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 鶴鮨はこの辺りでは老舗の寿司屋で、先代から数えて創業五十年近くになるそうだ。ネタの新鮮さは当たり前だが、シャリの味加減が絶妙で、胃のなかへいくらでも入っていくというのが父康彦の弁である。

「いらっしゃい!」

店に入るなり鮨カウンターのなかにいた3人が一斉に声を掛ける。

「浩ちゃん!突然大人数で押しかけてすんませんな」

康彦が「浩ちゃん」と呼んだ3人の真ん中にいるこの店の主人安藤浩之にさほど申し訳なそうでもなく話し掛けた。

「いえいえ、たいして忙しいこともないから、康ちゃんやったら毎日来てもろうてもええで。そう言や、最近はご無沙汰やったよな。もっと顔出してもらわんとあかんで」

「そんなことしたら、痛風になって…。そうや、その前に破算するわなっ」

「康ちゃんとこが破算するんやったら、うちなんか店ごと売らなあかんで」

ふたりで訳のわからないことを言い合って大笑いしている。安藤浩之と康彦はまさに幼馴染で、小学校からの同級生である。

「で、今日は一族総出やね。おおきにありがとうございます。何からいきましょ?」

「こっちは面倒やさかい適当に浩ちゃんのお任せでしてもうて…、真理子はどうする?いっしょでええか?」

「うん、あたしもそれでええよ。えっと、彩夏の分は…」

真理子が子供用のカウンター椅子に座らせてもらってご機嫌な様子でいる彩夏の肩に手を添えると、彩夏は本格的な寿司屋が珍しいのか店内をキョロキョロ見廻している。

「康ちゃんとこのお孫さんやな?お名前は?いくつですか?」

安藤は満面の笑みを浮かべて彩夏に訊いた。「あやか。さんさい!です」

彩夏も微笑んで右手の指を三つ突き出して見せた。

「そっかあ、3歳やったらもう何でも食べられるなあ?」

「うん!」

彩夏は嬉しそうに頷いた。

「そしたら、おっちゃんがお魚いっぱいのちらし寿司作ってあげるからちょっと待っててな」

安藤は笑顔いっぱいで頷いている彩夏を見て、康彦と真理子がそれを承諾する意味で頷いたのを確認してから、カウンターのなかにいる二人の息子に3人分の刺身盛りを指示して、ちらし寿司の準備を始めた。

「冷酒一杯もらおうかな…」

康彦は芳江をチラッと見て微笑んだ。

「もうっ、1杯だけですよ。私たちはビールいただけますか?」

芳江は康彦を横目で睨んでから真理子の耳元で囁いた。

「最近家では日本酒呑ませてないから…」

「まあ、ええやないのたまには」

真理子も康彦のほころんだ顔を見てちょっと嬉しくなった。康彦はどちらかといえば酒自体強いほうだと思うのが、何故か日本酒には弱くてすぐに酔ってしまう。にもかかわらず大手酒造メーカーが量産している一般市販品ではなく、冷やで呑める地方酒造の地酒が好きなのである。そのなかでも特にお気に入りのフルーティな山形の純米酒〈出羽桜〉と生ビールグラスが2杯運ばれてくると同時に刺身の盛り合わせとちらし寿司も出来上がったようだ。

「はいっ!彩夏ちゃん!お待ちどうさん!」

「わっ!すごいっ。お魚いっぱい~っ」

小型の飯切り桶のような容器に色とりどりの切り身が通常より小さく切って盛られたちらし寿司が出された。笑顔でそれを見ながら康彦が声をあげた。

「久しぶりの家族みんなで外食やから、とりあえず乾杯っ!」

真理子はいまこの場所に克洋がいないことに寂しさを覚えながらも微笑みながらビアグラスを合わせた。


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