいろと口では言えない秘密ごと。
固まる女性二人。
「・・・その~、育てるのも難しくないみたいで。」
「・・・水だけ与えれば、増えていくよ、たぶん。」
「・・・だから、ララでも育てられるかと。」
ララは首を横に振る。
「無理よ、そんな重要なもの、育てるなんて。」
すかさず、婦人が話に入る。
「商業ギルドでその草は育てます。」
ララはそれがいいと納得の様子。
思いがけず、商業ギルドのお世話になる事に
なってしまった。
「田村様、ではこちらのドクダミも
契約にいれさせて頂きます。」
わかりましたと今度は素直に同意した。
婦人は一度、商業ギルドで契約書を作る為、
大事にドクダミの苗を抱えて、帰っていった。
急に静かになる市場。
ララは自分の屋台の補修におわれる。
田村も手伝おうとした。
その時、市場の入り口の方から大きな荷車が
入ってきた。
ギィィ、ガタン、ギィィ、ゴトン、
と音が鳴り響き、大きな荷が見える。
何だあれはと、田村が見ている。
荷を引く見知った人影。
ドワーフのポンチョが懸命に荷車を牽いていた。
ポンチョが一歩を踏みしめる。
「フン!」
ポンチョの掛け声と重い足取り。
ギィィ、ガタン。
前に進む度に、荷車から壊れそうな悲鳴が上がる。
市場に残る者も物珍し気に近くに見に行く。
「なんだこりゃ?」
荷車にのる物を見て見物人から疑問の声があがる。
ポンチョは人だかりの隙間から田村を見かけると、
手を振ってきた。
その荷車を田村がいるララの屋台前で止めた。
「よう、田村。例のろ過機だ。」
そういって後ろの荷台を指さした。
ろ過機は思ったより、大きかった。
高さが2m程ある。
幅も腕を伸ばした程度なので、1.7~1.8mくらい。
正方形の形をした鉄の塊だった。
確かに土に書いた図面通りのできだ・・・。
・・・サイズ以外は!
そういえば、土に書いて説明はしたが、
サイズは書かなかった。
口では伝えたのだが・・。
・・・そうか、こうなるのか。
田村は内心深くため息をついた。
屋台の店主たちと総出で協力して、
何とか市場の隅にろ過機を置く。
とにかく重い。
絶対に一人では動かせない。
「すまん、遅れた。こいつを載せる荷車が
なかったもんでな、荷車から改造しとった。」
見ると、荷台の底が鉄板になっている。
重みに耐えかねて荷車が1台破壊されたとの事だ。
・・・なんかすまん。ポンチョよ。俺のミスだ。
・・・確かに図面を長いこと見ていたな。
・・・気付いてやれなくて済まんかった。
このデカいろ過機を今更、小さくしろとは言えず。
使ってみることにした。
まず、血抜きに使った水を煮沸する。
煮沸した湯からひどい匂いが辺りに漂う。
見物人もたちまちどこかへ散っていった。
その間に、また総出で小石を集めて、水洗いだ。
水で洗った小石をろ過機の最上部に投入する。
投入するにも踏み台が必要だ。
装置が巨大なので小石もそれなりに量がいる。
砂はポンチョが市場に来る途中、
わざわざ採ってきてくれた。
砂も洗って大きなゴミ、土などを避ける。
洗い終わった砂をろ過機の二段目に入れる。
最下部三段目には、
田村が家から持ってきた洗い済みのタオルと
ホームセンターで買った炭を崩し入れた。
準備が済むころには、血抜き水は冷めている。
水の下にはよごれた血と沈殿物がたまる。
水の上澄みは綺麗なので、
ザルを通してお玉で、ろ過機に掬い入れた。
ろ過機が巨大なので、地味に不便だ。
・・・だが、黙っておこう。
しばらくすると、下の出水口から水が垂れ始める。
皆で水を確認する。
水は綺麗だ、濁りもない。
水の匂いを嗅ぐ。
ほんのりと、血生臭い匂いが残る。
ララも水を確認する。
「血抜きで水を使うなら、
これで十分じゃないかい。」
店主達も同意見だった。
水の再利用計画が動き出した瞬間だ。
ポンチョも自分が作った物が、
役に立ちそうで一安心していた。
最後にもう一度煮沸するのだが、
水がたまるまで時間がかかるので、
その日はお開きになった。
田村は帰り道に考えた。
ララとの水の契約を果たすために、
異世界へ来ていたのが、
いつの間にか大変な事になってしまった。
ろ過機もあんな大きくて、
立派なものができてしまった・・・。
全ては田村のうっかりと気の緩みが招いた結果だ。
しかし、現代から持ってきた塩と水だけで、
街の住民の生活がかかる事態になってしまうとは。
田村は今後の異世界活動に責任を感じたのだった。
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